第14話 お互いを知るのって大事よね?

 いつ町人が戻ってくるかもわからない場所でのんびり話をするわけにもいなかないということで、わたしたちは町はずれまでやって来た。


「さて、それじゃ自己紹介を始めようか? オレに関しては酒場で自己紹介したけど、まずは、言い出しっぺのオレからってのが筋だし、あの時は名前名乗ったぐらいだったし、改めてしようかな?」


 そう話を切り出したのはカズキくんだ。

 名前だけではなく彼の詳しいプロフィールも知りたいと思っていたのでわたしはコクリと首を縦に振る。

 すると、彼は満足そうに笑みを浮かべつつ口を開く。


「オレは『カズキ・トーライ』年齢は15歳、ここにいる三人とパーティーを組んで冒険者をやってて、一応リーダーなんかをやらせてもらってる」


 なるほど、さっきのやり取りでも薄々感じてたけど、やっぱり彼がこのパーティーのリーダーなのね……。


 しかし、ぱっと見だけでもわかるあの個性的なメンバーをまとめるのはなかなか大変そうねぇ……なんて思いながらわたしは話の続きに耳を傾けた。


「オレは基本的に剣士で剣をメインの武器にしてるけど、術も一通りは使える」


「一通り? 回復や補助系の術なんかも?」


「ああ、自分で言うのもなんだけど、オールマイティーにこなせると思うぜ? もちろん、専門家には劣るけどね」


 そう言って肩をすくめる彼にわたしは思わず感嘆の声を漏らす。

 正直言ってここまで何でもできるとは思ってなかったからだ。


 なんでもできちゃう人って本当にいるんだなぁ……しかも、さっき見せてもらった通り剣士としてはあんな大怪獣を一撃で倒してしまうほどの腕前の持ち主なんだから……。


 わたしがそんなことを考えている間も自己紹介タイムは続く、次に口を開いたのはリューヤくんだ。


「次、俺でいいよな。俺は『リューヤ・ヒオウ』年齢はカズキと同じく15、つーか、俺たちは全員15歳だ、元は学校のクラスメイトだから当然と言えば当然だな」


 クラスメイトか、なるほど、仲が良さ気なわけね。


 とはいえ、いくら仲良しのクラスメイトだからと言って、一緒に組んで冒険者をやってるなんて、普通とは思えない。きっと何か深い事情があるのだろう。


「俺もカズキと同じで前衛タイプだけど、俺の方は素手での格闘戦を得意としてる。カズキみたいになんでも出来るってわけじゃないが、その分接近戦ではカズキにも負けないつもりだぜ」


 そう言ってニッと笑う彼の表情は自信に満ち溢れていた。


「偉そうなこと言ってるけど、実際はビビリでヘタレで肝心なときには役に立たないから気をつけてね」


 わたしの印象を打ち砕くようなことを言いながら一歩前に出てきたのはアリッサさんだ、リューヤくんはその言葉にムッとした顔を見せるが特に何も言わなかった。


 なんか、アリッサさんって結構毒舌なんだな……。

 クラスメイトで信頼関係があるからこその言葉なのだろうけど、それにしたってかなり辛辣な気がする……。


 少なくともわたしは、たとえ仲が良い友達相手だとしてもこんな言葉は言えないだろうなぁ……。

 わたしはそう思ったが、顔にも口にも出さないように気をつける。ともかく、その流れで次はアリッサさんの自己紹介が始まる。


「次は私の番ね。私の名前はアリッサ、『アリッサ・スィートニー』、私は説明するまでもないと思うけど、術士よ」


 え? それだけ……もっとなんていうかこう、なんかあるんじゃないの?


 しかし、そんなわたしの考えをよそにアリッサさんはわたしに冷たい視線を向けているだけだった。


 なんかまるで「私はあなたとなんか仲良くする気はありません!」とでも言っているかのようだ。


 いいわよ、わたしだって別にあんたなんかと仲良くなりたくないわよ! わたしも負けじと睨んでやった。


 バチバチッとわたしたちの間に見えない火花が飛び散る。


 打ち解けるために自己紹介をし合おうという話だったのに、なんでいきなり険悪な雰囲気になってるのか……。


 そう自分に呆れるわたしだったが、こうもあからさまな敵意のようなものを向けられてニコニコしてられるほどわたしはできた人間ではない。

 彼女にどんな事情があるかは知らないが、売られた喧嘩を買うぐらいの気持ちでわたしは彼女の視線を受け止めることにしたのだった。


 そんな火花を知ってか知らずか、次に口を開き自己紹介を始めたのはラルクくんだった。


「僕は『ラルク・ストリーム』アリッサと同じ術士だけど、アリッサほどは強くないんだよね僕は、僕はパーティーの知恵袋って感じかなぁ」


 そう言ってヘラリと笑う。


 なんか掴み所がない人だなぁ、でも、なんだろう、笑顔をみせているけどその瞳の奥は笑ってないような気がした。


「そりゃアリッサと比べりゃなぁ……そうやって自分の実力を低く見せてるつもりかもしれねーけど、実際、お前が一番頭が切れるし色々考えてるだろ? お前の作戦で何度窮地を脱したことか……」


 リューヤくんが呆れたような顔でそう言うのだが、それを聞いてもなおラルクくんは笑顔のまま、そして口調も変わらない。


「あはは、買いかぶりすぎだよ、そんな風に持ち上げられて、もしいざという時に活躍できなかったら物凄くダサいじゃないか、だからみんなには内緒で色々と準備してるだけだよ」


 なんだかよくわからないけど、つまりは自分の能力を過小評価することで周りからのプレッシャーを避けているってことなのかな?


 あるいは、敵を油断させるためなのか……うーん、どうもこっちの方が正解っぽいわね。


 ともあれ、これでみんなの自己紹介が終わり、みんなの視線がわたしに集まる。


 今度はわたしの番というわけね。


「えーと、それじゃわたしね、わたしは……」


 と、一旦言葉を止め、またわたしは少し考える、いつもの苗字を名乗るべきかどうかの悩みだ、カズキくんとの名乗り合いの時はお互い苗字を名乗らなかったから誤魔化せたけど、今回はそうはいかない。


 どうしよう……と、わたしが悩んでいると、アリッサさんが口を開いた。


「ねぇ、クリスさん、あなたはなんていう名前なのかしら?」


 微妙に変な言い回しだけど、要するにこれは「フルネームを教えて」と聞いているのだ。


 ここで「クリスです」とだけ答えるのは不自然極まりない、それはわかっている。


 ま、いいか、言っちゃえ言っちゃえ、どうせ少し驚かれるくらいだし、問題ないわよ。


 わたしは覚悟を決めると口を開いた。


「えっと、わたしは……クリスティーナ・メッシーナ……」


 わたしがメッシーナという苗字を言った瞬間、その場にいた全員が凍りついた。

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