第2話

                   ♡


 舞依は、自分が秀斗と同じ大学に行けるとはハナから思ってなかった。


(まあ、私バカですし?)

 自分で言うならまだしも、他人……特に秀斗に言われるのだけは我慢ならない。


(家から出ないアンタを散々面倒見てきてやったのは誰だっての!)

 昔は後をちょこちょこついてきて可愛らしかったというのに、今はどうだ。


「おい、そこ違うって。なんでそこをXで仮定するんだよ、今やってんの数学じゃねえからな」


 この有様、本当に可愛くない。


(でも――)


 見た目はずいぶん男らしくなったというか、なんというか頼りがいが出てきた。

 ――高校の入学式の日。

 慣れないワックスで髪の毛をセットし、ピシっと決めた制服姿の秀斗を見た時、不覚にもかっこいいと思ってしまった。


(我ながらちょろいって)


 思いながらも、その後もずっと彼のことを目で追いかけていた。

 意識はずっとしてたんだろう、気づいたのが最近ってだけだ。


(告白か……)


 実のところ、舞依にとってこの放課後の勉強会など、のタイミングを見計るためだけの建前に過ぎない。

 別に今さら世間体なんかを気にするようなタイプでもなし――友達もいた方が何かと楽か、程度にしか思っていなかった。

 そんな一大決心の元に立てた乙女の建前作戦だって、


「字がきたねえなお前……これ小文字のq? 小文字のa?」

「っさいわねえ! 小文字のbよ!」


 これじゃそんな雰囲気にもなりやしない。

 しかし、このままじゃダメだということも充分に理解している。

 引っ越しは半月後。猶予がある以上、どこかでは決めなくてはならないだろう。


(はぁ……うん、決めた)


 一応継続して機会はうかがう。

 だが、現状そんなものがくる見込みがないことは、情けなくも確信していた。


(引っ越しの日、もしもこのまま何もなかったときは別れるときに……)


 そんな乙女チックな感情が渦巻いていることなど、目の前の男はつゆほども思ってないだろう。

 それにちょっとイラつきながらも、舞依は机の下で拳を握り、静かな闘志を燃やすのであった。



 ――そんな舞依の覚悟を神は知ってか知らずか、出鼻をペキっと簡単にくじくみたいに。



 翌日の昼休みから秀斗は、彼と肩を並べるほどの秀才少女、成宮杏奈なるみやあんなと仲良さそうにし始めたのだった――――。

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