宅飲みでポロリ(男性視点・着替え)
俺が小春(こはる)に出会ったのは、大学1年生の4月。
入部を決めていたバスケットボールサークルの、新入生歓迎会のときだった。
安っぽい居酒屋に男女合わせて50人くらいが押し込められ、先輩たちが新入生を勧誘する。
その飲み会で、向かいに座っていたのが宮本小春だった。
どこで売っているか見当もつかない、極彩色のワンピースに身を包み、ぱっつん前髪のショートヘアの彼女は、他の新入生と比べても一際目立っていた。
顔はお世辞にも美人というわけではないが、愛嬌があり、奇抜な身なりと相まって独特な雰囲気を醸し出している。
「背、高いですね! 何センチあるんですか?」
「えーと、190cmくらいかな。」
それが俺と小春が初めて交わした会話だった。
ほどなく乾杯があり、上級生たちが1年生に声をかけて回り始める。
「小春ちゃんは、バスケどれくらいやったことあるの~?」
「バスケって、みんな小学生から始めるんですよね。私中学からなんですけど、気持ちだけは負けません!」
絶妙に嚙み合わない会話に、先輩が困惑した顔をしていたのを覚えている。
彼女はその見た目に違わず、よく言えば天然、悪く言うと空気の読めない少女だった。
背もさほど高くなく、周囲とも馴染めてなさそうな小春はきっとこのサークルには入らないだろう。
勝手にそう思っていた俺は練習で彼女を見かけて心底驚いた。
「あ、やっぱり拓海くんだ!」
小春の練習着はやはり奇抜で、中指を突き立てた髑髏がどでかくプリントされたTシャツを着ていた。
前髪はゴムで縛っており、丸っこいおでこが露わになっている。
「小春って、天然とか、変わってるって言われない?」
「うーん、言われてるかも。でもそれって褒め言葉よね?」
目をキラキラさせる彼女に、俺は苦笑するしかなかった。
それからも小春は度々練習に顔を出していた。
俺の入ったサークルは大学でも強豪で、練習もそれなりにハードだったのだが、彼女は音も上げずについてきた。
そんな健気な姿もあって、いつしか小春はサークルにも馴染み、天然キャラとして定着していった。
***
小春との思い出で印象深い出来事は2つある。
1つ目は俺たちが2年生になった年の夏。
とある試合の後のことだった。
「拓海がいると勝てるからありがたいわ~。」
「いやいや、先輩がいいパスくれるからですよ。」
今日もチームは快勝だった。
俺はシャワーを浴び、私服に着替えると体育館の外に出る。
家に帰るには少し早い時間だ。
何か面白いことはないかと、俺は大学のまわりをぶらぶらしながら暇をつぶすことにした。
学生ラウンジをのぞきこみ、購買で漫画本を立ち読みして、そろそろ帰ろうかと思ったとき、目の前をビビットな極彩色のシャツを着た少女が歩いているのが見えた。
あんな格好をするのは1人しかいない、小春だ。
「おーい!」
声をかけても小春が振り返えらない。
俺は小走りで彼女の隣に並ぶ。
「おっす。今日はもう帰るかんじ?」
俺の言葉に返事はない。
彼女はこちらに振り向かないまま、無言で駅のほうへと歩き続けた。
珍しく元気のない小春に、俺は少し心配になる。
「どうしたんだよ? 何かあったのか?」
「なんでもないよ、気にしないで。」
冷たい言い草に俺は少しドキリとする。気づかないうちに、彼女に何かしてしまったのではないか。
そう思って覗きこんだ小春の顔は目が赤く、頬には涙が流れたような跡もあった。
「おまえ、泣いてたのか。」
その言葉に小春は歩くスピードを速める。
俺は慌てて意固地になる彼女を追いかけた。
「なあ、何かあったのか? 悩み事があるなら聞くぜ?」
「いいって。拓海くんには関係ないでしょ。」
そんな彼女の姿に、俺はますます放っておけなくなっていた。
小春と言えばいつもニコニコしていて、おどけた発言で周囲を和ませるイメージしかない。
そんな小春が涙を流すなんて、只事ではないはずだ。
俺は携帯電話を取り出した。
時刻はまだ18時過ぎ、夕食にはちょうど良い時間だ。
「あー、じゃあさ、何か飯でも食べて帰ろうぜ。腹減って死にそうなんだよ。」
「いーい。一人で食べてきなよ。」
「そんなこと言うなよ。うまそうな居酒屋見つけたんだ、小春も気に入ると思うぜ。」
正直言うと、なぜそこまでして小春を引き留めたのか、当時は自分自身もよくわかっていなかった。
