第61話 三つ巴


 色々と用意している間に決戦前日の昼。


 俺は賢鷹に呼び出されて、三大勢力の代表者が話し合う場に向かうことになった。なんか戦う前に改めてルールの確認をするらしい。

 

 そして俺は一番最初に会談室にやってきていて、他の参加者が来るのを待っている。まだ俺以外は誰も来ていない。何故なら、


『開始時刻の二時間前に来てどうするんですかね』

「いいか。こういうのは気持ちだ。俺は他の皆様よりも身分が低いと分かっているので、決してお待たせしてはならないという気持ちをアピールだ」

『相変わらずコスいですねぇ』


 フワフワと浮くクソイワがイヤミを告げてくる。


「違う。これはコスいんじゃなくて弱者の兵法だ」

『弱者の兵法って言えばなんでも許されると思ってません?』

「弱者が強者に勝つにはいかなる手段も使わないと」

『あ、思ってますねこれは』


 だって弱者が強者に勝つなんてまともな手段では無理だし。


「しかし暇だな。誰も来ない」

『二時間前に来るからでしょう』

「こんなことならイールミィでも連れてくるべきだったか」

『クソガキ、案外好きですよねイールミィ』


 俺は野宿ミィのこと嫌いじゃないぞ。からかってると楽しいし。


 それに現状を改善しようと努力してるからな。ただやり方が甘すぎるというか、やはり姫様であることを捨てきれてないところがあるから、色々と言わないとダメなだけで。


「わりと好きだぞ、イールミィのことは」

『間違ってもベールアインの前で言ったらダメですよ』

「わかってるよ。変に部屋がギスギスしても困るし」

『ギスギスというか殺伐というか、たぶんそのうち亡骸ミィになりますよ』

「流石にそこまではならんだろ……」


 クソイワの中でベールアインはどんな扱いになってるんだよ。


 確かにベールアインはたまに怖いが、なんだかんだで俺を助けてくれるいい奴だ。善人かは少し疑問を持ち始めてるが悪人ではないだろう。


 そんなノリで話をして一時間半くらい経つと、部屋の扉がノックされて麗人が女子ひとりを連れて入ってきた。


「やっぱりエンド男爵君だけか」

「どうもお世話になっております。麗人様は本日も誠にお美しく……」


 俺はすかさず立ち上がって頭を下げる。イメージは臣下の礼だ。なにせ状況次第では麗人に鞍替えの可能性もあるのだから。


 それと麗人の見た目は本当に奇麗なので、お世辞を言わなくて済むのは助かる。嘘っていくら演技してもわかるんだよな。特に勘のいい麗人なら絶対バレる。


「ありがとう。でもそれならボクの陣営に来てくれたらよかったのに」

「やはり最初に誘われた義を通したく……」

「ははは。そんなタイプじゃないでしょ、君」


 やはりバレてるので余計なことは言わないで、本当のことだけ伝えることにしよう。


「貴女に最初に誘われていれば、麗人様の陣営に入ったと断言致します」

「そうだね」


 嘘は言ってない。実際のところ、三大陣営の力は拮抗しているからな。


 賢鷹が優れているから選んだのではなく、決められないから最初に誘われた者にしたというだけで。


 すると俺たちの話を遮るように、ドゴンドゴンと扉が破壊されるような音が鳴った。


「最強たる我が来たぞ! ムンッ!」


 すでに上半身裸の竜皇がエントリーしてきた。ちなみに扉は壊れてないので、おそらく魔法的な力がかかっているのだろう。


「あ、竜皇。昨日ぶりだね」

「ふん。貴様の顔を連日見ることになるとはな」

「あ、そういうこと言う? ボクも君の筋肉は見たいわけじゃないよ」


 竜皇と麗人は軽いノリで話し始めた。昨日も会ったってなんだろうか。


 そうして竜皇は席に座り込むと、椅子がメキメキと悲鳴をあげた。だが教室の椅子より豪華なためかかろうじて持っている。


 頑張れ椅子。お前が壊れたら床まで貫かれるぞ。


 そうして最後にドンドンドンドンと扉が叩かれて、アーミアが入ってきた。


「賢鷹様がいらっしゃったです! 頭が高いです! 控えるです!」


 そして続くように賢鷹も入室してくる。相変わらず少しほほ笑んでいて、可愛らしいはずなのになにか不気味だ。


「アーミア。三大陣営の二人は私と同格ですよ」

「あっ。じゃあエンド男爵! 二人の分も頭を控えて床に擦り付けるです!」

「嫌だから自分でやってくれ」


 アーミア相手には敬語を使わなくていいだろう。こいつに大した権力はなさそうだし飼い犬だし。


「全員揃ったな。では明日の決戦のルールを確認するぞ!」


 竜皇が叫んでその声圧で空気が震える。相変わらずなんて肺活量だ。


「明日の決戦では、各自が十五万魔素分までを使って戦力を準備する! それ以上の用意は禁止だ! そしてその上で戦って、勝者たちが他クラス対抗時のトップとなる!」


 全員の戦力制限が決められているのは当然だ。なにせこの戦いで三大陣営に決着をつけるわけではない。


 まずは他クラスと対抗するためにこの三人が組む上で、誰がトップとなるかを決めるための戦いだからだ。


 三つの国の同盟軍ならば、三人まとめてトップという意見もあるだろう。だがそれはあまり現実的ではない。頭が多すぎると困ることもあるのだから。


 やはりトップが誰かを明確にしなければならない。少なくとも三人は多すぎるのだ、なにせ三人がバラバラの意見を持ったらまともに決まらない。


 国でも権力者は王と宰相くらいにするように、せめて二人に留めないと無理だろう。まあこの三つ巴の決戦では勝者はひとりだけなのだが。


 なので今回の戦いにおいて、俺の使える魔素は三万から五万くらいだろうか。残りの分は賢鷹が使うはずだ。


 ……あれ? でも竜皇、さっき勝者と言ってなかったか?


「そしてその上で我は賢鷹に告げることがある」


 竜皇が賢鷹を睨みつける。常人ならそれだけで腰が抜けてしまいそうな恐ろしさだが、賢鷹は涼しい顔で笑い続けていた。


「ふふっ。なんでしょうか」


 竜皇はその様子を見てわずかに眉をひそめる。そして話をの続きをしようとすると、麗人が彼を止めるように手をはらった。


「ボクから告げるよ。賢鷹、君は現状では一歩リードしている。少なくともボクと竜皇の中ではそう意見が一致している」


 麗人はチラリと俺に視線を向けてきた。


「ふふっ。それは光栄ですね」

「だからね。これ以上、君の好きにさせるわけにはいかないんだ」


 ……なんだ。ものすごく嫌な予感がしてきたぞ。


 麗人はそんな俺のことは気にせず、さらに言葉をつづけた。


「なので、ボクと竜皇は一時的に組むことにしたよ。賢鷹、悪いけど次の決戦はボクと竜皇の二人を相手にしてもらうよ」



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