第4話

                   ♡


 あれから三日、秀斗とは言葉も交わしていない。

 学校で顔を合わせてもお互い目を逸らしあうだけで、それぞれの友達の輪に収まっていくだけ。


(なにやってんだろ、私)


 あの時の自分はどうかしてた。

 秀斗とは小学生からの付き合いだ――喧嘩だってしたし、誰にも言えない恥ずかしい秘密だって共有した。

 バカかもしれないが、秀斗のことだったら何でも分かるっていうのが、舞依の唯一の誇りでもあった。


 だから今になれば分かる。

 あの時の秀斗は、本当に成宮杏奈に特別な感情を寄せてなかった。

 委員会の部分は気になるが、隠し事の一つや二つくらい普通の人だったらあるもので、よくよく考えればそこを無理に突くのも無遠慮ぶえんりょというものだろう。


「えっと、親しき中にも……」


 ――まあ、忘れたものの、そういうヤツだ。


 とにかく、自分の勘違いが起こしたゆえのあやまちという事実が分かった以上、謝るべきだろう。


(明日の放課後、いるかなアイツ)


 一昨日も昨日も今日も、舞依は勉強会に顔を出していない。

 まあ、そもそもそんな律儀に待ってくれるとも限らないが。


(告白、するんでしょ私)


 いなければ直接昼間に話す。じゃなければ、直接家に行って引きずり出す。

 この状況はどう考えたって、告白の邪魔だ。

 もう引っ越しまであと一週間。


(もうためらってる場合じゃない!)


                 ※ ※ ※


 家の玄関扉を開けると、母親が出迎えた。

 父親は離婚届を書いたその足で、そのまま挨拶もなく家から出ていった――だから、二人暮らしのこの高垣家で、母親が出迎えることは当然と言えば当然なのだが。


「なに? 珍しいね母さん。出かけるの? だったら帰りに夕飯の付け合わせをなにか――」


 言い終える前に、母親はこちらを悲しげな眼で見つめながら、重々しい口を開いた。


「舞依……あのね、実は――」

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