第56話 平身低頭


 賢鷹の部屋を訪ねたところ、彼女は予想していたかのような笑みで迎えてきた。


 そして部屋の中に招かれて、椅子に座っての話をすることにする。


 ちなみにイールミィとベールアインも同席を許された。


「ではまず聞いておきましょうか。エンド男爵、貴方は私の陣営に入ることで間違いないですね?」

「はい。ぜひホークエール様に仕えさせて頂ければと思います」

「ダメダメ男にしては懸命な判断をしたです! 褒めてやるです!」


 俺が頭を下げると、アーミアが大きな声で叫んでくる。相変わらずやかましいなこいつ……。


「ふふっ、それはよかったです。まあ私の陣営に入って来ると確信していましたから、予想通りに動いてくれて何よりでした」

「か、確信してたなんて嘘ですわ! 嘘に決まってますわ! てきとうに後出しして、賢く見せてるだけですわ!」


 イールミィは信じられないようでミィミィと鳴いている。


 でもお前が言っても説得力皆無だぞ。その賢鷹に見事なまでにハメられて殺された生き証人だろうが。


「……私も少し信じられませんね。確信できるほどの根拠があったのですか?」

「ふふっ、もちろんですよ。なにせエンド男爵が我が陣営に来れば、可愛いアーミアと婚約して好き放題できるのですから」


 賢鷹がクスクスと笑うと同時に、フワリとクソイワが宙に浮いてきた。


『きっとクソガキは考えてますよ。今日にもアーミアをベッドに押し倒して、その幼い肢体を味わおうと。ロリコンクソガキですね』

「おいクソイワ。しばらく大人しくしていたと思ったら随分な物言いだな」

『私は面白くなりそうな時しか口を突っ込みませんので』


 相変わらずクソイワである。


「く、来るなです! このゴミ野郎です! お前なんかにアーミアの身体は渡さないです! イリア様ならともかく!」


 そしてアーミアが自分の身体を抱きかかえて、俺から距離を取るように飛びのいた。ゴミ野郎は酷くね?


『おおっと嫌われてしまいましたね。でもアーミア、それは失策ですよ。なにせクソガキは嫌われるほどに燃えるんですよ』

「ひっ……!? こ、こっち見るなです!?」

「おいクソイワ。次言ったらガチでぶっ壊すぞ」

『ご安心を。もう言いませんから』


 すごすごと大人しく引き下がるクソイワ。


 珍しくアッサリ黙ったなと思っていると背筋に寒気が走った。こ、これは恐怖のせいだ、その恐ろしい気の発信源は……。


「ねえロンテッドさん。アーミアちゃんはかなり年下ですよね? よくないと思います」


 やはりベールアインだ。顔は笑ってるのにものすごく恐ろしい。


「いや待て! 俺はなにひとつ言ってないだろうが!? こんなちんちくりん興味ないぞ!?」

「誰がちんちくりんです!? ぶっ飛ばしてやるです!」

「疑わしきは処理しておいたほうがいいでしょうか……」

「賢鷹! ワタクシの質問に答えなさい! 確信してたなんて嘘に決まってますわ!」


 ……グッダグダじゃねぇか!? 


 クソイワめ!? あいつこうするためだけに出てきやがったな!? 


「ふふっ。見ていて飽きませんがそろそろ話を進めてもよろしいでしょうか?」


 賢鷹め、高みの見物とはいい性格してやがるな……らしくはあるけどさ。


「はいもちろんです。うちの飼い猫じゃなくて……イールミィのことは放っておいてください」

「飼い猫!? 流石に酷いと思うのですわ!?」

「わかりました。うちの飼い犬のことも気にしないでください」

「ホークエール様、いつの間に犬を飼ってたです?」

「ふふっ。貴女のことですよ、アーミア」

「ですっ!?」


 なんだこの部屋めちゃくちゃウルサイぞ。アーミアとイールミィを同じ部屋に置いたらダメだろこれ。

 

 こいつら二人組み合わさったら騒音レベルになるぞこれ。一人でもやかましいけど、組み合わさったら乗算されてる。


「では話を進めますね。これから三日後、竜皇や麗人と代表戦を行うことになっています」


 やはり三つ巴の決戦か。


 その代表戦の勝者がこのクラス内でひとまずのトップになるのだろう。おそらく他クラスとの戦いが落ち着くまでは。


「その代表戦に貴方がたの力をお借りしたいのです」

「もちろんでございます。存分にお使いください」


 恭しく礼をしておく。むしろこの展開は俺に好都合なのだから。


 俺は賢鷹陣営では新参者だ。いくら優遇されて入ったと言っても、他貴族からすれば部外者だ。そんな奴が優遇されていたら面白くないだろう。


 だが俺としては先にいただけの無能貴族に偉い顔されたくない。


 ならばどうするかは簡単だ。この代表戦で活躍することで、他の奴がグダグダ言ってくるのを黙らせればいい! 


 結局のところ、貴族とは勲功とかに弱いからな! それでも不満を持つ貴族はいるだろうが問題ない。


 賢鷹はただ偉ぶるだけの者ではなく、しっかりと優れた者を見極める目を持っている。なにせ俺を見極めたんだからな! この俺を!


 なので代表戦で活躍すればしっかりと評価してくれるはずだ。賢鷹だけでなくて、麗人や竜皇もそういうタイプだろうけどな


「ふふっ、ありがとうございます。では追って指示を出しますので今日はお帰りください」

「ははっ!」


 臣下らしく頭を下げて席を立つ。


 さてこれで舞台は整ったな。後は代表戦で活躍すれば、下手すれば一気に伯爵とかにしてもらえるかも……。


 そう思いつつ部屋から出ようとすると、


「ああ、ひとつだけ伝え忘れていました」


 賢鷹に呼び止められた。彼女は今日一番愉快そうに笑っている。


「なんでしょうか?」

「情報を買わずにうまくやりましたね。ではその浮いた十万魔素はどうされました?」


 うっ、嫌なところ突いてくるな……さっさと逃げよう。


「ははは、貯めております。貯金ならぬ貯魔素ですな」

「次の決戦で活躍すればなにも知らなかったことにしますね」

「ははは、いったいどういう意味ですかね」

「分かりませんか?」

「…………」


 俺は黙って扉を閉めて部屋から出て行った。


 ……十万魔素の使い方がバレている。危険な賭けだとは思っていたが、これは次の戦いで活躍しないと立場がヤバイなぁ。


「え? え? どういうことですの? 十万魔素ってたしか蜘蛛忍者に預けたはずですわよね?」

「ロンテッドさん、いったいなにに使ったんですか?」


 イールミィもベールアインも興味津々だ。


 ……賢鷹にバレてるならこいつらに隠しても意味ないか? 言うつもりも必要もなかったのだが。


「黙ってないで言って欲しいですわ! 気になります!」

「部屋に戻ったらな。それとな、蜘蛛忍者には十万魔素をそのまま渡したわけじゃないからな」

「???」


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