第2章
第24話 夢の中で……
「あなたはどうしてあの時ラルクさんとアリッサさんのように言えなかったのですか?」
誰かが俺――リューヤ・ヒオウの意識の中に語りかけてくる。
俺は目を開けて声の主を見る。
しかし、シルエットになっていて、顔はよく見えない。
ただ声の感じから若い女――というか少女だということがわかる。
「誰だ?」
俺がそう尋ねると、彼女は淡々とした口調で言う。
「私が誰かなんてどうでもいいことです、それより私の質問に答えてください」
「と言われても、意味がよくわからないんだけど……」
困惑気味に返す俺に対して、彼女はさらに続ける。
「アリッサさんとラルクさんは言いました、世界よりもカズキさんこそが大切だと、カズキさんを犠牲にしてまで守るべき世界など存在しないと」
「……」
俺は沈黙する。確かに昨日そう話していたのを覚えている。
「しかし、あなたはカズキさんとは最も近しいはずの幼なじみであるにもかかわらず、お二人の言葉に同調しませんでした、なぜですか?」
「そ、それは……」
俺は口ごもる。確かにアリッサとラルクはカズキを救うためなら世界などどうなっても構わないと言っていた。
しかし……
「……俺は、あいつらみたいに割り切れない、世界とカズキの命、どっちかを選べと言われて迷わずカズキを選ぶことは……できない」
俺は絞り出すように言った。
「そうですか、つまりあなたはカズキさんよりも世界の命運の方が大事だと思っているのですね。他の方と同じように、カズキさんの親友なのに」
少女は淡々と言ってくる。その言葉に俺は思わずカッとなる。
「そうじゃない!!」
思わず大きな声で叫んでしまうが、少女は一切動じなかった。俺はさらに言葉を続ける。
「そうじゃ、ないんだ……。カズキは俺にとって大事な親友だ、それは間違いない、だけど……、だけど……」
俺は言葉を詰まらせる。何を言えばいいのか、何を伝えればいいのかわからなくなってしまった。そんな俺を黙って見ていた少女は静かに言った。
「あなたは世界の事も愛しているのですね。そして、カズキさんの事も。だから、世界とカズキさん、どちらかを選べなかった」
「……ああ、そうだ」
「なるほど……あなたは、優しいのですね」
「優しい? 優柔不断なだけさ」
俺は自嘲気味に言う。しかし、少女は首を振ると、ほんのわずかだが口元に笑みを浮かべて見せた。
「いいえ、あなたはとても優しいですよ。世界という言い方をしていますが、要するにあなたはたとえ見ず知らずの人であっても命が失われることを厭うのでしょう? それはとても優しい心だと思います」
「やめてくれ……俺はそんな大層な人間じゃない」
「その気持ち、いつまでも持ち続けられますか?」
ハッと少女から逸らしつつあった視線を戻すと、少女は真っ直ぐに俺を見つめていた。
その目は真剣そのもので、俺は思わず息を飲む。
「これから先、あなたを待つのは苦難の道。それでも全てを救いたいのであれば、その想いを忘れないでください、そして私の元に……む?」
少女はそう言うと、急に視線を虚空へと彷徨わせた。
「この気配……奴の? まさか、私の存在に感づかれた……!? いや、違いますね、おそらくは『魔王』の監視に来ただけ……」
「お、おい?」
急に虚空に向かって独り言を呟き出した少女に俺は動揺する。しかし、少女はそんなことは気にも留めずに俺にこう言い放ったのだった。
「申し訳ありません。奴の目がある以上今後はあなたに干渉することは出来ません、私は私で動きます」
そう言うと少女は踵を返して歩き出した。俺は慌ててその背中に声をかける。
「待ってくれ! あんたは一体誰なんだ? そして奴とは……」
「私を見つけ出してください……それだけが全てを救える唯一の方法……魔……次……破壊……」
少女の声が徐々に遠くなっていく、俺は必死に手を伸ばし少女に呼びかける。
「ま、待ってくれ、君はもしかして、『デスティニーブレイカー』なのか!?」
その言葉を聞いた途端少女は振り返る、大きく開いた瞳には驚愕と、何故か失望の色が見て取れた。
『あなたも、そうなのですね……』
少女の口がそう動いたような気がした。しかし、その声は俺の耳に届くことなく彼女は闇の中へと消えて行った。
同時に俺の視界を光が包み込み、俺は意識を失った。
「朝か……」
目が覚めるとそこは宿屋のベッドの上だった。
どうやら昨日の疲れでいつの間にか寝てしまっていたようだ。
何か夢を見ていた気がするが、内容は覚えていない。
大事なような、そうでないような……そんな曖昧な感じだった。
まあ、いいか、夢は所詮夢だ。
俺はそう割り切ると身体を起こす。
窓の外を見るとまだ日が昇ったばかりのようで、薄暗い空が広がっている。
さて、今日も元魔王の居城への洞窟に挑戦するために出掛けなければな。
今日は昨日までと違ってクリスさんもいるんだ、きっと大丈夫、いや、絶対に何とかなるはずだ。
俺はそう考えてベッドから起き上がると、身支度を整えて部屋を出た。
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