第63話 やることは変わらない


 集会を終えた後、俺は賢鷹の部屋を訪れていた。


 さっきの竜皇と麗人のタッグに対してどう立ち向かうかを決めるためだ。なのでイールミィやベールアインも呼ばれていた。


 そして俺が二人にさっきのことを説明すると。


「なっ、なっ、なんで竜皇と麗人が組んで! ワタクシたちに攻撃してきますの!? 三すくみのはずですわよね!?」


 などと吠える野良猫ミィ。なんかすごく言いそうなセリフを、そっくりそのまま言ってて笑いそうになる。


「まあ落ち着け、ミィミィ」

「誰がミィミィですわ!? そもそも落ち着いてられますか!? なんでこんなことに……! あの二人が組むなんてありませんわよ!」

「いやお前はあの二人に、さらに賢鷹に組まれて負けたじゃん」

「あっ」


 少し冷静になって考えてみたら、麗人と竜皇が組むことは特におかしな話ではない。だって先日も同様だったわけで。


 というかよくよく考えたらミィミィも悲惨だな。あの三人にトリオ組まれて潰されるとか。


「ふふっ、困りましたね。どうしましょうか、エンド男爵?」


 賢鷹は笑いながら俺を見てくる。その目は俺を試しているとしか思えなかった。


 いや実際のとこ試されてるのだろうな。俺が役に立つかどうかを、この戦いで判断するつもりなのだろう。


 なので俺は役に立つことを示さないといけない。そうじゃないと……竜皇と麗人に賄賂送ったのが許されないからな!


「…………問題ありません」

「なにが問題ありませんです! 大ありです! てきとうなこと言ってたらぶっ飛ばすですよ!」

「そうですわ! 竜皇と麗人の強さはワタクシが一番知ってますわ! あの二人はヤバイですわ!」


 アーミアとイールミィが凄い剣幕で叫んでくる。やっぱりこいつら仲いいだろ。


「落ち着け二人とも。確かに竜皇と麗人が組んだのは厄介だが、敵もこちらも戦力にできるのは三十万魔素だけだ。なら同じ条件だろう」

「同じじゃありませんわ! 竜皇は一匹でドラゴン数頭分の強さですわよ!? ワタクシ、あの男が大暴れした時、怖くて泣きかけましたもの!!!」


 なんかイールミィが本当に可哀そうになってきた。でも気持ちは分かる、あの筋肉達磨に猛攻仕掛けられたら絶対怖いだろうし。


「落ち着けイールミィ。確かに竜皇は厄介だが、あいつに関してはなんとかなると踏んでる。そうですよね、ホークエール様?」

「そうですね。戦力的に同条件ならば、私は竜皇相手なら必ず勝つ自信があります」


 賢鷹は不敵に笑った。彼女は竜皇に対して相性がいいと聞いていたが、実際にその通りのようだ。


 まあ竜皇は明らかに脳筋キャラだから、天才的な策士には不利だろうな。


「ですが逆に、ホークエール様は麗人と戦うと厳しいと思われます。同数なら負ける恐れもあるのでは」

「……ふふっ」


 賢鷹は笑顔を浮かべているが目は笑ってなかった。怖い。


 ただ否定しないということは事実なのだろう。やはり竜皇が言っていた三すくみは正しいようだ。であれば作戦も立てやすい。


「普通に考えれば竜皇と麗人は、それぞれ十五万魔素分の軍を率いてくるでしょう」

「なんでですの? 麗人が賢鷹に相性がいいのなら、麗人が多く率いそうなものですが」

「確かに相性だけ考えたらそうだな。だが考えてみろ。そしたら竜皇陣営の面子は丸つぶれだろ」


 貴族とは面子が重要だ。


 もし麗人が竜皇よりも多くの戦力を率いたら、竜皇側の臣下たちは黙っていないだろう。あの二人は対等な立場なのだから、戦力も二分するしかないのだ。


「なので竜皇と麗人は十五万魔素ずつの戦力を持つはずだ。ならホークエール様が十五万の戦力を率いて竜皇と戦えば、必ずや勝利できるということになります」

 

 俺は賢鷹に視線を移すと、彼女はニッコリと微笑みかけてきた。


「ですがそうなると麗人はどうするのですか?」


 賢鷹は俺を試す様に問いただしてきた。


 たぶんこの後の俺の答えも読んだうえで質問だろう。であれば俺も堂々と答えるまでだ。


「麗人は私が十五万魔素の戦力で抑えます」

「ふふっ。麗人に勝てると?」

「いえそこまで自信家ではありませんよ。ですが勝てなくてもそう簡単に負けません。そうすれば私の仕事としては充分かと」


 そう、俺が麗人に勝つ必要はない。


 なにせ賢鷹は確実に竜皇に勝てると言ったのだ。ならば俺はそれまで麗人を足止めさせて、賢鷹と竜皇の戦いの邪魔をさせなければいいだけ。


 そうして賢鷹が勝利した後に、麗人をじっくり料理すればいいのだから。


「確かにその通りですね。ですが麗人はかなりの猛者ですよ。私の考えた策を、その場の直感で破って来る忌々しい怪物です」


 口をわずかに尖らせる賢鷹。どうやら麗人に苦手意識があるようだ。


 まあ賢鷹は麗人に相性悪いらしいし、苦汁をなめさせられているのだろう。問題はそんな怪物を、俺が相手どらなければならないことだが。


 ただどう対抗するかについては、麗人の勘がどれくらい化け物か次第なところがある。


「なるほど。その麗人について、確認させて頂きたいことがあります。ズバリ聞いてしまうのですが……麗人の戦い方は受け身で合っていますでしょうか?」


 ようは麗人の策破りの勘はどこで働くかということだ。


 例えば麗人の敵が策を仕掛けてきた時、彼女はその動きや雰囲気からそれを読み取るのか。それとも敵が策を仕掛けてくることすら、事前に分かってしまうほどの未来予知に等しいモノなのか。


 どちらか次第で戦い方は大きく変わってしまう。


「受け身ですね。麗人はあくまで、敵が動いてから勘が働くタイプです。ですがだからこそ脅威なのです。どんな策を仕掛けても、即座にその場で打ち破られてしまう。麗人はまさに、変幻自在に動く策の破壊者です」

「わかりました、ありがとうございます。おいイールミィ。お前がボコら……戦った時はどうだった?」

「いま、ボコられたって言いましたわね……まあいいですわ、麗人はヤバイですわよ! ワタクシの臣下が伏兵とか罠とか仕掛けましたが、全部気づかれてしまいましたのよ! しかもこちらがどう動いても、それを完璧に読んできましたの! あんなの反則ですわよ……」

「ふむふむ」


 イールミィの話を聞いても、麗人は自分から仕掛けてくるタイプではなさそうだ。つまり敵が策を仕掛けてくるのを待って、その意図を見抜いて破るタイプであると。


 変幻自在に動くというのはきわめて厄介だが、麗人の戦い方は分かった。


 つまり麗人は敵の行動の考えや意図を読み取るのが、異常に上手な者な可能性が高い。


 優れた策士ほど当然ながら策を繰り出す。なのでその策が読まれて、気が付けば不利になっていくのだろう。そして策士がなにも考えないというのは難しい。


 頭を空っぽにして戦うというのは逆に難しいのだから。ではどうすればいいか。


「おいイールミィ。ちょっと頼みたいことがある」

「なんですの? ワタクシ、麗人にズタボロにされましたから、貴方には仇を討ってほしいのですわ! そのためなら頑張りますわよ! なんでも仰いまし!」

「じゃあちょっと俺の軍の指揮官やってくれ」

「……はい?」



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