頭が考えるより先に、彼女を元気づけたいという想いが行動を起こしていた。
小春とはただの友達でしかなかったが、心のどこかで彼女に惹かれていたのだろうか。
粘り強い説得の甲斐があり、俺はなんとか小春を連れ出すことに成功する。
最初は口数の少ない小春だったが、酒が進むにつれてようやく心情を吐露しはじめた。
「紗季と恵美がね、私はチームにいらない子だって、話してるのが聞こえたんだ。」
「私、中学のときからずっとベンチだったんだよね。」
「背も低いし、シュートも全然入らないし。」
「私も拓海くんみたいに身長が高かったらよかったのに。」
人並み以上にお酒に強い小春だったが、今日はいつもよりもペースが早く、顔も真っ赤になっている。
そんな彼女から語られる言葉に、俺はうんうんと頷く。
彼女が意外にも熱い想いを持っていることや、真面目に色々なことに悩んでいることには驚いた。
小春は悩みもない気楽な人間だと勝手に思っていたことを少し反省する。
目の前にいるのは、普段の姿からは想像もできないくらい、普通の感性を持った女の子だった。
「そんなことないって。小春はチームに必要な存在だよ。」
俺の言葉は本心からだった。
確かに彼女は戦力としては貢献できていないかもしれないが、チームのムードメーカーとして欠かせない存在になっている。
「そう言ってくれるのは拓海くんだけだよ~。」
小春はそう言うと、手にしたレモンサワーを一気に呷った。
その後も俺は彼女の愚痴に付き合って店をはしごし、いつしか明け方になってしまっていた。
「へへへ、何だかいい気分だよ。」
完全に酔っぱらった俺と小春は、千鳥足になりながら始発の電車を目指していた。
「あっ! 私あれやる~。」
彼女が指差した先には、カプセルトイのガチャガチャが並んでいた。
小春はその中から好きな台を選ぶと、なぜか2回分まわした。
「はい、これ拓海くんの分~。」
小春はそう言うと、俺の手にカプセルのひとつを押し付けた。
そのままバランスを崩し、俺の胸に倒れこむ。
彼女のぱっつんの前髪は汗でぺたりとおでこに張り付いており、顔は耳まで赤く染まっていた。
「おいおい、しっかりしてくれよ。」
俺は彼女を支えながら駅へと向かうと、何とか電車に乗せることができた。
窓越しに小春がこちらへ手を振り、電車に合わせてゆっくりと流れていく。
俺も手を振り返すと、自宅のほうへ向かう電車へ乗り込む。
ふと先ほどのカプセルをあけてみると、鮪のような魚のキャラクターのキーホルダーが入っていた。
絶妙に可愛くないその姿が、なんだか小春らしいセンスだと、俺は小さく笑うのだった。
***
3年生に進級したころから、俺は小春と少し疎遠になる。
俺に恋人ができたからだ。
同じサークルの同級生だった優香は、俺にはもったいないくらいの彼女だった。
身長は170cmあり、抜群のスタイルに加え、切れ目の美人だった優香はサークルのマドンナと言える存在だ。
高嶺の花の優香を射止めたとあって、俺はしばらく彼女に夢中になっていた。
毎週のようにデートに行くうちに、小春をはじめサークルの仲間と会う機会も次第に減っていた。
そんなある日のこと。
俺はひさしぶりに小春と会うことになる。
サークルの飲み会に誘われたのだ。会場はなんと小春の家、つまり宅飲みというわけだ。
それが、俺と小春の2つ目の印象的な思い出だった。
「かんぱーい!」
盛大に声をあげ、ビールを一気に飲み干す。
今日集まったのは同期の6人、俺と小春に、仲の良い男たち、そして彼女の優香も一緒だった。
小春の部屋はやはり独特で、見たこともないキャラクターのフィギアや、何世代も前のゲーム機などが散らばっており、置いてある家具も彼女特有の派手な色彩センスをしている。
それでも部屋自体は広く、大学にも近いので悪くない物件だなと心の中で思った。
「小春んち、意外といいところじゃん。」
「ありがとー。でもそんな大したことないよ、お風呂とトイレ一緒だし。」
俺たちは鍋を囲みながら、くだらない話で盛り上がっていた。
俺は時折、優香の様子を確認する。
優香は完璧ともいえる女性ではあったが、唯一お酒に弱いので少々心配していた。
「もうすぐ就活はじまるねー。」
「うわやめろよ、現実に引き戻さないでくれ。」
「言うて拓海なら内定余裕っしょ。」
「そんな甘くねーよ。」
夜も更けていき、案の定、優香は早々にダウンしてソファで横になっていた。
