第8話 美しき術士
黒髪黒目、最初に飛び込んできたその情報にわたしはカズキくんを連想する。しかし、怪獣を蹴り飛ばしたその人物はカズキくんではなかった。
髪と目の色、そして年の頃こそ似通ってはいるが、それ以外は全くの別人だったのだ。
例えばカズキくんは全身黒づくめの服装に身を包んでいたけど、この少年は青いジャケットに白いシャツを着ている。下半身は迷彩柄のカーゴパンツにスニーカーという出で立ちだ。
首には白いスカーフを巻いておりなかなかのお洒落さんみたいだ。
そして何よりも顔つきが違う。女の子でも通るぐらいの中性的な顔立ちをしていたカズキくんとは似ても似つかない精悍な顔だった。
美形という点に関しては共通しているとも言えるけどね……って、そんなことはどうでもいいし、さっきからカズキくんと比較してばかりでこれじゃまるでわたしカズキくんのこと意識しまくってるみたいじゃないの! べ、別にそんなんじゃないんだから! わたしは慌てて心の中で誰に言い訳しているのかわからないままそう叫ぶと、改めて少年の姿を注視した。
容姿や服装なんかは先に述べた通りだが、彼はそれ以外には特筆すべきものは何も身に付けてはいない――つまり、丸腰だった。
それは彼が素手での戦いを主体とする戦士であることを意味している。いや、まだ戦士と決まったわけじゃないけど、この場面で出てきて怪獣をぶっ飛ばした彼が戦士でなければ一体何なんだという話になる。
だけど、いくら何でも素手であの巨大な化け物に立ち向かいあまつさえ蹴り飛ばして昏倒させるだなんて、常人では考えられないことだ。
一体どんな鍛え方をしたらあんな芸当が出来るようになるんだろう……?
その時である。彼の背後で転倒させられていたはずの怪獣がゆっくりと頭を振りながら立ち上がるのが見えた。
勝利の余韻に浸っているのか、彼はまだ気づいていない……!
危ないっ!!
「炎よ!!」
思わず叫びかけたわたしを遮るように、何者かの声が響き渡る。良く通る涼やかなその声は明らかに若い女性のものだった。
ひゅごっ! 声と同時に飛んできた火炎弾が怪獣に直撃しその体を炎上させる。
少年は目を見開き振り返る。そんな彼と、相も変わらず全く動けないでいるわたしの見ている前でさらに追い打ちを掛けるかのように新たな火球が飛んでくる。
それは空中で弾け飛び、細かい火の粉となって怪獣の巨体に降り注ぎ、その全身をくまなく焼き尽くしていく! 怪獣は苦悶の叫び声を上げ、その場でじたばたとまるでダンスでも踊っているような滑稽な動きを見せていた。
一体誰がこんなことを……。
わたしは頭を巡らせ周囲を伺う、すると……見つけた! 建物の屋根の上に一つの人影を、その人物は“私は魔法使いです!!”と全力で主張しているような格好をしていた。
手には先端に宝石の付いた杖を携えており、黒を基調としたオフショルダータイプの地面すれすれと丈の長いワンピースの上に、やはり黒のマントを着用している。
三角帽子を目深に被りその顔はうかがい知ることはできないが、帽子の隙間からは鮮やかな瑠璃色の瞳と、これまた鮮やかな深紅の髪が確認できた。
建物との対比で考えるにおそらく背丈はわたしと同じか少し高い程度。スラリッと長い脚とキュッとくびれたウエストの持ち主であることが見て取れる。
全体的にスレンダーで無駄な肉は一切ついていないように見えるのだが、胸だけは平均より大きいらしく彼女の胸元から谷間が覗いていた。
声の感じからしてもおそらく同年代なんだろうけど……ちょーっとだけ、負けてるかも? ってそんな部分に注目してどうすんのよわたし!
間違いなくあの人物こそ今、わたし達の窮地を救った張本人だろう。
しかし、あの格闘少年に続きまたしても年若い実力者の参入……! しかも、今度は魔法の使い手ときたか。
カズキくんもかなりの使い手だったようだし、一体この町はどうなってるのかしら? まさか魔王を倒すべく強者が一堂に会しているとかじゃないでしょうね……?
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