第15話 困惑、勇者の何がいけないの……?

「やっぱり……」


 呟きカズキくんが、俯く。


「メッシーナ……まさか……」


 アリッサさんが、まるで信じられない言葉を聞いたかのように呟く。


「おい、嘘だろ……」


 リューヤくんも動揺しているようだ。


 ラルクくんは表面上は驚いた様子は見せていないが、ほんのわずかだけ表情を固くしているように見えた。


 わたしはそんな彼らの様子を不思議に思った。

 そりゃ、勇者の家系の苗字を名乗れば驚くのは当然だろうけど、それにしたってこの反応は異常すぎない?

 なんかまるで敵でも見るかのような目つきをしてるし……。

 勇者に向ける視線というより、それこそ魔王か何かに向けているような……そんな感じだった。


 わたしがそんなことを考えていると、いち早く気を取り直したらしいアリッサさんが恐る恐ると言った感じでわたしに尋ねてきた。


「確認したいんだけど、メッシーナってあのメッシーナ家かしら? 勇者の……」


 アリッサさんはわたしをじっと見つめて言った。その視線には敵意が籠っているように感じる。


 わたしは彼女の問いに小さくうなずいて答える。


「ええ、わたしの祖先は原初の勇者アーク・メッシーナでわたしのお父さんは先代魔王を倒したホーク・メッシーナ、わたしも一応勇者でその力を持ってるわ」


 その返答に、アリッサさんはさらに険しい表情になった。


 わたしはなぜ彼女がそこまで不機嫌になるのか理解できなかった。

 確かにさっきからアリッサさんはわたしに敵意らしきものは向けてきていた、しかしそれはあくまでも仲良しグループに入り込もうとする異物に対してのものであって、こうなんというか……殺意みたいなものまでは感じなかったのだ。

 それなのに今の彼女は明らかにわたしに対する負の感情を隠そうとしていない。


 苗字……というか、勇者を名乗ったことが原因であることは推測できるのだけど、一体どうして……?


 すると、今度はリューヤくんが口を開いた。


「なんで……勇者なんかがこんなところに……?」


 静かな口調の中に何か恐ろしいものを感じた。


 わたしは思わず一歩後ずさった。


「そうよ、どうしてあんたがここにいるのよ!?」


 アリッサさんのヒステリックな声が響く。

 さっきまでの冷静な口調とは打って変わってかなり感情的になっていた。


 わたしはそんな彼女の様子に気圧されながらも何故ここまで嫌われているのかわからず困惑するばかりだった。


「アリッサ、落ち着きなよ。クリスさんが困ってるじゃないか」


 そんなアリッサさんに対して宥めるようにラルクくんが語り掛ける。


 しかし、アリッサさんは彼に顔を向けるとキッと睨みつけた。


「落ち着け? あなた何を言ってるの、これが落ち着けるわけないでしょ! こいつは私たちのて……」


「アリッサ!」


 わたしを指差し何事かを言いかけたアリッサさんを、ラルクくんがその名を強く呼ぶことで制した。


 その迫力によるものか、あるいは自分が何を言おうとしたのか自覚したのか、アリッサさんはハッと目を見開き、俯いてしまった。


 わたしはアリッサさんの言葉の続きが気になったが、ラルクくんがそれを遮ってくれたことにホッとする。


 そして、わたしはラルクくんに感謝の気持ちを伝えるべく視線を向けた。


 その瞬間ゾクリと寒気を感じる。


 ラルクくんは笑っていた。しかし、その笑みはどこか空虚で、そして、冷たい笑みだった。

 何故かわからないが、ラルクくんの笑みを見て恐怖を感じてしまったのだ。


「それで、どうして勇者の子孫である君がこんなところにいるのかな?」


 そう言った彼の声は先程までと違ってとても冷たかった。


 わたしはそんな彼に対して、少し怯えながらもなんとか答えた。


「わ、わたしのっ、お、お父さんが、先代魔王との戦いで力を使い果たしちゃったから、その……わたしが代わりに魔王を倒してくれって、国の偉い人から頼まれたのよ……」


 わたしは震えながら言葉を紡ぐ。


「なるほど、つまり君は今代の魔王を倒すため、いやこの町に来たというわけだね」


 彼の言い様にわたしは言葉に詰まる。


 殺すって……確かにそういうことになるけど、わざわざ言い直さなくてもいいじゃない……酷く嫌な感じだ。

 勇者として当然のことをしようとしてるだけなのに……なんでそんな風に言われなきゃいけないのよ……。


「そ、そうよ、悪い? 」


 わたしはムッとしながらそう返す。


 すると、ラルクくんは微笑みながら首を横に振った。


「悪くはないよ、悪くは……。むしろ立派な事さ、勇者としての使命感に燃えている。だけど、いや、だからこそ……」


 静かな口調で言いながら彼はゆっくりとこちらに近づいてくる。


 わたしは、その言葉にそら恐ろしさを感じて反射的に後ろに下がった。

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