第9話 次から次に衝撃が……

「油断大敵……ね。リューヤ。あなたはいつもそう、一人で突っ走ってカッコつけて、だけど詰めの甘さで私に苦労をかけている」


 怪獣を包み込んだ炎を放った少女は建物の上から見下ろしながら少年に声を掛ける。辛辣な言葉だがその口調はどこか柔らかさを帯びていた。


 ていうか、知り合い? いや、驚くほどの事じゃないか、むしろ当然の話かも。


「アリッサ、別に援護なんていらないんだけどなぁ」


 少年――リューヤと呼ばれた彼はそう言って目線を少女に向けつつ唇をとがらせる。


 しかし、アリッサと呼ばれた少女はそんな彼の抗議など意に介さず、


「私が援護をしなければ、あなた潰されていたと思うのだけど?」


 と、冷たい口調で言い返すのだった。


「舐めんな? あいつが動き出したのぐらい気配で気づいたさ!」


「はいはい、そういう強がりはいいから」


 抗議するリューヤくんに再び冷たい口調で返すアリッサさん。


 う~ん、なんていうか実に親し気な感じだ。さっきもそうだけど、アリッサという少女がリューヤという少年に向ける口調は冷たく辛辣だが、その中にも親しみがこもっているように感じる。


 もしかして恋人同士とかだったりするのかな? ってそんな甘い関係ではなさそうだけど、友達や仲間であるのは間違いなさそうね。


 そんな事をぼんやり考えつつ彼らのやり取りをそのまま聞いていたわたしだったけど、次にリューヤくんが発した言葉を聞いて目を見開く。


「ちっ、相変わらず可愛げのない奴、カズキ相手だったらそんなこと言わないくせに……」


 ……カズキ……? カズキと言ったの? この少年は……。


 カズキって言ったら、酒場でわたしを助けてくれたあのカズキくん、よね?


 もしかして……彼らがカズキくんの言ってた、仲間!?


「カズキとあなたでは信頼度が違いすぎるわよ。彼は慎重派だし何より強いもの……」


 ん……? アリッサさんの口調が少しだけ違う……なんていうか……熱っぽい感じ? 気のせいかな……? それにしても、そうか……この二人がカズキくんの……。


「どうせ俺はカズキより下だよ。まったくアリッサときたらカズキには優しいんだから……」


 リューヤくんが拗ねたようにそう言うと、アリッサさんは僅かに顔を赤くしつつ、


「そんなことないわ」


 とクールに答えた。


「ともかく、いつまでもここで立ち話をしていても仕方ないわ……。さっさとこの場を離れ……」


 続けようとしたアリッサさんの言葉が途切れ、目が見開かれる。


「なんだよ、どうしたんだアリッサ、まるで幽霊でも見たような顔して」


 リューヤくんの問いかけにも答えず、アリッサさんは彼の背後をゆっくりと指差すのみだった。


 そこにはアリッサさんの火炎によって燃え尽きたはずのあの怪獣が立ち上がっていた。


「おいおい、マジかよ……なんつー耐久力……!」


 つつっと冷や汗を流しながらもリューヤくんは不敵に笑う。


 彼がグッと拳を握り、気を取り直したらしいアリッサさんが杖を構えると同時に怪獣が動く……!


 背びれが不気味に発光しカパッとその巨大な咢が開かれると、そこからレーザーのような光線が放たれた! 向かう先は……建物の上のアリッサさんの元!!


「しまっ……」


「アリッサ!!」


 アリッサさんの悔恨の声と、リューヤくんの悲鳴にも似た声が重なったその瞬間、激しい轟音と共にアリッサさんがいた建物が粉々に吹き飛んだのだった……。


 わたしは唖然としてその光景を見つめることしかできなかった……だって……信じられないじゃない……。


 あの怪獣からあんな威力の攻撃が放たれるだなんて……。


 しかも、その攻撃がアリッサさんに直撃してしまったのだ……いくら彼女が優れた術の使い手だとしても、あれを受けて無事で済むはずがない……。


 そして、そのことを証明するかのように、彼女が被っていた三角帽子がふわりと地面に落下するのが見えた……。

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