第5話

                   ♤


 あの日から、舞依とは顔を合わせていない。

 学校で顔を合わせてもお互い目を逸らしあうだけで、互いの友達の輪に収まっていくだけ。

 目を合わせないというよりも、目を合わせられない――どんな顔をして彼女と顔を合わせればいいのか分からなくなっている。


(だっせえな、俺……)


 あの時あんなにも震え怯えていた手は、家に帰って寝るなりすっかりと収まっていた。


(くだらねえ意地張って、恥ずかしがって……)


 あと数分もしたら朝のホームルームが始まる。

 クラスの生徒のほとんどが、すでに教室入りを果たしていた。


(あの時言えば良かったなんて後悔するくらいなら、言っときゃいいものを)


 ちらりと目を移した先の舞依の席は空だった。

 ここ二日、舞依は学校に登校してきていない。


(引っ越し、まだ一週間あるだろ)


 分かっていても、自分のせいなんじゃないかと思ってしまうことに嫌気が差す。

 ガラリと引き戸が開けられ、担任が教室内に顔を出した。


「あー、成宮。頼んでたあれだけど、もう終わったか?」


「え、一応……」と、成宮は担任の元へ寄っては手元に握ったそれを渡した。

「でも先生、まだ――」


 成宮の不安げな瞳に当てられたみたいに、担任は困った表情を見せ、


「ああ実はな――」


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