第21話 見えてきた希望!

 雑談が一通り済んだ頃、ラルクくんが口を開いた。


「さて、そろそろこれからについての話をしようか」


 いつものように軽い調子で、しかしどこか真剣な様子で言うラルクくんの言葉に一同が頷きを返す。


「では、仲間になったばかりのクリスもいることだし、とりあえず現状についての整理から始めようか。というわけでリューヤ、頼むよ」


「え? 何故俺が……」


 突然話を振られて戸惑うリューヤくんに、ラルクくんがニヤニヤしながら言う。


「君がちゃんと現状を把握できているかの確認も兼ねてね」


 それを聞いてリューヤくんがムッとする。


「馬鹿にしとんのか……。まあいいけど」


 そう不満げに唇を尖らせるリューヤくんだったが、小さく息を吐くと姿勢を正した。


 そして、先ほどラルクくんが言っていたように、現状についての整理を始める。


「俺たちの目的は魔王の魂を祓うかなにかして、カズキを救うことだ、今カズキは大神官シルフィア様の力で魔王の力を封印されている状態なんだ」


「シルフィア様ってあの?」


 リューヤくんの言葉を遮るようで悪いと思ったけど、聞き覚えのある名前にわたしは思わず声を上げてしまった。


 大神官シルフィア様といえば、聖ショファン教会のトップにして、世界最高の癒しの力を持つと言われるお方だ。


 勇者であるわたしですら直接会ったことはなく、遠目にお姿を拝見したことがあるだけ。それほどの大物である。


「ああ、聖ショファン教会のシルフィア様だよ」


 話の腰を折られた形であるにもかかわらず、気分を害した様子もなく答えてくれるリューヤくん。


 やっぱり……それにしてもカズキくんたちがそんな凄い人と関りを持っていたなんて……。


 思わず感嘆のため息を漏らしてしまうが、考えてみればカズキくんの中に巣くうのはあの魔王だ、教会やシルフィア様がカズキくんを放っておくわけがないか。


 あれ……? でもちょっと待ってよ……それはつまり……。


 ふと、わたしの脳裏にとある疑問が浮かぶが、それが完全に形を成すより早くリューヤくんが話を続けた。


「とにかく今は魔王の力は封印されている状態だが、その封印はいずれ解ける。3年は安全が保証されているらしいが、それまでになんとしてでも魔王の呪いを解かないと、魔王は完全に復活してしまう」


 そこで言葉を切ると、リューヤくんはグラスに入った水を飲み干す。そして、そのまま続ける。


「魔王が復活すれば、今までの魔王の呪いを受けた人たちと同じように、カズキは身も心も魔王と化し世界に牙を剥いてしまうだろう」


「私は世界なんてどうでもいいわ、重要なのはカズキがカズキでいられるかどうかよ」


 そう横から口を挟んできたのはアリッサだ、のことを大事に思っているのはわかるけど、世界なんてどうでもいいとは実に彼女らしい発言だ。


 アリッサの言葉を切っ掛けに、ラルクくんが口を開く。


「僕もアリッサに同意だね、世界なんてどうでもいいんだよ。大切なのはカズキが幸せに暮らせる世界を作ることさ」


 そう語るラルクくんの表情は彼に似つかわしくないどこか熱っぽさを含んだものだった。


 うん? 飄々としてつかみ所のない性格のラルクくんが、こんな表情をするなんて珍しいな。


 幼なじみか……彼もやはりカズキくんには並々ならぬ思い入れがあるんだろう。わたしにはそういうのはいないから、その感覚と言うのはいまいち掴み切れないけど……。


 ただの友達とか親友ともまた少し違う、どちらかと言えば家族に近いのだろうけど、それともまた別の関係……。


 ではカズキくんのもう一人の幼なじみはどうなのかとリューヤくんに視線を向けると、彼は目を閉じて少し何かを考えているようだったけど、それはほんの一瞬ですぐに目を開けわたしの視線に気づくと話を再開する。


「ともかく、カズキの封印が解ける前に魔王を滅ぼさなけりゃ、誰にとっても不幸な結果になるのは間違いない、とここまでが前提の話だ。それでここからが本題で、そんなわけで俺たちはカズキを傷つけずに魔王を滅ぼす方法を探してるわけだ」


