第7話 敵は大怪獣
シャドウマンだけじゃなかった……!? わたしは戦慄とともに、その巨大な影を見やる……。
それは一見するとドラゴンやジャングルの奥地に住むというダイナソーという爬虫類によく似ていた。
だけどそれらと違いその生物は完全なる二足で立ち、その前足は人間の手のように器用な動きをしていた。
体色は漆黒! 地響きを立てて歩くたびに背びれがゆらゆらと揺れ、口から鋭い牙が覗き、凶悪な目つきで周囲を睨みつけている!
その姿はまさに悪夢から飛び出してきたような恐怖の象徴だった。
魔獣……いや、もはやあれは怪獣とでも呼ぶべき存在だった!
「じょ、冗談キツイわよ……。あんなのとどう戦えと……?」
引きつった笑みを浮かべつつわたしは独り言ちる。
魔王退治なんて大それたことをしようとしている割には随分弱気だと言われるかもしれないが、あの化け物は見た目のインパクトが凄まじ過ぎた。
力関係的にあの怪獣が魔王より遥かに弱かったとしても、見た目だけでこちらを委縮させるには十分過ぎるほどだった。
とはいえこのまま放置しておくわけにはいかないだろう……だってあれは町の中心部に向かって歩いているのだから……。
「いいわ、やってやる! どのみちあれも倒せないようじゃ、魔王になんて到底太刀打ち出来ないだろうしね!」
わたしは自分を鼓舞するようにそう叫ぶと、腕を前に突き出し呪文を唱え始める。
流石にあんなのと剣でやり合うほどわたしは無謀じゃない。遠距離攻撃あるのみだ!
勇者であるわたしは剣士であると同時に術士でもあるので、こういう時は術を使うに限る!
しかもこれもまた勇者の血族の特権で、わたしは『
邪悪な力を持つ存在に絶大な効果を発揮するあれならかなりのダメージを与えられるはず……!
術は精神を集中し、呪文を唱えることで発動させる。聖術であろうともその基本原則は変わらない。
術というのは未だに研究途上で呪文を唱えたりすることに一体何の意味があるのかはよくはわかってないが、とにかくそういうことになっているのでわたしは基本に忠実にそのプロセスを実行していく。
幸いなことにあのでかぶつはちっぽけなわたしの存在なんてまったく気づいていないようだし呪文も唱え放題。詠唱長い強力な奴をお見舞いしてやるわ!
そして、呪文を完成させたわたしは高らかにその力を開放……。
「どりゃあああああっ!」
突如響く気合の籠った叫び声、思わず術を止めてしまったわたしの目の前で信じられない光景が広がっていた……。
なんと突如出現した人影があの巨大な怪獣のどてっぱらに強烈な蹴りを叩き込んだのである! 怪獣はずっでーんと地響きを立ててその場に倒れ伏した!
人影は蹴りの反動を利用し宙がえりを決めると、スタッと華麗に地面に着地し不敵に笑った。
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