夏の浴衣姿には外部経済がある

数年前から和服を着るようになった。着物を着ていると冬場は「寒くないですか」、夏場は「暑くないですか」としばしば尋ねられる。それに対しては「それほど寒くはないですよ(暑くはないですよ)」と答えるのだが、この答えには少しは寒い(暑い)というニュアンスが含まれている。


夏場。半袖のTシャツと比べれば、着物は布地が肌にふれる面積が広い。けれども中が透けて見えるような軽い夏物は風通しもよく、実はかなり涼しい。羽衣という言葉がぴったりと合う。それに裄丈がある分、日差しの強い日中でも直射日光があたりにくい。


不思議なことに、着物ではなく浴衣を着ていると涼しそうですねと声がかかる。浴衣は夏の風物詩として人びとの間に膾炙しているからなのだろう。実際に気温を下げてくれるわけではなくとも、見た目に涼感のある浴衣姿は、涼しげにひびく風鈴の音と同じように周りを心地よくしてくれる、と自分では思う。経済学で外部経済などというものの例だ。


もっとも、浴衣を着始めた最初の夏は正直に言ってまったく涼しくなく、訊かれればそのとおりに答えていた。おそらく汗だくだった私の顔を見て、まあそうなんだろうなと、相手は納得顔でうなずく。かえって暑苦しい印象を与えたかもしれず、申し訳なかったと思う。これは外部経済ではなく外部不経済だ。


いまはもう、夏物の着物や浴衣を着ていて偽りなく涼しいと感じる。とにかく頻繁に着て慣れるのが大切だということか。習うより慣れろの類なのだと思う。

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