仲間たちは好機とばかりに質問攻めをする。
「そんで、優香とはどうなの?」
「どうって。別に普通だよ。」
「まあ二人なら大丈夫だろ。美男美女カップル、お似合いだね~。」
「うるせー。」
優香の話のときだけ、小春はどこか寂しそうな表情で、ほとんど口を挟まなかったのを覚えている。
その後も酒は進み、ひとり、またひとりと脱落し、ついに全員が寝静まることになった。
『うー、頭いてー。』
明け方、俺はひどい頭痛で目が覚めた。
昨日は飲み過ぎたようだ。今は何時かわからないが、外の様子や物音ひとつしないところを見ると、まだだいぶ早い時間のようだった。
俺は寝返りをうち、頭痛のほかに尿意が限界に近いことに気が付く。
冬の明け方は寒く、俺は体をぶるっと震わせながら静かに起き上がった。
寝ている優香の姿を確認し、忍び足で廊下へと出る。
トイレに向かって歩くが、酔いと眠気のせいで何だか頭がふらふらとしていた。
俺はトイレの扉を開け、中に入る。
いつもどおり用を足そうとして――違和感に気が付く。
横から何だか音が聞こえる。
顔を向けるとそこには白いカーテンが閉まっていた。
寝ぼけた俺は何も考えないまま、そのカーテンを一気に開いた。
「うわっ! 拓海くん!?」
そこには、シャワーを浴びる小春の姿があった。
こちらを見て、目をまん丸に開いて驚いている。
カーテンを開けたことで、シャワーの水が出る音と、むわっとした熱気がこちらに押し寄せてきた。
驚いたのは小春のほうだけではない。
もちろん俺も、目の前の光景に仰天していた。
シャワーを浴びているということは、つまり小春は全裸だった。
彼女の小さな体は真っ白く、まるで子供みたいに華奢であった。
それでも女性として出るところはちゃんと出ており、まんまるく膨らんだ乳房の先端には、ピンと突き出したピンクの乳首が鎮座している。
下半身もほどよく肉がついており、ぷりっとしたお尻が横から見えていた。
「え、うわ、ごめん!」
ようやく事態を把握した俺は、慌てて廊下に飛び出した。
なんでこんな時間に、とも思ったが、よく考えたら小春はここの家主であり、別に好きにシャワーを浴びたっていいはずだ。
みんなが起きてくる前にさっと浴びるつもりだったのだろう。
それにしても鍵くらいかけないものだろうか。
廊下に出た俺は、動かない頭で必死で言い訳を考えていた。
さすがの小春もこれには怒るだろう。寝ぼけていた、で済まされるわけがない。
と、思ったが、小春はやはり予想外の行動をとった。
目の前の扉が少しだけ開かれ、隙間から、小春が顔だけひょこっと出してきた。
「どうしたの?」
「いや、トイレに行こうと思って…。」
小春の質問に、俺は歯切れ悪く答えた。
全く恥じらいのない様子の彼女に、なんだかこっちの方が恥ずかしくなってくる。
「ちょっと待ってね。」
小春はそう言うと、首を引っ込めてドアを閉めた。
すぐにまたドアが開いたが、そこにいた小春はバスタオル1枚を体に巻いただけの姿だった。
小さなタオルでは彼女の体を隠しきれておらず、豊かな胸の谷間や艶やかな太ももが丸見えになっている。
「こ、小春…!」
「早くして、風邪ひいちゃうよ~。」
小春はそう言うと、風呂場から出て俺の横に並んだ。
先に用を足せ、ということだろうか。
いくら寝ているとはいえ、奥の部屋には他の奴らもいるというのに、大胆なことである。
「わ、悪いな。」
俺は戸惑いながらも風呂場に入ると、チャックを下ろし、溜まっていた尿意を解放した。
洗面台の上には、彼女の白い下着が乱雑に脱ぎ捨てられている。
自然と目が吸い寄せられるブラジャーのカップ数には「F75」と刻まれていた。
用を済ませると、俺は風呂場の扉を開けた。
すると小春が俺の脇をすり抜け飛び込んでくる。
「うー寒い寒い。」
相変わらず普段と変わらない様子の彼女に、俺は呆れて声をかけた。
「おまえ、ちょっとは恥ずかしがれよ…。」
「なんで? 私と拓海くんの仲じゃない。」
小春はそう言うと、俺の目の前でバスタオルをとる。
再び彼女の裸体を目のあたりにし、またしても心臓がぎゅっと掴まれるように跳ね上がった。
ボリュームのある小春のおっぱいが至近距離にあり、意図せず俺の目は吸い寄せられてしまう。
「拓海くんも、一緒にシャワー浴びる?」
「ば、馬鹿なこと言うなよ!」
慌てる俺とは対照的に、小春は真顔でじっと俺のほうを見つめている。
