病院でポロリ(男性視点・着替え)
「知らない、天井だ。」
俺はベッドに横たわるとそう呟いた。
視界にあるのは真っ白な天井と、無機質に光る蛍光灯だけだ。
「当たり前でしょ、病院なんだから。」
妹の彩夏はあきれたようにそう言うと、ギプスが巻かれた俺の左足をぱしっと叩いた。
「いっっってーーー!!」
俺は身をよじりながら悶絶する。
爆笑する彩夏の隣では、母親がせっせと荷物を開いていた。
「何すんだよ!! 1週間は絶対安静なんだぞ!」
「たかが骨折でしょ。すぐ治るわよ。」
憤る俺に彩夏は冷たく言い放つ。
「お前には交通事故に遭って入院する哀れな兄を労わる心はないのか。」
「知らない。ねえ、そろそろ帰っていい?」
彩夏の言葉に、母は困ったような顔をする。
「もうすぐで隣の方が戻られるらしいから、挨拶くらいしていかないとね。」
「えー早く帰ろうよー。」
駄々をこねる彩夏をよそに、俺は病室を見回した。
俺の病室は相部屋で、右側のおじいさん(ほぼ寝ていた。)には挨拶しだが、反対側の人にはまだ会えていない。足の骨がくっつき始めるまでの1週間くらいの入院ではあるが、やはりどんな人が隣にいるのかは気になるところである。いびきがうるさい人だったら嫌だな…。そう思ったとき、病室のドアが開き、ぞろぞろと人が入ってきた。
白衣を着た初老の医者を先頭に、面倒見のよさそうな中年の看護師さん、そしてそのあとに、小柄な女の子が病室に入ってきた。女の子の腕に点滴が繋がっているのをみて、俺はその子が隣の病人だということを理解する。
その少女は華奢な体に黄色いパジャマを着ており、肩のあたりまで伸びた黒髪が美しく煌めいていた。
顔立ちも幼く、可愛いらしい顔だがどこかおとなしそうな雰囲気があった。
少女はこちらを見ると、にっこり微笑んだ。
「こんにちは。」
「あら、こんにちは。」
俺の代わりに母親が答える。
看護師さんに紹介された彼女は里穂ちゃんという名前だった。
「里穂ちゃんは今おいくつなの?」
「14歳です。」
「あら~、じゃあうちの智樹のほうが2歳お兄さんね。」
入院する張本人を差し置いて話し続ける母親に、俺と彩夏は顔を見合わせて苦笑した。
「お母さん、そろそろ帰るよ。」
彩夏はリュックを背負いなおすと、すくっと立ち上がった。
母も慌てて荷物を抱える。そのまま病室を出ていく、かと思いきや、振り返って里穂ちゃんに笑いかけた。
「うちの子シャイだから、あんまり話せないかもしれないけど、よろしくね。」
最後までおばちゃんパワー全開で去る母と、小さく手を振る妹を俺は見送った。
里穂ちゃんの担当医と看護師もすぐに部屋を出て行ってしまったので、さっそく俺と里穂ちゃんのふたりきりになってしまった。
里穂ちゃんはこちらに向きなおった。
「智樹さん、でしたよね。よろしくお願いしますね。」
「あ、はい…。よろしくお願いします。」
しっかりと挨拶をする里穂ちゃんに、俺はどぎまぎとしながら答えた。
正直なところ、妹以外の異性と碌に話したことがないため、こういうときどんな顔をして良いのかわからなかった。
里穂ちゃんのほうは全く人見知りしないようで、無邪気に俺の左足を指差した。
「足、どうしちゃったんですか?」
「あ、いや、ちょっとバイクにぶつかっちゃって。」
「ええ! それは大変でしたね…。」
里穂ちゃんは両目をぎゅっとつぶって悲しそうな顔をする。
彼女の体には特に目立った怪我もないようなので、俺は恐る恐る尋ねた。
「えと、あの、里穂ちゃんは、その…。」
「あ、私ですか? ちょっとお腹壊しちゃっただけです。昔から弱くて。」
えへへ、と言わんばかりに頭を掻く里穂ちゃんに俺はちょっとほっとする。
よかった、重い病気ではないようだ。
「それ、今流行っているアニメの原作ですよね。私も見てますよ~!」
里穂ちゃんが指差したのは、俺のベッドの横に積まれた漫画本だった。
