第3話


 そんな事を考えながら、僕が車の外を眺めていると、見覚えのある場所で景色が止まった。


 「憶えてるか?ここにタイムカプセル埋めたよな?十五年前に……」


 松木の言葉を聞き、僕は記憶を辿った……。



 あれは高校二年の夏休みだっただろうか?

 特にやる事もなく時間を持て余していた僕達が、松木の家でたまたま見ていたテレビ番組。

 そこで放送していた某夏フェスの映像。

 そんな事が僕等のスタートだった。


 バンドをやろうと言い出したのが誰だったのかは憶えてはいない。


 だが、僕等はその日の内に、楽器を始めるよりも先に、タイムカプセルを埋めようと言い出したのだ。

 それも誰が言い出したかは、憶えていない……。


 だが、十年後に開けようと約束していたのは憶えている。

 僕は子供じみていると反対した気がしたが、結局は埋める事になった。


 十年後の僕等に向けてのメッセージを……。



 あれから十五年……約束の時から五年も過ぎてしまった。

 思えば、五年前にはそんな事を思い出す余裕は無かった。



 「今日は開けようと思って来たんだ……。タイムカプセルを……」


 松木の言葉を聞いた僕は静かに頷いた。


 「良いのか?僕等だけで」


 僕は松木に確認する。


 「もう、全員揃う事は無いからさ……。開けないと……前に進めない気がする」

 「……そうだな」


 僕は頷いた。



  ◇  ◇  ◇



 僕と松木は、雑木林の様な場所に入っていった。

 本当は古墳らしい。


 目印にしていた大きな岩の前に立ち、僕と松木は目を見合わせた。


 松木は僕に「はい」と言って、小さなシャベルを手渡してきた。

 僕はシャベルを受け取った後に松木に再度尋ねた。

 こんなものを持っているという事は、思い付きでは無いのだろう。


 「本当にいいのか?僕達だけで」


 僕は再度確認した。

 実際は、自分に問うていた感もある。


 その言葉に対し、少し寂しそうな表情をした松木は静かに――


 「……伊崎には申し訳ないと思うけど、いつかはやらないといけない事だから……」

 「そうだな……」


 僕は、自分に言い聞かせるように頷いた。

 

 僕等は採掘作業に移った。

 と、言うほど大げさな作業ではない。

 だが、歳をとった僕等にはそれなりの重労働ではあった。



 思ったよりも簡単に対象物は見つかった。

 疲労感は別として、簡単にタイムカプセルを掘り当てられたので、逆に拍子抜けした程だ。


 思い返してみると、少しだけ、周りの土の色とは違っていたような気もしないでもない。


 コンビニのビニール袋に包まれ、その中からガムテープで厳重に包まれた四角い缶が姿を現した。

 松木も気が付いたかもしれないが、十五年も経っている割には、ガムテープの痛み具合が少なかった気がした。

 だが、そもそも、そんなに時間の経過したガムテープの状態を見た事が無いので、さほど気に留める事は無かった。


 松木は意を決した表情で、僕を一瞬見てから、ガムテープを剥がし、所々錆びた缶の蓋を開けた。


 中には、再びビニール袋。

 「マトリョーシカかよ!」と、少しその頃の幼さを感じ、俺と松木は微笑んでしまった。


 ビニール袋の中には、封筒が入っていた。


 「なんでこんなに厳重にガードしたんだろな俺達?」


 松木が僕に訊いてきたので応えた。


 「よほど大事にしたかったか、絶対に人に見られたく無かったんだろうな。正直……僕は恥ずかしかったし」

 「恥ずかしい事だったのかもな、俺は乗り気だった気がするけど」

 「乗り気だったよ確か。お前と伊崎が言い出した気がするし」

 「そうだった、そうだった。お前と新田は嫌がってたもんな」

 「あぁ、真剣に書いたかどうかも、何書いたかも憶えてない」

 「適当だなぁ……。俺は何書いたか大体は覚えてるぜ」

 「すげぇな。僕も今はそうしておけばよかった気もするよ。でも、……それなら何でわざわざ開けに来たんだ?」


 僕の質問に再び、松木は表情を曇らせた。


 「新田と伊崎が何を書いたのかって、気になってたんだ。あの二人はあの頃、十年後に何を見てたのか知りたくてさ」


 そう、僕達はお互いの書いた内容を知らない。

 それも、十年後に公開しあおうと約束していたのだ。

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