その表情から、小春が決して冗談で言っているわけではないことがわかった。
そんな彼女の雰囲気に気圧されてしまったのだろうか。
俺も夢見心地で服を脱ぎ、一緒にシャワーに入ったことを覚えている。
「はい。熱くないかな。」
小春が手を伸ばして俺の体にシャワーをかける。
背の低い彼女では俺の胸のあたりまでしか届かないが、そんなことは気にならないくらい、俺は小春の体に釘付けだった。
恥ずかしがってないのをいいことに、俺は彼女の美しい体を隅々まで観察する。
ふくよかな胸はその大きさだけでなく、形も理想的な釣鐘型であるとわかる。
乳輪のピンクは薄く桜の花びらのようで、その中央の乳首はしっかりと隆起し、先端が少し凹んでいるところまで見て取れた。
ウエストは細いとは言えないが太っているわけでなく、腰回りがしっかりしているのでくびれているようにも見える。
そして下腹部にはしっかりと毛が生え揃っており、その隙間から女性たる割れ目が見え隠れしていた。
「あっ…。」
「おお!」
小春の体を舐めるように見ていた俺は、いつの間にか股間のそれがバキバキに硬直してしまっていた。
慌てて隠すが、小春は興味津々といった感じで覗き込もうとする。
そんな彼女の様子を見て、俺は改めて状況の異常性を実感するのだった。
付き合ってもいない同級生と、裸でシャワーを浴びている。
しかもすぐ隣の部屋には、本命の彼女が寝ているのだ。
その後の人生においても、ここまでカオスな場面に出くわしたことはない。
俺の体を覗き込む彼女の濡れた髪はぺたりとおでこに張り付いており、赤く染まる頬も相まっていつもよりも色っぽく見える。
その様子はいつか飲み明かしたときの姿と重なり、俺は何だか小春のことがたまらく愛おしく感じられるのだった。
「優香のときも、これくらいになるの?」
ふいに、小春が俺に尋ねた。
それまでの声色とは違い、なんだか急に落ち着いた様子である。
「え? まあそうかな?」
彼女の変化を疑問に思いながらも、俺はやんわりと答える。
小春はしばらくその体勢を維持していたかと思うと、急にすっと顔をあげた。
おっぱいがぷるんと揺れ動いたが、それよりも彼女の顔に笑みがないことが気になった。
「そっか、そうだよね。」
どこか寂しそうにつぶやいた小春は、俺の手にシャワーを押し付けると浴槽から外に出た。
「私もう出るね、拓海くんはごゆっくり。」
「え?」
展開についていけない俺は間抜けな声をあげる。
そうは言っても、小春は狭いユニットバスの中で服を着ることになるわけで、彼女が体を拭き、下着を身に着け服を着る様を、俺はあっけにとられながら見つめていた。
俺もすぐに服を着て部屋に戻ったが、そのころには小春は布団にはいって寝息を立てていた。
他のメンバーも目を覚ました様子はない。
俺も思い出したかのように頭が痛み始め、状況がよくわからないながらも横になり、いつしか眠りに落ちてしまっていた。
***
その後のことは、あまり覚えていない。
特に印象に残らないほど、目を覚ました小春はいつもどおりであったのだと思うし、俺も何もなかったかのように小春に接していたのだろう。もちろん優香にも。
それから大学を卒業するまでの間、俺と小春はやはり少し疎遠な関係のまま、たまに顔を合わせるような仲だったと思う。
社会人になり、銀行の地方支店に配属された俺は、遠距離恋愛も実らず優香と別れてしまった。
別れたと言っても喧嘩したわけでもなく、今でも同窓会みたいな飲み会で顔を合わせたりはする。
でも、何度サークルの仲間たちとの会合に参加しても、小春と再会することはなかった。
聞くと彼女は誰とも連絡をとっていないらしい。
小春らしいと言えば小春らしいのだが、俺は故郷に帰るたびに彼女に会えることを期待してしまっていた。
あのとき、小春が俺に何と言ってほしかったのか、今ならわかるような気がする。
そして俺が本当はどうしたかったのかも。
そんなことを考えてももう遅いと思いながらも、俺は時折、彼女にもらった魚のキーホルダーを眺めて、感傷に浸るのだった。
裸を見られた少女たち 遊び心さん @asobigocoro3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。裸を見られた少女たちの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます