第59話 三すくみ
竜皇も麗人も俺の贈り物を喜んでくれたようで、さっそく二人からお礼が返ってきた。
麗人は綺麗な手紙に、歯の浮くような文章をつづって送ってきた。そして竜皇は、
「貴様のプロテインとやら、確かに受け取ったぞ! あれはいいモノだ!」
また俺の部屋にいきなり押しかけて来たのだった。流石に追い返すわけにもいかず、部屋にあげざるをえなかった。
「な、なんで竜皇さんが……」
「か、帰りやがれですわ!」
ベールアインとイールミィも驚いているが仕方ないだろう。
こいつ動きが軽すぎる。本当に三大陣営のトップのひとりかよ。
俺たちは床に座って円を組んで話し合うことにした。椅子などに座らせないのかって? もう壊れたよ、竜皇が座ろうとして。
「竜皇様、私たちはすでに敵対陣営なのです。迂闊に会えば私は賢鷹に疑われてしまいます」
「案ずるな。賢鷹ならば我の行動など予測済みに決まっておろう。故に奴は我が無理やり押しかけただけなど把握しておるわ!」
竜皇は大笑いしながらプロテインの入った木のカップを飲み干す。
「それで礼をしようと思ってな。だが下手に貴様になにか与えると、我が臣下もいい気分はしないだろう」
確かにその通りだ。俺は敵陣営の人間なわけで、そんな奴にモノを与えるのはよろしくない。
この部屋にいる野宿ミィがいい例だ。あいつが破滅した理由のひとつに、俺にパンを渡してしまったことがある。
そんなイールミィは苦い顔をしていた。あの時のことを思い出したのだろう。
「なので我は情報を与えてやろう! 聞きたいことがあれば答えてやる! 神前盟約もしてやるぞ! 神前にて約す! 我はこの部屋にいる間、エンド男爵に嘘はつかぬ!」
すると俺と竜皇の間に光の線が結ばれた。え? マジで?
竜皇はプロテインの礼代わりに情報をなんでも教えてくれると?
……いや、なるほど考えたな。情報は間違いなく貴重なモノだが、分け与えても減るものではない。
すでに竜皇陣営では当たり前に知っていることか、あるいは知っていても得しないことを教えれば彼らに損はない。
それでいて俺への借りも作らないと。筋肉の岩石みたいな奴なのに思ったよりも理知的だな。
「じゃあ三大陣営の力関係についてお教えいただけないでしょうか」
俺は三大陣営の力関係は互角と思っている。
だが外から見ているだけの俺と、当事者である竜皇では少し違うかもしれない。この機会に聞いてみるのもありだろう。
今なら神前盟約で嘘もつけないだろうし。
「力関係か。では逆に聞くが、貴様はどう思っている?」
「互角でしょうか。力が拮抗しているからこそ、今の均衡状態を保っているわけで」
もし誰かが明確に劣るならば、その陣営はすでに滅ぼされているだろう。
ここにいる滅亡ミィのようにな。そんなイールミィに目を向けると、向こうも少し涙目で俺を見ていた。
ごめんって。ちょっとつい視線が動いちゃっただけだから……。
「ふむ、互角というのは少し違うな。我らには明確な力関係、というよりも相性がある」
「相性と言いますと」
「簡単に言うならば三すくみだな。それぞれが不利な相手と有利な相手を持っていて、故に互いに手出しが出せない状況だ」
「その三すくみをお教えいただけますか?」
だいたい予想はつくがせっかくだから聞いておく。
すると竜皇は身体に力を入れて、筋肉が膨れ上がって上半身の服が破裂した。
……なんでわざわざ服を破裂させたんだろうか。
「いいだろう! まず貴様の現在の主である賢鷹だが、奴は麗人にかなり弱い。麗人は策を打ち破ることに関しては天才的だからな。策を弄する者からすれば最悪の相手だ」
竜皇の言葉に思わず頷いてしまう。
策というのは基本的に、やればやるほど得になるものではない。例えば夜襲を仕掛けるならば、もしバレていて待ち伏せられたら途端に不利になる。
夜襲する側は動きやすいように装備も軽くしているので、迎撃されると仕掛けた側が危機に陥ってしまうからだ。
他にも伏兵を用意していた時に、その伏兵がバレて各個撃破されたら最悪だ。それなら伏兵などしなかった方がよい。
イールミィがなにか思いついたようで手をポンと叩いた。
「策士、策に溺れるという言葉もありますからね」
「その通りだ。では次にその麗人だが、奴はこの我に弱い!」
竜皇は腕に力を入れて、力こぶしを作った。もはや人の腕というより、岩石の腕と言った方がいいレベルの筋肉だ。
あんなので殴られたら即死だろうな。
「我は策など使わぬ! 故に麗人の取り柄はなくなるからな!」
高笑いする竜皇。本来なら策を捨てるなど愚策だ。だがこいつの場合、あえて考えてない可能性もある。
先ほどの話で迂闊に策を弄して破られると損をする。ならば最初から正面でぶつかって、力でゴリ押すというのも立派な戦術だ。
それに臣下たちも単純な命令の方が、考えなくていい分戦いに集中できるメリットがある。
もちろん力ずくの戦い方なので、力がいるのだが……竜皇にはそれを行うだけの力があった。
「そんな最強たる我だが、賢鷹にはやや不利だ。奴の策は我が力を受け流すからな」
だが正面から正々堂々と戦う者は、強力な策を仕掛けられる相手には弱いものだ。
やはり賢鷹→竜皇→麗人→賢鷹という風な三すくみになっているか。俺もなんとなくそんな雰囲気はしていたが、確証が持てたのは助かる。
「故に我は賢鷹に対抗するために、軍師になれそうな貴様を欲したのだがな」
「申し訳ありません。最初に賢鷹様に誘われていまして」
「ふん、少しばかり遅かったわ。次の三つ巴の決戦で、賢鷹は麗人への対策で貴様を使うのだろうな」
俺も竜皇の意見に同意だ。
賢鷹からすれば麗人を潰せば、後は相性のいい竜皇だけになるからな。本来なら俺が麗人を抑え込むのは国力的に不可能だが、次の決戦は代表戦だから戦力の上限が決まっている。
つまり俺と麗人の国力差が100対10000だとしても、出せるのは互いに100程度のみ。
それなら日本を持つ俺なら、麗人を抑えることも可能だろう。
「もし使われた場合は、精一杯頑張らせて頂く所存です」
「ふん、やはり貴様を逃したのは惜しかったな。他に聞きたいことはあるか? なければ帰るぞ」
「特にはありません、ありがとうございます」
まだ聞きたいことはある。だがあまり竜皇の時間を奪うわけにもいかないだろうしな。
すると竜皇は床に手をついて立ち上がった。その拍子でメキリと木の床が陥没してしまったんだが。
「ではサラバだ。次の決戦、楽しみにしておるぞ!」
竜皇はそう言い残すと、嵐のように部屋から去っていった。
……すごく疲れたがいい情報を得たな。三大陣営は三すくみか。
なら次の決戦では出来れば竜皇と麗人が潰し合うように仕向けたい。いや賢鷹ならとっくにそうしようと企んでいることだろう。
『企みならクソガキも負けてないでしょう。性格の悪さなら三大陣営トップにも劣りませんよ。いやむしろ勝るでしょう』
「なあベールアイン。岩のいい壊し方知らないか?」
「ええっと……」
俺も決戦に向けて、新しく魔物を召喚して戦力補強をすることにした。対麗人のために。
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