第55話 誰につく?
今、俺の力は売り時だ。
というか今しかない。これ以降に三大勢力の誰かにつくとなると、他クラスに攻められないために守ってもらう立場になってしまう。
それはダメだ。俺が明確に下の立場過ぎて、ロクな扱いを受けないだろう。
だが今ならば違う。三大勢力が争い合うならば、どいつも俺を欲しがるはずだ。
おそらく三大勢力は三つ巴での代表戦を行うはずだ。なにせ他クラスとの戦いを考えれば、ここで同じクラスの者で潰し合うのはよろしくない。
だがあの三人は互いに自分がトップだと譲らないだろう。ではどうやって決めるかとなれば、互いに戦いあうしかない。
でも全力で戦ったら三人とも困るので、代表戦力での戦いをすると思う。
代表戦力ということは、重要なのは数よりも質だろう。そして日本を持つ俺の魔物の質はトップクラスのはずだ。
つまり俺は三大勢力の間で争奪戦になるはずなのでいい待遇になるはずだ!
「でも本当に貴方の予想が合ってますの? もし間違ってたら……」
「その時は俺が勘違いして、勝ち馬を見極める時間を減らしただけのことだ。いずれはどこかの陣営に入るつもりだから、それが早くなっただけだ」
ようはリスクの問題だ。
勝ち馬を判断しきれないのは残念だが、どの陣営も拮抗しているのでどこについても現状では問題ないのもまた事実だ。
それより俺の予想が当たっていたら、即決めないと取り返しがつかない。どこについても悪い立場にされてしまう。
「そういうわけだからどの陣営につくか決めたい。イールミィ、お前は三人と戦ったはずだ。どいつが一番手ごわかったか?」
「ズタボロに負けたから分かりませんわ!」
確かにそうだな!
赤子の手をひねるがごとく潰されたから、どいつが強かったとか分からなかっただろう。そもそも戦いになってたかも怪しかったレベルの瞬殺だし。
「……じゃあどいつが一番怖かった?」
「うーん……竜皇は化け物みたいな強さでしたわ! ドラゴンが次々と粉砕されて、悪夢だと思いましたもの!」
「じゃあ竜皇が一番怖かったってことか?」
「でも麗人もすさまじかったですわ! ワタクシの臣下が仕掛けた罠が、知っているかのように全部見破られましたもの! あんなの反則ですわ!」
「……じゃあ麗人が一番怖かったのか?」
「賢鷹の目も恐ろしかったですわ! 知らない間に三大勢力から攻められた上に、ワタクシの戦力の弱点ばかりついてきましたもの!」
「…………ああ、そう」
つまりイールミィは全員が怖かったらしい。何の役にも立たないミィ……。
「ベールアイン、お前は誰につくべきだと思う?」
「私ですか? 私なら竜皇でしょうか」
「ほう。なんでだ?」
「そうですねぇ…………………やはり強いからでしょうか」
ベールアイン、なんかいますごく悩んでたな。まるで俺に竜皇を勧めるのが前提で、理由を後付けしたみたいにも聞こえたぞ。
だが俺を竜皇につかせるメリットが、ベールアインにあるとも思えないが……。
などと考えていると煙と共に蜘蛛忍者が現れた。
「お館様! その雌蛇は旦那様が麗人と鷹の目について欲しくないから、消去法で竜皇を選んだだけでござる!」
「え、なんで?」
「その二人は女だからでござる! お館様のもとにこれ以上の女が集まるのが嫌だからっ!」
そんなてきとうな理由で言うとも思えないのだが。
ベールアインは困惑しながらも首を横に振った。
「そんな理由で言いませんよ。竜皇さんが勝ち抜くと思っただけです」
「いや絶対に違うでござる! 前提ありきでござる!」
「そもそもなんでそんなに断言できるんですか? まるで……蜘蛛忍者さんが、私と同じことを考えていたようです」
ベールアインがクスリと笑い、思わず身体が震えた。
相変わらず何故かわからないが、彼女のことがすごく恐ろしく見えてしまう。
「なっなっなっ!? そんなわけなかろうでござろう!? いかん用事を思い出したでござる御免!?」
蜘蛛忍者は煙とともに消えてしまった。え? あいつなにしに来たの……?
「それでロンテッドさん。竜皇さんの下につくでよろしいですか?」
「ひっ!?」
やばいベールアインがものすごく怖い。イールミィなんて悲鳴あげたぞ。
俺も思わず承知しそうになってしまう。だが……っ!
「……い、いやよろしくない。あくまでお前に聞いたのは参考のためであって、決定権は俺にある」
「そうですか……それはザンネンです。竜皇さんが勝ち馬になると思ったのですが」
ベールアインは目を細めながら身を引いた。
ふぅ……やっぱりこいつなんか怖いな。まあそれよりも誰と組むかだ。
竜皇、麗人、賢鷹。三人とも能力がバラバラで、はっきり言って比較は難しい。
正直に言うならどいつが勝っても違和感もないし、三人とも力自体も拮抗しているように思える。
その上で俺が誰と組むか、これはもういくら悩んでも決められないだろう。なにせ今までずっと考えていても結論は出なかったのだ。一日で決めるなんて無茶だ。
ならば三人の力を比較しても無駄と言うことになる。
……なら簡単だな。能力以外での基準で判断するならば、俺が選ぶべき陣営はあいつに決まっている。
いや待て。だが他にもやっておくべきことがあるな。
「蜘蛛忍者! いるか!」
呼ぶと同時に煙と共に蜘蛛忍者が現れた。
「なんでござるか。さっき帰ったというのに呼び戻すとはまったく蜘蛛使いが荒い……」
「お前に頼みたいことがある。十万魔素を預けるから」
十万魔素。本来なら情報を得るのに払うはずだったが浮いた分だ。
つまりイールミィによって得した魔素となる。
「む? 十万もの魔素をいったい何に使うでござるか?」
首をひねる蜘蛛忍者。俺はそんな彼女の耳に口を近づけて、小さな声でコソコソと告げる。
「…………というわけだ」
「な、なるほど。承知でござる!」
蜘蛛忍者は俺から魔貨の入った袋を受け取ると、ドロンと姿を消してしまう。
「ロンテッドさん? いったい蜘蛛忍者さんになにをお願いしたんですか?」
「さあな。それよりもつくと決めた勢力のトップに挨拶に行くぞ」
俺は扉に手をかけて部屋から出た。そして廊下を歩いて目的の部屋へと向かう。
俺がつくと決めた相手、それは……。
「ふふっ、来ましたね。私の元に来ると確信してました」
賢鷹の目、イリア・ホークエールだ。
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タイトル変えました。
また一話のプロローグ(主人公出てくるまでの学園話)を削除しました。
これで読者の人増えないかなぁ('_')
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