「あ、ああ。アニメも良いけど、やっぱり漫画のほうがおもしろいよ。」
「そうなんですか~! 恥ずかしながら、漫画は読んだことないんですよね~。」
里穂ちゃんは物欲しそうな目で俺のほうをじっと見つめる。
さすがの俺もすぐに合点がいき、積まれた漫画の1巻を差し出した。
「よかったら、読んでいいよ。俺はもう何回も読んでるし。」
「ほんとですか~! ありがとうございます! 智樹さんは良い人ですね!」
里穂ちゃんは手にした本を嬉しそうに眺めている。
ころころと変わる彼女の表情に、俺は何だが微笑ましい気持ちになっていた。
それからというもの、俺と里穂ちゃんはずっと話をしていた。
里穂ちゃんは意外にもオタク気質なようで、俺と趣味が合い、アニメや漫画の話で盛り上がった。
他にも里穂ちゃんはおしゃべりで、学校や部活の話についても話し始めた。
楽しそうな彼女の話を、俺は相槌を打ちながら聞いていた。
明くる日も里穂ちゃんと話していると、看護師さんが病室に入ってきた。
「里穂ちゃん、そろそろ検査の時間よ。」
「えー、いまいいところだったのに。」
里穂ちゃんは口を尖らせるが、看護師さんに促されてすぐに支度を始めた。
「じゃあ検査着に着替えてね。」
「はーい。」
元気よく返事をした里穂ちゃんは、さっと手を伸ばしベッドの周りのカーテンを閉めた。
端までピタリと閉じられたことで、里穂ちゃんのベッド周りは完全なプライベート空間となる。
その中から、ごそごそと服がこすれるが聞こえ、俺は少しどきどきとしてしまった。
見えないとはいえ、隣で女子が着替えているとなると、どうしても中を想像してしまう。
里穂ちゃんの可愛い顔の下に、一体どんな――。
シャッとカーテンが開き、水色の検査着に身を包んだ里穂ちゃんが現れた。
凝視していた俺は慌てて目を逸らす。
「じゃあ智樹さん、戻ったら続きを話しましょうね。」
彼女は俺に手を振ると、看護師さんに連れられて検査に向かった。
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その日の夜のこと。
里穂ちゃんとの楽しい一日も終わり、眠っていた俺は真夜中に目が覚めた。
寝苦しい。
最近は気温も湿度も上がってきていて、お世辞にも過ごしやすい気候とは言えない。
クーラーもあまり効いておらず、俺は汗びっしょりになっていた。
今は何時だろう? 俺は目を開けて枕元の時計を確認する。
時計の針は午前3時を指していた。本来なら真っ暗な病室が、どこからか明かりが漏れているのか、文字盤がはっきりと見て取れる。
横を見ると、隣の里穂ちゃんのベッドのカーテンが半開きとなっており、中に明かりが灯っているのが見えた。
何だろう? 俺は里穂ちゃんのベッドを注意深く観察する。
カーテンの隙間から、枕の上に真新しいパジャマと、何やら白い衣類が畳んでおいてあるのが見えた。
いつも枕元に置いてあるベッドライトはどこかに持っていかれたようで、カーテンの奥のほうから光がこぼれ出ている。そして、その光の中に、ベッドに腰かける里穂ちゃんのシルエットが映っていた。
浮かび上がる彼女のシルエットは、下を向いて何やらもぞもぞと動いてた。
何をしているんだ?と思ったそのとき、彼女の両手が開き、影が一気に大きくなった。
俺はすぐに彼女がパジャマを脱いでいるのだと理解した。
里穂ちゃんは脱いだパジャマを足元の籠に入れるために横を向き、少し前かがみになった。
そのとき、彼女のシルエットの胸のあたりに、確かな膨らみと小さな突起があることが確認できた。
俺はその様子を、心臓をばくばくさせながら見つめていた。
昼間も彼女は着替えていたが、そのときはカーテン越しに音が聞こえるだけで、その姿は想像するしかなかった。
だが今は、カーテン越しに彼女の体の影を眺めることができる。
