第60話 実は正々堂々は不得手


「どんな魔物を召喚するんですか? いつものように機動力が高いやつですか?」


 ベールアインが聞いてくるが俺は首を横に振った。


 俺は機動力至上主義で、兵は速ければ速いほどいいと思っている。だが、


『今回はダメなんですよねぇ。クソガキが機動力を好んでいるのは、敵をかき乱しての卑劣な策のためなんですよ。なので策破り相手では微妙かと。あとは速い方が逃げやすいためですが、それも後ろに主君がいる状況では扱いづらい』

「おいクソイワ。人の心を勝手に読むんじゃねぇよ」

「当たってるんですわね……でも今回はなんでダメですの?」

「仮想敵が麗人だからだよ」


 代表戦は三大勢力による三つ巴の戦いになる。そして三大勢力はそれぞれ相性があり、賢鷹は力任せの竜皇に強くて策破りの麗人に弱い。


 そうなると俺の代表戦での役割は、麗人と戦うことになった時の壁役だろう。


「麗人を相手にするとなると、迂闊に策を弄すると逆手に取られてしまう。それにああいうタイプは小細工に強い反面、純粋な力には弱いんだよ」

『なのでクソガキお得意の相手を騙す卑劣策は使えず、機動力も活かしづらいのですよね?』

「何言ってるんだクソイワ。戦場で相手を騙すのは卑劣じゃなくて基本だろうが」

『相手を騙すの楽しいですか?』

「おうっ!」

『そういうところなんですよねぇ』


 なにがそういうところと言うのか。俺はちょっとばかり相手が罠にはまって、全滅して後悔しながら俺に屈して欲しいだけだ。


 あー……アルベンの時は最高だったなぁ。またやりたい。


「ともかく麗人との戦いでは下手な策はいらないから、正面から戦って強い魔物が欲しいんだ」

「確かに麗人はワタクシの配下の罠を全部見破ってましたわね……つまり下手に小細工せずに正面から戦えば麗人は楽勝というわけですわね!」

「そんなわけないだろうが負け猫ミィ」

「そのあだ名は流石に酷いのですわ!?」


 事実なんだから仕方ないだろう。今回の言動も残念だしな。


 言われたくないならちゃんと成長しないとな。まあお姫様が数日で急成長なんてのは無理な話だが。


「あのな。確かに麗人は策潰しの天才なんだろうが、普通に戦っても強いに決まってるだろ。正面から戦うだけで勝てるなら三大勢力になんて並べてないだろ」

「そ、それは確かに……で、でも麗人は正面戦闘に弱いんでしょう?」

「あくまで比較的の話だ。言っておくけどな、賢鷹だって強い魔物を多く揃えてるからな? それに正面戦闘はそんなに簡単じゃない。特に策を弄するタイプからすればな」


 策士というのは相手をハメることに快楽を覚える類の者だ。


 もはや敵への嫌がらせは本能的なモノなので、頭を空っぽにして戦うというのは逆に難しい。ようは力任せに戦おうとしても、策士はいつの間にか策を練ってしまう。


 そして気が付いたら策を実行してしまう。相手が策破りの天才だと分かっていても、たぶんやらかしてしまうのだろう。


 それに麗人だって馬鹿じゃない。おそらくだがあえて隙を見せて、相手に策を実行させたりするはずだ。


 例えばここで敵の裏を突けば確実に勝てると思わせたりとか、そこで策士が何の動きもせずに戦い続けるというのはかなり難しい。その状況下なら俺も動いてしまいそうだ。

 

「ただなんにしても麗人を相手にするなら、正面戦闘を仕掛けるべきなのは間違いない。おい、クソイワ。機動力も変な能力もいらないから、純粋に壁役として強い魔物はいないか?」


 正面戦闘となると重量級の魔物が欲しい。


 だが我が軍はそういった魔物はほぼいない。なにせ忍者や竜騎兵などの機動力自慢が主力で、後は陸地では全く役に立たない船幽霊とゴーレムシップだ。


 唯一ゴーレムタンクならばといったところだろう。


『仕方ありませんね。とっておきの壁を紹介しましょう。これ以上の壁役は存在しないと言えるほどのね』


 クソイワは豪語するとともに、石板に文字と魔物の絵を刻み始めた。


 ぬりかべ・・・必要魔素800。Cランク。機動力が最低値の代わりに、同ランクの魔物を圧倒する力と丈夫さを誇る。さらに再生能力も持つ。


「本当に壁紹介してどうするんだクソイワ!」

『失礼な。私はちゃんと壁に相応しい魔物を紹介致しました、ぷぷぷ』

「笑ってんじゃねえよ」

『でも真面目に壁適正完璧だと思いますよ。壁だから硬くて重いですし、土とか混ぜて再生もできるんですよ』


 ……確かにぬりかべは壁役としては優秀だ。いや役というか壁なんだけど、クソイワの絵でも壁に短い手足が生えてる壁だけど。


「しかし壁か。うん、壁なぁ……ふむ」

『あ、また卑劣なこと思いつきましたね。考えたらダメなのに』

「い、いやこれは策ってほどのものじゃないから大丈夫だ。たぶん」


 ちょっと面白いこと思いついたので、ぬりかべを召喚して試してみることにしよう。


 見破られても別にデメリットないし、成功すれば多少は戦いやすくなるかもしれない。


 そうしてぬりかべを百体ほど召喚して、さらに竜騎兵も三十ほど追加した。


「おいクソイワ、それとぬりかべとは別に切り札が欲しい」


 俺はチラリとイールミィを見る。うん、ここでいうべきではないな。


「後で言うから用意できるか?」

『切り札好きですねクソガキ』

「当たり前だろ。相手が隠していた手札に驚いて、のたうちまわるのは楽しいし」



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