第25話 微妙な距離……

「あれ? ラルクとクリスさんはまだ起きてないのか?」


 朝飯を食べるために宿の食堂にやってきた俺をカズキとアリッサが出迎える、客は他に2人ほどいるが、見回しても仲間2人の姿はない。


「クリスはまだ寝てるみたいだけど、ラルクはさっさと食べてどこかに行ったわ、散歩じゃないの?」


 いつもと変わらぬクールな口調でアリッサがそう言った。


「そうか、まあ、まだ時間はあるからゆっくり食べるとするか」


 そう言って俺は席に着くと、朝食を食べ始めた。


 しばらくするとクリスさんがやって来た、食堂の入り口でキョロキョロ見回す彼女にカズキが手招きする。


「クリス、こっちこっち」


 クリスさんは俺たちを見つけると小走りに駆け寄ってきた。


「おはよう、みんな」


 クリスさんはそう挨拶すると空いている俺の隣――というかカズキの正面といった方が正しいか――に座る。


 ちなみに俺の正面にはアリッサが座っている。


 というか俺がここに来た時点でカズキとアリッサがいつものように隣り合わせで座っており、俺もまたいつものようにアリッサの正面に座ったからこうなっている。


 アリッサがいつもカズキの隣に座りたがり、俺はそのアリッサの向かいに座るというのがパターン化しているのだ。


「どうしたのリューヤ?」


 俺がアリッサの顔をじっと見つめていると、アリッサが首を傾げながら尋ねてきた。


「いや、なんでもねえよ」


 答えながらこいつが俺の気持ちに気づくことなんて一生無いんだろうなと少し悲しくなる。


 アリッサは美人だ。


 整った顔立ちに、短い赤い髪の毛、スッと通った鼻筋、綺麗な瑠璃色を湛えた字切れ長の瞳に長いまつ毛、スレンダーだが出るところはしっかりと出ているという理想的な体型、そして長い脚。


 見た目だけなら文句なしの美少女だ。


 だが、その性格はキツく心を許す相手は少ない。


 そのアリッサが好意を持っている相手はカズキだ、詳しいいきさつに関しては俺は知らないのだが、学校で孤立していたアリッサに対して優しくしたのがカズキだったという。


 それ以来アリッサはカズキに惚れている。いや、惚れているというレベルではなくアリッサはカズキに対して崇拝に近しい感情を抱いている。


 そして、カズキはというと、アリッサのことは嫌いではないと思うのだが、恋愛対象としては見れていないようで、アリッサのアプローチに気づかずにスルーしている。


 つまり、俺→アリッサ→カズキの一方通行というわけだ……。


 しかし……。


 と、俺は顔を上げてカズキに視線を向ける。


「クリスは朝弱いの?」


「べ、別にそんなことはないけど、昨日は色々あったから疲れちゃって」


「ああ、それもそうか、大丈夫、よく眠れた?」


「それは大丈夫よ、心配してくれてありがとう」


 と、そんな感じでカズキとクリスさんが会話をしている、その二人の間に流れる雰囲気はなんというか穏やかで、他人が入り込めないものがあった。


 ……これは、カズキのやつ、完全にクリスさんに惚れたな……。


 そして、クリスさんのほうもまんざらでもないと見た。


 そのまま俺はアリッサに視線を移す、アリッサはただ黙々と料理に口をつけていた。


 その態度だけでわかる、間違いなくアリッサは不機嫌になっている、まあ当然と言えば当然か、昨日まで想いは一方通行とは言えカズキの隣にいたのはアリッサなのだから。


 アリッサは俺の視線に気づいて一瞬目を合わせるが、すぐに目を逸らすと食事を再開した。


 はっきり言ってカズキとクリスさんがくっつくのは俺にとってはラッキーとも言える、なぜならアリッサの恋が叶わない、それはつまり俺にもチャンスがあるということだからだ。


 しかし、俺はアリッサには幸せになって欲しいと思っている、そしてアリッサの幸せとはカズキと結ばれることだと思っている。


 だから、俺はアリッサが失恋して落ち込む姿を見たくないと思っている。


 俺はアリッサを不幸にしてまで自分の欲望を叶えたいとは思っていないからだ。


 とは言え、当然のことながらカズキにもクリスさんにもそれぞれ幸せになって欲しいとも思っている。


 ……優しいんじゃなくて、我儘で欲張りなんだよ……


 誰かに対して俺はそう言っていた、それは誰だったのだろうか?


 忘れてしまった夢と関係があるのかもしれないが、やはり思い出すことはできなかった。


 そんなこんなでカズキとクリスさんにとっては楽しい、俺とアリッサにとっては少しだけ辛い朝食の時間は静かに過ぎて行ったのであった。

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