第2話 これだから酔っぱらいは嫌いなの!
推測通り、酒場は町の入り口近くにあり、その佇まいはいかにも色んな情報が聞けそうな感じだった。
「う……」
扉を開き、酒場に入った瞬間わたしはあまりのお酒臭さに顔をしかめた。
しまった……これはちょっとしたミス。わたしはお酒の臭いが苦手だということをすっかり忘れていたわ! それでもなんとか我慢して中に入り、カウンターに向かって歩いて行く。
周囲からは突然酒場にやって来た場違いな少女であるわたしに向けて「ヒューッ」っと口笛を吹く者や、下卑た笑みを浮かべる者がいたりと、様々な反応が見られた。
うう、ジロジロ見られて落ち着かないなぁ……。
まあ、だけどそれも仕方のないことだ、腰まで伸ばした青いサラサラの髪を靡かせながら歩く美少女の姿は人目を引くからね。
って自分で美少女とか言うなって? いいの! これは周りからも言われている厳然たる事実なんだから!!
ともかく、わたしはこの出来ることならば一刻も早く出て行きたい、しかし、確かに情報の匂い立ち込めるこの空間の空気を感じつつカウンターへと向かった。
「マスター。ミルクを一つ」
なんてちょっと気取ってわたしが言うと、店内にいた男たちからどっと笑い声が上がった。
まったく嫌な人たちね、いいじゃない酒場でミルク頼んだって、さっきも言ったけどわたしはお酒が嫌いだしそもそも未成年なのよ!
マスターは気にすることもなく手際よくミルクをコップに注ぎ、わたしの前に差し出した。
「ありがとう」とお礼を言いつつ、未だに向けられる嘲笑にイライラしながらミルクに口を付けようとしたその時である。
「お嬢ちゃん、なかなか可愛いじゃねえか、俺と一緒に飲もうぜぇ?」
突然話しかけられたわたしは驚いて振り向く、そこにはスキンヘッドの大男が立っていた。
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ見るからに泥酔してます、って感じのその表情を見て背筋がゾクッとする感覚を覚えた。
本能的に危険を感じたわたしは「け、結構です」と慌てて立ち上がりその場を離れようとするが……。
ガシッ!! 大男の腕が伸びてきてわたしの肩を掴んだ。痛っ……。
わたしは反射的に身を引こうとしたが、掴まれた腕を振り払うことができなかった。
「おいおい、いきなりそりゃねぇだろうが、一緒に飲むくらいいいだろぉ?」
わたしは必死に逃れようと身をよじった。しかし、わたしの力ではどうすることもできなかった。
なんて力……。勇者であるこのわたしの力を持ってしても全く歯が立たないなんて……。
この男、只者じゃないわ。
……本当に只者じゃないのよきっと! わたしがいくら抵抗しようとまるでびくともしないんだもん。
そう、この男こそきっと今代の魔王よ、そうに違いないわ!
なんてことを言ってる場合じゃない、この男が何者であれ、わたしは今非常に危険な状況にある。
どうにかしなくちゃ……。
わたしは必死にもがくが、やはり男の手から逃れることはできなかった。
男はわたしの腕をグイッと引き寄せると、顔を近づけてきた。
つーんと、アルコールの臭いが鼻をつく。
く、臭い……。間近でそんな臭いを嗅がされ、わたしは力が抜けてしまった。
こ、このままじゃまずい……。
わたしが身の危険を感じていると、
「その子を離せ!」
突如、少しトーンの高い男の声が響いてきた。
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