第62話 1vs2


 麗人の発言はちょっと信じたくないものだった。


 竜皇と麗人、三大陣営のトップ二人が組む? それズルくない?


「なんて予想外なのでしょうか。困りましたね」


 だが賢鷹はその言葉にも軽く笑って返す。言動こそ驚いている風だが、まったく動じていない。


「な、な、な、なんでですかっ! ズルいです!」


 そして忠犬ことアーミアは悲鳴をあげる。よかった、お前も俺と同じ考えだったな。


 というか本当に予想外だ。まさか二人がこの状況下で組むとは思ってなかった。なにせ麗人と竜皇は性格的に相性悪そうだからな。


 もちろん二人がどうしても組まなければならない状況、例えば賢鷹陣営が力を持ち過ぎたならば話は別だ。だが今はそこまで追い込まれているわけでもないのに……。


 そんなことを考えていると、麗人が俺に笑いかけてきた。


「予想外だったかい? なら君は思ったより自己評価が低いようだね」

「…………」


 麗人が言ってる意味はなんとなく理解はできる。


 ……俺が賢鷹の陣営に入ったことが、麗人と竜皇にとって脅威と認識されたのだ。正直信じがたいところはあるが、今の言葉はどう聞いてもそうとしか思えない。


 俺は自信過剰な人間だと思っているが、流石に過剰評価されているだろこれ。


 確かに日本は優れた箱庭だが、俺の持ってる箱庭自体が狭いのでそこまで脅威にならないはずだが。


 …………まさか将来性か? この決戦後にクラス間で戦った時に、俺は他のクラスから土地を奪うつもりだ。そうすると現状の狭いという弱点がなくなる。


 そうなれば日本はトップクラスに優れた箱庭になる。もしやそれを見越した上で、俺を脅威として認識しているのか? 


 もしそうなら随分と評価されたもんだな。悪い気はしない。


「もちろんエンド男爵だけじゃないよ。ボクと竜皇はね、賢鷹がトップを張るのだけは嫌だと思った。だから協力するの」

「ふふっ。嫌われたものですね」

「いやボクは君のこと好きだよ。首輪をつけて、アーミアちゃんと一緒にペットにして飼いたいくらいには」

「……へぇ」


 あ、賢鷹の笑いが一瞬消えた。どうやら麗人はいい趣味をお持ちのようで。


「賢鷹! 貴様がトップになれば間違いなく、自分がかなり有利になるように立ち回るだろう! 貴様は性格が悪いからな!」


 竜皇の叫びには同意しかない。賢鷹のことだからクラス間戦争を利用して、麗人と竜皇の戦力を削るだろうなぁ。そして自分の陣営は得するように動くと。


 もちろん誰がトップでも多かれ少なかれそう動く。だが賢鷹の策士具合は群を抜いてるので一番うまくやるだろうな。


「ふふっ、そんなことはありません。ちゃんと他クラスにしっかり勝てるように、皆さんを動かしますよ」

「君の考えてることは分かるよ、賢鷹。なにを言っても無駄だよ」

「ふふっ。やはり貴女のことは苦手ですね」


 賢鷹と麗人が笑いあいながら火花を散らす。


 黙っていれば美少女同士なのにものすごく怖い。ベールアインより……いやあいつのほうが怖かった気がする。すごいなベールアイン。


「細かいことはどうでもよい! とにかく我と麗人は組んで、貴様を潰すことにした! だがこのまま戦えば我らが三十万魔素でそちらは十五万魔素。流石に不公平ゆえ、賢鷹陣営は三十万魔素の戦力を整えるがいい!」


 竜皇が筋肉を膨れさせて立ち上がった。その拍子にとうとう椅子の足がぶっ壊れて崩れていく。


 よく頑張ったな椅子。


「ふふっ。私は十五万でも構いませんよ?」

「その手には乗らないよ。それで勝ったとしてボクらは卑怯者に思われるからね。臣下からの評価を落とすつもりはない」


 貴族は面子を重んじるので、卑怯というのは最悪の言葉だ。


 なにせあいつらバカだからな。卑怯な手段で勝つよりも、ちゃんと戦って負ける方がいいって言う奴までいるしな。


 だが三大陣営のトップたちともなれば、そういった面子を意識しないといけないと。可哀そうに。


 ただここで気を付けなければならないのは、なので大貴族は卑怯な手段を取らないわけではないことだ。


 ようは周囲から見て卑怯に見える手段がダメなだけだ。今回は数字が明らかになるので卑怯に見えるからしないだけで、分かりづらい卑怯さなら平気で取って来るだろう。


 貴族って本当に面倒くさい。弱小勢力の俺はそういう点は気楽でいいなぁ。


 そして今回の戦いだが……言うほど平等ではない。


「ふふっ。互いに三十万魔素の戦力となれば一見すれば平等ですね。でもその実は」

「賢鷹、君が不利だろうね。普通に考えれば」


 そう賢鷹、つまり俺たちの陣営が不利なのである。


 理由は簡単だ。俺たちの陣営が仮に総戦力三百万魔素の内から、三十万魔素の戦力を出すとする。ならば敵の陣営は六百万魔素から三十万魔素を出すことになる。


 ようは麗人たちのほうがより上澄みを取れるというわけだ。三百人の中からトップ三十人より、六百人の中からトップ三十人の方が優れている可能性は高い。


 それに麗人と竜皇自体が才能あふれる厄介な人間だ。軍の戦いにおいて指揮官の優秀さは大きい。


「ですがこちらにも面白い手札があります」


 賢鷹は俺に視線を向けてきた。たぶん俺というより日本のことを見ているのだろう。


 日本という土地はかなり恵まれているので、相手と同じ魔素を使えるならばそこまで不利は背負わないはずだからな……。


 なんか予想以上に俺がこの戦いの鍵になってるなこれ……まあいいか。


「口争いなど下らぬ! 明日の戦いで全ては決するのだからな!」

「楽しみにしてるよ、賢鷹。ボクらと君のどちらが勝つか」

「ふふっ。さて期待には応えませんとね」


 こうして集会は終わったのだった。



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