第64話 無策の策


 賢鷹との話し合いを終えた後、俺たちは自室へと戻って相談を行っていた。


 決戦前夜で戦いの前提条件が変わったので、戦力をある程度見直さなければならない。


「じゃあ戦力の再編成を行おうと思う。本来なら七万魔素で戦力を用意して、麗人と竜皇と三つ巴の戦いをする予定だったからな」


 麗人と竜皇のタッグ相手となれば話は少し変わってしまう。


 ただぶっちゃけるとそこまで大きい違いはないんだけどな。結局のところ、俺は麗人を相手にすることになるだろうから。


 なにせ賢鷹は竜皇と相性がいいのだから。


『ですがそううまくいきますかね? 相手側も相性は理解しているなら、竜皇も賢鷹との戦いを避けるのでは?』


 クソイワがフワフワ浮きながら告げてくる。


 確かに敵も馬鹿じゃないので、普通に考えれば苦手な相手と戦うことはしないだろう。だが、


「大丈夫だ。竜皇は必ず賢鷹と戦うよ。避けるどころか自分から突っ込んでくるさ」

「どうして断言できるんですか? 確かに竜皇さんならそうしてもおかしくないですけど、麗人さんも敵にいるわけですよね?」


 ベールアインが不思議そうに聞いてくる。彼女の言う通り、竜皇はともかく麗人は策破りの天才だ。


 わざわざ賢鷹の策というほどでもないが、敵の都合に合わせて動く理由はない。だがそれは麗人側の都合でしかない。


「竜皇のカリスマはその力だ。敵を恐れず、策を食い破るからこそ臣下から尊敬を集めている。そんな奴が不利だからと相手を選んだらどう思う?」

「……逃げた、と捉えるかもです」

「そしたら臣下の評価が落ちるだろう? 竜皇からすれば次の戦いで負けるよりも、臣下の尊敬が減る方がダメージが大きいんだよ。今回の戦いは決戦だけど、負けたら終わりなわけでもないからな。そして麗人と竜皇は対等だから、麗人が命令するのも無理だ」

『流石クソガキ。相手の弱みを見出すのは上手ですね』


 まあ竜皇はそういったこと考えずに、純粋に賢鷹を倒したいからで戦うとかの可能性もあるけど。


「ともかくだ。なので俺たちは麗人と戦うことになる。それで次の決戦の指揮官ミィに聞きたいのだが」

「なんですの?」


 イールミィは少し緊張した面持ちだ。当然か、こいつからしたら麗人はトラウマレベルで惨敗した相手だものな。


「お前ならどうやって軍を編成して、どういった立ち回りで麗人に対抗する?」

「ぬりかべをいっぱい召喚して戦いますわ!」

「一点」

「そこまで低いのですかっ!? というか逆にゼロ点じゃない理由が気になりますわね!?」

「最低限、数を揃えようとしたのだけは評価する」


 子供でももう少しまともな戦術考えそうだからなぁ。


 まあ戦いの素人の元姫様ではこれが限界だろう。そしてこんな考えだからこそできることがある。


「イールミィ。お前は今回、思ったように戦え。ぬりかべをいっぱい召喚して戦え」

「ワタクシを馬鹿にしてますわよね?」

「いやわりと真面目に話しているぞ。馬鹿らしいとは思っているが、麗人相手だと下手に策を出しても読まれるからな。策が破られるなら、最初から策なんて捨てた方がいい」


 麗人を相手にするなら下手な考えは捨てて、竜皇を見習って戦う方がいい。竜皇の単純戦術は麗人に相性いいらしいし。


 もちろんそれは竜皇の圧倒的な力があっての話で、野良猫ミィで同じことは出来ないだろう。それでも下手な策は足かせになりかねない。


 するとイールミィは借りてきた猫のように静かになってしまった。


「……ワタクシ、麗人には惨敗しましたのよ。貴方が策を捨てて戦えばいいと思いますわ」


 すごく自信なさげに視線を落とすイールミィ。なんか普段より可愛く見えてしまう。


「いやダメだ、俺は色々と考えてしまうからな。馬鹿正直に戦うのってそれはそれで難しいんだよ」

「なるほど……って、それはワタクシが馬鹿って意味ではないですの!?」

「いや違う、この場合の馬鹿正直というのは正々堂々って意味だ。イールミィみたいに性格がいい奴じゃないと無理なんだよ」

『物は言いようですね』


 黙れクソイワぶっ壊すぞ。


 だがイールミィはなおも不安そうな顔だ。本当に麗人たちがトラウマのようだ。


「……でも」

「そもそもお前はあの時と同じじゃないだろ。部屋を追い出されて惨めに暮らして、惨めに他人に助けを求め、惨めに他人の部屋に居ついて……」

「惨めばっかりですわね!?」

「でもそれだけ惨めな目をしたんだから変わったんじゃないか? 高飛車な姫様の時よりも」


 惨め、屈辱、悔しさ。そういったものは人を成長させるはずだ。


 俺はそう信じている。たまに間違った方向に進んでしまうこともあるけど。


「まあ安心しろ。俺だって考えなしでお前に任せはしないからさ。それにせっかく復讐の機会を得たんだから」

「……わかりましたわ! ワタクシやってみせますわ!」


 イールミィは元気よく叫び始めた。これならたぶん大丈夫そうだな。


「よし、じゃあ改めてどう戦うかだ。実際のところ、タフなぬりかべを主戦力にして戦うのは間違ってないはずだ。後は竜騎兵かな。その二種類の魔物で七万魔素を使う。残りは正面に強いタンクゴーレムだ」


 流石にイールミィに軍の陣容を考えさせるのは怖いので、そこは俺がやっておく。流石にぬりかべいっぱい作戦はちょっとな……。


 なのでイールミィにやらせるのはあくまで陣頭指揮だ。麗人は敵の考えを読む天才だが、なにも考えてないミィを読めはしないだろうて!


「……あれ? タンクゴーレムは十万魔素必要じゃありませんでしたっけ」


 するとベールアインが発言してきた。おっとしまったな。


「悪い悪い、間違えてたよ。竜騎兵とぬりかべで五万魔素分で、タンクゴーレムで十万魔素だったな」

「計算間違いするなんて、エンド男爵もワタクシのこと強く言えませんわよ!」

「悪い悪い」

『でも珍しいですね。小賢しさと計算高さでが強みのクソガキが、そんな簡単な計算を間違えるなんて。明日の決戦会場は雨ですかねー』

「うるさいクソイワ。俺だって間違えることはあるに決まってるだろ。というか箱庭に雨なんて降ってたまるか」



----------------------------------

続きが気になりましたら、フォローや★を頂けると嬉しいです!

執筆モチベが上がります!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る