見てはいけない――。俺はそう思いながらも、彼女の胸の先端から目を離すことができなかった。
里穂ちゃんは立ち上がると、今度は腰のあたりに手をかけ、ゆっくりと手をおろす。
お尻から太ももへの美しい曲線がシルエットでもはっきりと見て取れ、足元まで到達すると片足づつ足をあげてパジャマを脱いだ。
そしてもう一度、腰のあたりから手をまわし、下着を脱ぎ去る。
これでカーテンの向こうの里穂ちゃんは、完全に裸になっているはずだった。
薄い布一枚を隔ててあられもない姿の少女がいるという事態に、俺の頭はくらくらとしていた。
夢でも見ているかのような状況だが、里穂ちゃんのシルエットは生々しく、現実に存在しているとしか思えなかった。
里穂ちゃんは横を向くと、枕元にある衣類をとろうと動き始めた。
あっ、と俺は声をあげそうになる。
里穂ちゃんのベッド周りのカーテンは半開きで、ベッドの上のほうは俺の位置から丸見えだった。
パジャマの横に置いてあった衣類はと下着であるとわかる。
つまり、全裸の里穂ちゃんが目の前に現れようとしてるのだ。
俺は息をひそめ、その瞬間を待った。
「あ…。」
カーテンの隙間に現れた彼女は、俺と目が合うと声をあげた。
右手にはベッドライトを持っており、その光に照らされて、彼女のおっぱいがくっきりと見えていた。
里穂ちゃんの乳房は華奢な体に似合わずしっかりとした膨らみがあり、釣鐘型に美しい曲線を描いている。細いウエストとの対比が見事なくびれとなっており、彼女のスタイルの良さを示していた。
一方で、双丘の先っぽにある薄ピンクの乳首は小さく、乳輪と呼べる部分はほとんどなかった。よく見ると、片方の乳首は突起が少々埋もれてしまっており、それが彼女の幼さを象徴しているようだった。
下半身もどちらかといえば年相応で、華奢な腰周りの下、薄く生えただけの毛の向こうに、女性であることを示す割れ目が見え隠れしていた。
里穂ちゃんの裸体は息を呑むほど美しいものだった。
暗闇に浮かび上がるその姿は神々しくさえ見え、俺は罪悪感も忘れてその姿に見とれていた。
「きゃっ――。」
里穂ちゃんは声をあげようとして、慌てて左手で口を塞いだ。
おっぱいがむぎゅっと押されて、胸の谷間が深く強調される。乳房がひしゃげて上向きになった乳首が腕の隙間からこぼれでていた。
里穂ちゃんはそのままきょろきょろと首を振り、(合わせておっぱいもゆらゆらと揺れていた。)、カーテンを掴むとシャッと閉め切ってしまった。
カーテンが閉められたことで里穂ちゃんの姿は見えなくなったが、相変わらずシルエットは浮かび上がっており、向こう側で恥ずかしそうに頭を振っている様子が見て取れた。
俺はその光景をぼんやりと眺め、先ほど目に焼き付けた美しい体をシルエットに重ねていた。
里穂ちゃんの影は枕元に置いてあった衣類に手を伸ばすと、素早く身に着けた。
そしてカーテンに手を伸ばし、ほんの少しだけ開くと、隙間からぴょこんと顔を出した。
顔は真っ赤に染まっており、目には微かに涙が溜まっているようだった。
「智樹さん、見えちゃいましたよね…。」
「あ、いや、その…。」
いきなり色っぽい表情で見つめられた俺はしどろもどろになってしまった。
里穂ちゃんの裸はもちろん見えていたが、何を言うべきかわからず情けなく口をパクパクさせた。
そんな俺の様子に、里穂ちゃんは恥ずかしそうに下を向いた。
そして顔をあげると、上目遣いにこう言った。
「えっち。」
その言葉に俺は頭が真っ白になった。
里穂ちゃんはさっとカーテンの向こうに消えると、明かりを消す。
真っ暗闇の中で、俺はいつしか眠りの中に落ちていった。
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次の日。
目が覚めた俺はベッドに横になったまま、昨晩の出来事を思い出していた。
里穂ちゃんはまだ起きていないのか、カーテンは閉められている。
