第54話 予定が狂った
クラス間戦争解禁……クラス間戦争解禁!?
いや待って? は? なんで?
「馬鹿な!? イールミィ! 本当にそう聞こえたのか!?」
思わずイールミィの肩を掴んで揺らしてしまう。
「で、ですわ! そう聞こえましたわよっ!?」
この学園には四つのクラスがあるのだ。
クラス間での戦争が解禁されるということは、おそらくクラスごとに結束しての対クラス間の連合戦が始まりかねないぞ!?
ようは敵の敵は味方理論だ。他クラスのやつは敵だから、ひとまず同じクラス同士は手を組もうというやつ。
さてそうなると一番困るのは誰か。簡単だ、日和見してて誰とも組んでない奴、ようは俺だ。
……他クラス連合軍に攻められたら、いくらなんでもどうにもならんぞ!?
「でも他クラス間戦争解禁なんて、そんなことしても意味がない気がします」
するとベールアインが会話に加わってきた。
「意味がないとは?」
「だって以前にハルカ先生が宣言してましたよね。私たちの箱庭の広さの価値は、どんなことがあっても変わりませんと。もし他のクラスの土地を手に入れても、異世界の土地じゃないですか。なら解禁されても戦わないのでは」
……確かにベールアインの言う通りではある。
他クラスの生徒が持っているのは異世界の土地だ。そんなモノを奪ったところで、元の世界に戻るときには無意味になる。
もちろんこの学園内にいる時は異世界の土地を奪うメリットはあるが、それよりも戦いで戦力を削られるデメリットの方が遥かに高いだろう。
それに負けたら土地を奪われるのは変わらないわけで。ようはメリットとデメリットが釣り合わなさすぎる。
なので仮にクラス間戦争が解禁されても、別クラスに戦いを仕掛ける者はいないと思われる。
だが俺はすごく猛烈に物凄く嫌な予感がするのだ。この学園はかなり色々と考えられているのに、そんな無駄なことをするのだろうかと。
「えっと、それについてもお客様が言ってましたわね。異世界の土地を得ても、元の世界で損することは決してないと……」
「いやおかしいだろ。異世界の土地を手に入れても、元の世界では無意味なはずだ。もし異世界の土地が増えた分だけ、俺たちの世界の土地の配分が変わるならまだしも」
元の世界の土地の広さが変わらない以上、異世界の土地を俺たちの世界で得る方法はない。
これが例えば異世界の土地を、俺たちの世界の土地に変換できるならば話は別だ。
だがそれは無理だろう。だって俺たちの世界の土地は、もうすべてが箱庭に変換されているのだから……もう持ってこれる土地がないわけで。
ようは箱庭は土地引換券のようなものだ。すでに世界全ての土地を引換券にしているなら、これ以上は新しい券は発行できないはず。
するとクソイワがフワフワと浮いてきた。
『クソガキは妙なところで頭が固いですね』
「あぁ? 岩のお前に言われたくねーよ。というか知ってるなら教えろよ。どうやって異世界の箱庭に価値を与えるのかをよ」
本当に分からない。
異世界の箱庭なんかもらっても、元の世界では意味がないとしか……。
『もう情報を知ってしまったですしいいでしょう。貴方は元の世界の土地、いや大陸に縛られ過ぎなんですよ。ここは神前学園ですよ? ならば……世界の土地を増やすことくらい、容易だと思いませんか?』
そう聞いた瞬間、背筋が凍った。
確かに出来て当然だ、なにせここは世界を止めるほどの力を持つ神の学園なのだから。
それこそ海から島を出すことだって不可能ではない。そうして元の世界から増やした土地を、異世界の箱庭分として与えてしまえば……!?
つまり異世界の箱庭も、俺たちの世界の箱庭と同じ価値になってしまうということだ。
はっきり言ってヤバイ。即座に動かなければ手遅れになる。
「……イールミィ!」
「は、はい!? なんですの!? ごめんなさいですわ!?」
俺の叫びで驚いたのか、イールミィはビクッと怖がって謝って来る。
だが違う。俺が言いたいのは……。
「よくやってくれた。お前の動きがあと少し遅かったら、詰んでいたところだ」
「……え? ワタクシ、褒められてますの?」
「そうだ。助かった」
……本当に危なかった。
もしこの情報を知るのが遅れていたら終わっていた。俺は三大陣営のどこかに頭を下げて入れてもらい、守ってもらわなければならなかった。
そんな明らかに俺が不利な状況下では、まともな条件は望めなかっただろう。ロクな交渉の余地もない不平等条約の完成だ。
だが今ならまだ間に合うはずだ。まだクラス間の戦争が始まっておらず、またこのクラス内での戦力も拮抗している今ならば。
「……よし。今日中にどの陣営につくか決めるぞ」
「そ、そんなに早く決めるんですか!? そこまで早くしなくても……」
「いやこうなれば今日でないとダメだ」
俺は今までバザーで情報を集めていた。
それによると他の三クラスは絶対的支配者がいて、すでにひとつにまとまっているという。対して俺たちのクラスだけはバラバラだ。
だが俺たちのクラスの三大勢力たちも、この十万魔素の情報は知っている。それに彼らはかなり優秀で頭もいいので、共倒れは防ぐはずだ。
最後に情報が売られたとほぼ同時に、三大勢力のトップたちが俺をスカウトしてきた。それはつまり……。
「おそらくだが、あいつらひとまずのクラストップを決める決戦をやると思う。つまり俺の力は今売り時なんだよ! 一番高くな!」
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