デスティニーブレイカー

影野龍太郎

第1話 わたしはクリス、肩書きは……勇者!

~プロローグ~


 この世界は呪われている……。


 1000年前、突如世界に降臨し配下の魔族と共に世界を滅亡に導こうとした魔王ギフティガ。


 だが、彼は魔王と同じく突如世界に降臨した神ショファンによって力を与えられた勇者アークによって倒された。


 世界は平和を取り戻したかに見えたが、魔王は死に際に世界に呪いを掛けていた。


 その呪いとは魔王の輪廻転生の呪いである、魔王が死んでも、魂は不滅だ。魔王はいずれ新たな肉体を得て甦る。そんな恐るべき呪いが世界に残されたのだ。


 そして、その魔王の肉体となるべき対象は……人間であった。つまり、人間に魔王の魂が宿り新たな魔王の依り代となってしまうのだ。


 魔王になる対象が誰かはわからない、だが確実に言えることは一つある。それは……、 魔王は必ず人類の敵となるということだけだ。


 それまでどんなに善良な人物であろうと、たとえ平和を愛する優しい心の持ち主であったとしても、必ず人類にとっての脅威となりうる存在になってしまうのだ。


 魔王の誕生には法則性はない。ある日突然として現れる。それがいつなのかも分からないし、誰がなるのかも分からない。


 この世界はそんな呪いを抱え魔王軍との戦いを繰り返してきた、しかし、何度倒しても新たな肉体を依り代に甦る魔王とその配下の魔族たちによって人類は追い詰められ、世界の大半は滅ぼされてしまった。


 残すは神の力によって守護されているというジェイポスというたった一つの島のみという有様だった。


 このままでは世界が完全に滅ぼされるのも時間の問題だろう。


 しかし、ここに古の大賢者デイタが残した一つの予言がある、いつか魔王の魂を完全に滅ぼし世界を呪われた運命から救う者が現れるだろうと。


 人々は予言を信じその者の出現を待ち続けている。


 予言にある呪われた運命を打ち砕くモノ『デスティニーブレイカー』の出現を……。


◇◇◇◇◇


 わたしは今、世界に唯一残された人類の地、ジェイポス島の北東に位置する町『ワッテイ』に来ていた、この町に来た目的は一つ、ある男を探すためだ。


 男を探しに来たなんてひょっとして彼氏か何かか? と聞かれそうだから先に言っておくけど違う、わたしの目的はその男を探し出して殺すことなんだから。


 今度はずいぶん物騒なことを言い出したと思ったかもしれないけれど、これは冗談でもなんでもない本気の話なんだよね。


 なぜならわたしが探している男というのは魔王ギフティガの魂の継承者――つまり今代の魔王なのだから。


 そう、わたしはあの忌まわしき魔王を殺すためにここにいるんだ!


 なぜわたしみたいな15歳の可愛らしい女の子がそんなことをしようとしているかというと、それはわたしの家系に関係がある。


 っと、まだ名前も名乗ってなかったわね。


 わたしの名前は『クリスティーナ・メッシーナ』苗字で気づいた人もいるかもしれないけど、実はわたしは原初の勇者『アーク・メッシーナ』の子孫にして、先代魔王を倒した『ホーク・メッシーナ』の娘なのだ。


 わたしのお父さんが先代の魔王を倒したのが16年前、しばらく世界は平和だったんだけど、最近になってまた新たなる魔王が誕生したっていう噂が流れ始めたのだ。


 実際に島のあちこちで魔物による被害が増え始め、その中には通常の魔物とは違う魔族の仕業としか思えないものまで出てきたらしい。


 それで、本当ならお父さんが魔王討伐の旅に出るはずだったんだけど、お父さんは先代魔王との最終決戦で勇者の力を全て使ってしまっていた。そこで白羽の矢が立ったのがわたしってわけよ。


 正直最初は嫌だったわ、だって相手はかつて世界を恐怖の底へと叩き落とした伝説の魔王(の生まれ変わり)だよ!? 怖くて仕方がなかったわ、だけど……、 お母さんが言ったの、「あなたは私たちの子なんですもの、きっと大丈夫!」って。そしたら不思議と勇気が出てきたの、そして何より勇者の名をを継ぐ者として負けられないって思ったの。


 そんなわけで、魔王の噂を追ってたどり着いたのがこの町というわけ。


 でも、今代の魔王って少し変なのよね、もし本当に魔王が復活したのなら大々的に姿を表し人類にその事をアピールするはず、でも今のところそんな様子はないし、一体どういう事なんだろう……?


 でも、新たな魔王が誕生したというのだけは間違いないようなのよね、旅立ってから一ヶ月、各地を回ってきたけど、確かに噂通りに魔物の動きが活発化してるのよね、この間なんか街道でアークデーモンに遭遇したくらいだし……。


 普段はダンジョンとかの奥深くに潜んでいるはずのあんなのと街道で遭遇するなんて平時だったら絶対にあり得ないことなのだ。


 え? そのアークデーモンはどうなったんだって? も、もちろんわたしに手にかかればアークデーモンなんて一瞬で消し炭よ、ほら、だってわたし勇者だしぃ!


 ……なんて嘘、ビビり散らかして腰を抜かしたところでようやくお父さんから貰った退魔石の存在を思い出して使ったらなんとかなったのよねぇ、あれはホント危なかったぁ〜。


 だけど、あれ魔王退治の切り札だったのに……。アークデーモンなんかに使っちゃったのは失敗だったかも……。


 もし、魔王がものすごく強かったらどうしよう……。


 ま、まあでも、姿を現してないってことは、きっと魔王は復活したてでまだ力を取り戻していないに違いないわ! うん、そうに違いない! わたしがそう決めた、というかそう考えないとやってられないわ!


 ともかく、魔王と戦うにしろ何にしろ、まずは相手を見つけなくちゃ話にならない。そのためにはまずは情報収集しないとね。


 そう判断したわたしは、情報収集と言えば! ってことで町に入るとすぐに酒場に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る