あれは本当に起きたことなのか? 夢でも見てたんじゃないか。
でも、里穂ちゃんの姿は妙にリアルで、自分の妄想だけであんな光景が作れるとは思えなかった。
考えを巡らせていると、カーテンがシャっと空いて、パジャマ姿の里穂ちゃんが現れた。
「あ…。」
「あ、えっと、お、おはようございます…。」
俺と目が合うと、彼女はおろおろと挨拶した。すぐに顔をぷいっと向こうにやり、俺のほうを見ようともしない。
明らかに恥ずかしそうな様子に、俺は昨日の出来事が現実のものであったと理解した。
「あ、あの。昨日はその、ごめんね。」
ぎごちなく謝る俺のほうを、里穂ちゃんは見ようともしない。
「大丈夫です。こちらこそ変なもの見せちゃってすみません。」
よそよそしい返事に俺はどきりとした。
せっかく仲良くなったのに、嫌われてしまったのだろうか。
俺は居ても立っても居られず、身を乗り出して声をあげた。
「いや、俺が悪いんだ。着替えてるってわかってたのに、目が離せなくて。本当にごめん!」
その勢いに、彼女は驚いたようにこちらを向いた。
俺はそのままベッドから降りようとして――――折れた左足を床に強打し、悶絶した。
「いっっっっっってーーーー!」
俺はベッドに倒れこみ、ごろごろと転がりまわる。
あまりの痛みに涙すら出てきてしまった。
里穂ちゃんはその様子を目を丸くして見つめていたかと思うと、くすりと微笑んだ。
「何やってるんですか~、智樹さん。」
そう言った彼女はいつもの雰囲気に戻っていた。
「ちょっと恥ずかったですけど、怒ってないから大丈夫ですよ。私もカーテン閉め忘れちゃってましたし。」
「ほ、本当に?」
「本当です。でも、なんだか甘いものが食べたくなってきましたね~。」
にやにやする里穂ちゃんに釣られて、俺もふっと笑った。
嫌われてなかったことに心から安堵する。
そのあと、俺が売店で買えるだけのお菓子を買ってきたのは言うまでもない。
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一週間が経ち、ついに退院する日がやってきた。
病室に母親と彩夏が迎えに来ている。俺は荷物をまとめると、松葉杖を使って立ち上がった。
里穂ちゃんはちょうど検査でいない。
最後に挨拶したかったが、タイミングが悪かったようだ。
出発しようとすると、後ろから大きな声が聞こえてきた。
「あーーーっ!」
振り返ると、入り口に里穂ちゃんが立っていた。
「なんで何も言わず帰っちゃうんですか!」
彼女がこちらに駆け寄ってくる。
俺の目の前まで来ると、深々と頭を下げた。釣られて俺も頭を下げる。
「短い間でしたが、ありがとうございました。とっても楽しかったです。」
「こちらこそありがとう。おかげで良い入院生活になったよ。」
顔をあげると、珍しく里穂ちゃんがもじもじとしていた。
何やら考えているようだったが、意を決したように右手を前に突き出す。
その手には、里穂ちゃんの携帯電話が握られていた。
「あの、よかったら連絡先教えてください!」
予想外の発言に俺は驚いたが、答えは当然決まっていた。
「もちろん!」
俺は里穂ちゃんと連絡先を交換すると、病室を後にした。
里穂ちゃんは最後まで、俺に手を振り続けていた。
「あんたも意外とやるときはやるのね。」
病室を出ると、彩夏が声をかけてきた。
「あ? どういう意味だよ。」
「なんでもない。」
そう言った彩夏は不機嫌そうに向こうをむいた。
難しい年頃である。
慣れない松葉杖に苦戦しながらようやく帰りの車にたどり着いたとき、ふいに携帯電話の着信音がなった。
そのメッセージを確認し、俺はふっと笑いそうになる。
窓の向こうに流れる景色を眺めながら、俺は上機嫌で家路についたのだった。
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