結城紬を100日着る
着物の種類にはいくつかあるが、紬糸と呼ばれる絹糸で作った着物を紬(つむぎ)と呼ぶ。元々は屑繭から引いた糸が紬糸で、紬などは商品として出荷できず、生産者が自分たちで着用するような粗雑な代物だった。しかし現在は品質が良く、高価な紬も多く存在している。
「三大紬」と呼ばれる紬がある。結城紬と大島紬、そして三番目は諸説あるそうで、要は色んな産地が「おらが村の紬」をナンバースリーに数えようとするのだろう。ちなみに、つるつるとした手触りの大島紬は紬糸を使っていないのだが(生糸を使う)、かつては紬糸を使って地機で反物を織っていたことを先日訪れた大島紬の合同企画展で知った。その企画展では紬糸を用いた「大島紬」の反物に手を触れることができたのだが、確かに紬の手触りだった。
しかし、紬の王様はやはり結城紬だろう。数年前、縁があって年初に結城紬の着物を仕立てた。初めて身に纏った時、なんと軽いのかと驚いた。そして暖かいな、とも。月並みな感想であることは承知している。でも本当にそうなのだ。
結城紬を一着仕立てるお金で車が一台買えると言われる。ひと口に車と言っても中古の軽自動車からロールスロイスまで幅広いので、この言説は結城紬がいかに高価であるのかを表す比喩表現である。(とは言え、比喩でなしに高価という物も存在する。以前、白の二百亀甲柄の結城紬の着尺を見せてもらい、それどころか触らせてもらったことがある。これは家が買えるほどのお値段だった。)
ただし三代に渡って着られるという結城紬は、長い目で見るなら高いとは言えない。要はどれだけ着るのか、その頻度に依るという事だ。そういう訳で、仕立て上がった日、私はひとまず年内に100日着ようと決めた。そして実際に、年内に100日目を迎えた。一年の三分の一まで着るような服はそうそう無いだろう。コスパという言葉に敏感な現代にあって、結城紬はもっと脚光を浴びてよいかもしれない。
とりあえず、今年も100日。そして来年もまた100日着たいと思う。
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