 とここで一旦言葉を切りため息をつくと、


「しかし、そんな方法そう簡単に見つかるわけがない、そもそも1000年前から繰り返されてる呪いを解く方法なんて本当にあるのかさえ怪しいからな」


 そう続け肩をすくめる。


 もっともな言葉だった、魔王の呪いがそう簡単に解けるのならば、とっくに誰かが解いているはずだ。


 きっと今までだって魔王の魂の継承者となった人の近しい人達がなんとか継承者を元に戻せるように努力してきたはずだ。


 だけど、結局はダメだったからこそ、今も魔王の呪いは継続しているのだ。


 そう考えるとわたしも暗澹あんたんたる気分になってくる。


 しかし、そんなわたしの気持ちを察したかのようにリューヤくんの話は続く。


「そこで俺たちが希望を見出したのがデスティニーブレイカーの伝説だ、いつか必ず現れるというこの世界の呪われた運命を打ち砕く救世主」


 なるほど、そこでデスティニーブレイカーを探すという話に繋がるわけね、確かにわたしもさっきはデスティニーブレイカーを見つけることが出来ればカズキくんを救えると思ったけど、冷静になって考え見ればそれは希望とすら呼べないようなただの夢物語だと思ってしまった。


 だってそうだろう、デスティニーブレイカーは『いつか必ず現れる』とかいう不確定な存在なのだ。


 それが今現在存在しているかどうかすらわからない、もしかしたらもっと遠い未来に誕生するのかもしれない、そんなあやふやな可能性にすがるだなんて、正直馬鹿げていると感じてしまった。


 そんなわたしの心境が顔に表れていたのか、リューヤくんはこちらに視線をやりふ……と小さく笑ってから続ける。


「デスティニーブレイカーの伝説はこの世界の誰もが知ってる、けど誰も本気にはしていない、伝説は所詮伝説に過ぎないんだ。――俺たちもそう思っていた」


 そう言うと、リューヤくんは再びグラスの水を口に含む。そして、再び口を開く。


「だけどな、これは極秘事項なんだけど、つい最近遺跡から発見された石版にはデスティニーブレイカーの予言の続きが載っていたらしいんだ」


 そのリューヤくんの言葉に、思わずわたしは息を飲む。


 そんな石板が発見されていたなんて話は全く知らなかった、けど、彼らはシルフィア様と繋がりがあると言っていた、それならそういう情報も入ってくるのだろう。


 だとしたら、その信憑性はかなり高いという事だ、その内容如何によっては……。


 わたしは鼓動が早くなるのを感じつつ、リューヤくんの次の言葉を待つ。


「それは、デスティニーブレイカーの出現時期に関する一節だったんだ。その内容を要約するとこうなる『魔王の呪いが発動してから1000年の後、世界の運命を変える存在が現れる』」


「魔王ギフティガのオリジナルが倒されたのが今から1030年ぐらい前、呪いの発動を2代目の魔王の出現と解釈してもすでに1000年は経過していることになる」


 リューヤくんの説明を補足するように、カズキくんがそう続ける。


 さらに心臓がドクンとなり、わたしの鼓動が早くなる。


「つ……つまり、デスティニーブレイカーが現れる条件は整っているということね!」


 それは大きな希望だった、わたしは興奮気味に言う。


 それに対してカズキくんは静かに頷き、ダメ押しとばかりにアリッサが続けた。


「デスティニーブレイカーの予言を残した古の大賢者デイタの予言は今まで外れたことがないと言われているわ」


 その言葉で、わたしのテンションは一気に最高潮に達する。


 だってそうでしょう!? 今まで何度やってもダメだった魔王の呪いを解く方法、それがとうとう見つかったかもしれないのだ!


 こんなの興奮しないほうがどうかしている!


 そんなわたしに対してリューヤくんがニッと笑顔を見せながら言った。


「希望が出てきただろ? そこで俺たちはデスティニーブレイカーを探すことに目標を定めたってわけだ」


「ま、広いこの島でどこにいるともわからない相手を探すって言うのは大変な作業だけどね……それでさっきみたいにたまに弱気にもなったりするわけだけど……」


 そう言ってカズキくんが苦笑する。


 そうか……それがさっきのわたしに自分を殺させようとした一件へと繋がってしまったわけね……。


「カズキ……あなたの良くないところはそういう自虐的なところだと思うわ、もっと前向きに物事を考えていきましょうよ」


「わかってるさ、アリッサ。さっきみたいなことはもう言わないよ、クリスを……泣かせたくはないしね」


 そう言って、カズキくんは爽やかな笑顔と共にわたしにウインクしてきた。


 もう……また……この人は……。


 わたしは顔が火照るのを感じながら、思わず俯いてしまうのだった。


 いけないいけない、このままじゃわたし完全にカズキくんにやられちゃう……。


 なんか別の事を考えよ、別の……。

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