第10話 この人タイミング良すぎない?
「ア、アリッサ……」
ガクッと膝をつくリューヤくんの声が耳に届く……。
しかし、その時だ、わたしの耳に上方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「二人とも、ちょっと油断しすぎなんじゃないのか?」
ハッと顔を上げてそちらに目を向けると、見覚えのある全身黒づくめ!!
パンパカパーンとファンファーレでも鳴り響きそうな、そんな光景だった。
「カ、カズキ!」
リューヤくんが彼と、その腕にしっかりと
それに呼応するように、今度はアリッサさんが嬉しそうな声を上げた。
「カズキ!!」
良かった、無事だったんだ……本当によかった……!
仲間どころか知り合いですらないのに思わず涙ぐみながらホッと息を吐くわたしの視線の先ではカズキくんがふわりと地面――アリッサさんの帽子が落ちた場所のすぐそば――に着地し、アリッサさんをそっとその場に立たせていた。
そして、落ちていた帽子をひょいっと拾うとアリッサさんにそっと被せてやりながら、
「トレードマークは大事にしないとな」
と二ッと笑いかける。
「あ、ありがと……」
顔を赤らめ深く帽子を被り直しながらアリッサさんは小さくお礼を言う。
そんな彼女に満足そうにうなずくと、
「どういたしまして」
ともう一度笑顔を見せた。
……そのやり取りに何故かわたしの胸がちくりと痛む。
これって……嫉妬……? ちょっといいなって思った男の子に連れの女の子がいて、その子となんだかとっても親しそうなやり取りを繰り広げているのを見て、ちょっぴり寂しくなっちゃった……みたいな、そんな感じ……? うぅ、なんかすごく恥ずかしいかも……。
「カズキ、お前遅れて出てきて良いとこ持ってきやがって!!」
「オレが出遅れたの誰のせいだと思ってるんだよ。勝手に一人で突っ走って……。オレは町人の避難の手伝いをしてたっていうのにさ……」
「うっ、そ、それは……」
嫉妬交じりの口調でそう悪態をつくものの即座に返され口ごもるリューヤくん。
どうやらカズキくんは、さっきの怪獣の攻撃で被害を被った町の人たちを助けようとしていたらしい。
それで到着が遅れたと……なるほど……そういう事情があったのか……。
「まぁ、いいけどね……こうしてみんな無事だったわけだし……」
そう言ってリューヤくんに笑いかけるカズキくん。そして、彼はすぐに真剣な表情を作ると彼の登場にどこか動揺したように動きを止めている怪獣を鋭く睨みつける。
「さて、と。それじゃ、さっさとあの怪獣を倒してしまおうか。アリッサ、君は下がってて。またレーザーみたいな攻撃を撃たれたら困るからな」
カズキくんがそう言うと、アリッサさんは素直に頷いて数歩後ろに下がった。
「うん、分かったわ……気を付けて……」
「ちぇっ、俺が同じこと言ったらこんな素直には言うこと聞いてくれないくせに……」
リューヤくんはブツブツ文句を言いつつ、カズキくんの横へと並ぶ。
「あれ? お前も戦うの? もうオレに任せてくれてもいいんだぜ?」
意外そうな顔をしつつ少しからかうような口調で言うカズキくんに、リューヤくんはムッとして言い返す。
「お前にばっか良いカッコさせないってね……。それに、あいつを倒すにはあの技が必要だろ? 溜めの時間、きっちり稼いでやるからお前はしっかり準備しとけよ!」
ニヤリと笑ってそう言うリューヤくんを見て、わたしはハッとした……なんだかさっきから憎まれ口を叩き合ってるように見えてたけど……この二人の間には確かな信頼関係があるのだ……。
……仲間、か……いいな……。一体カズキくんとリューヤくん、そしてアリッサさんはどんな経緯で仲間として共に歩むことを決め、今までどんな道を歩いてきたのだろう……? ふとそんな疑問が浮かぶ……けれどわたしはそれ以上考えるのをやめることにした……今は目の前の戦いに集中しないと……。
しかし、わたしはさっきからこうしてただの村人Aのごとく棒立ちで戦況を眺めてるだけだけど、果たして勇者としてこれでいいのだろうか?
自分の存在意義に疑問を抱いてしまうが、ここで(カズキくんと顔見知りになったとはいえ)無関係な他人も同然のわたしがしゃしゃり出て行ってもかえって邪魔になるだけだろうと思い直し、ぐっと我慢することにするのだった。
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