第51話 卑怯なら任せろ
神前盟約。神前学園の生徒たちを縛る神の法とも言うべきものだ。
神前盟約によって決められたことは絶対に破れなくなる。それこそ因果律を曲げるとか聞いたのは覚えている。
これのせいで俺は以前から損害を受けている。ベールアインが退学になったら神前盟約が消えて、日本の情報が漏れてしまうから見捨てられなかった。
だが逆に言えばだ。退学になった生徒は神前盟約の対象外になるわけで。
例えば俺はベールアインと盟約を結んでいて、彼女は日本のことを話せなくなる。この場合、単純な口約束ではない。
彼女がどれだけ日本の情報を漏らそうとしても、何らかの形で不可能になる。それがどういう方法なのかは生徒である俺には分からない。
例えば聞いた者の耳がその情報を聞こえなくなるのか、あるいはベールアインが喋れなくなるのかもしれない。
ただもし前者であるならば……もう生徒でないイールミィには、その情報を聞くことが出来るかもしれない!
「いいか! この学園は神前盟約ありきだ! ならばそれが無効化されるお前は、有用な手ごまになるかもしれない!」
『ひねくれたこと考えさせたら学園一ですねクソガキ』
「た、確かにそうですわ! ワタクシ頑張りますわ!」
イールミィもやる気を見せてきた。
ふふふ、退学した奴を利用するのを思いつく奴はいるだろう。だが実際にしようとする者は少数のはずだ。少なくとも三大勢力の奴らにはできない。
奴らは自陣営の臣下を退学はさせられないだろう。だって土地がなくなるわけで、そんなの臣下が嫌がるに決まっている。
そうなるとすでに退学した奴を拾うしかないのだが、現段階ではイールミィ陣営だった奴しかいない。つまり三大勢力に滅ぼされて、恨みを持っている可能性を持つ者だけだ。
そんな奴らの言うことを信用など出来ないだろうからな! だがこの姫様は俺を恨んでないし、人柄も今ならば信じられる!
『神の前での盟約なんですが。破るのはいかがなものかと』
「い、言われてみれば確かによくない気もしますわね……」
「安心しろ。これに関しては全く問題ないと断言できる」
俺はクソイワに向けてニコニコと笑いかける。
「だって神様ならばこの盟約の抜け道なんて考えてるに決まってる。なので破られたら困るならば、当然ながら何らかの対策をしているはずだ。つまり抜け道があるならばそれは神の意思というわけだ!」
「た、確かにその通りですわ!」
『神様ー、ここに不届き者がいますよー』
だがクソイワはまだ俺の天才的閃きを受け入れようとしない。
チッ、面倒くさいな。ならこれで白黒つけてやるよ。
「おいクソイワ。じゃあ聞くぞ、退学した者を利用するのは校則違反か? ガイドブックとしてルールを答えろよ」
『違反ではありません』
「つまり神は許してるってことだろうが! 権謀術数を駆使して、神前盟約を悪用して詐術を働くのを! どうだ当たりだろ!」
『いつかバチ当たればいいと思います』
クソイワは捨て台詞を吐いたので、やはり俺の策は問題ないようだ。
というかむしろ推奨してる気もする。そうでなければ退学者をわざわざ学園に残すか?
夢も希望も食べるものもなく、卒業までの残り期間を地獄のように暮らさせるか? 神様であるならば退学者にも手を差し伸べて、何らかの逆転策を用意すべきだろう。
それがこの神前盟約破りなのではなかろうか。もちろん他にもあるのかもしれないが、ひとまず俺が思いついたのはこれだ。
「そういうわけで早速だが十万魔素の情報を手に入れたい! 実はな。先日のバザーでシチュー売ってた時、例の情報を知っていると言ってた奴がいたんだ。覚えてるか?」
「そうなのですか! ワタクシ、全然気づきませんでしたわ!」
イールミィは少し驚いた様子で叫ぶ。
まあ気づかなかっただろうな。なにせこいつは魔素の会計は間違えるし、客との会話では噛み噛みだし、シチューの皿はぶちまけるしだ。
周囲の状況なんか気にしてる余裕なかっただろう。
「そいつは常連客でな。バザーをやると毎日やってくるんだ。だからうまく話を聞き出したいんだよ」
「でも警戒されませんの? 本当かもしれない情報なら、他の生徒に迂闊に話してくれないのでは?」
「安心しろ、そいつは他クラスの生徒だからな。他クラスの奴の箱庭を奪っても、異世界の土地が手に入るだけだろうしな。そんなもん互いにいらないから、敵対関係にならないんだよ」
元の世界での領土の広さと箱庭の広さは比例する。
これは入学式で神が宣言した。つまり俺たちのクラスの箱庭の広さの総合計が、元の世界の土地全てになるはずだ。そうでなければ理屈が合わないからな。
そんなルールで他クラスの土地を手に入れても、異世界の土地を手に入れるだけだ。異世界に行く手段がないので無意味過ぎるだろう。
例えるなら月の土地を手に入れるようなものだ。うん、要らない。
「そういうわけだから中庭に向かうぞ! バザーの準備だ!」
「はいですわ!」
そうして俺とイールミィが自室の扉を開いた瞬間、俺に用事があったのかベールアインと出くわした。
ベールアインは巻いた毛布を持っている。
「お? ベールアインじゃないか。どうかしたのか?」
「えっと、イールミィさんに毛布をさしあげようかと。ほらあの、部屋を追い出されたら寒いだろうし、せめてと……」
ベールアインは申し訳なさそうにイールミィを見る。
なるほど、善人だけあって野宿ミィを心配したのか。だがもうその心遣いは無用になった。
「ああ、それなら大丈夫だ。イールミィはこれからも俺の部屋に居候するから」
何気なく告げた直後、俺は思わず飛びのいてしまった。
凄まじく恐ろしいナニカが現れた気がしたのだ。心臓もバクバクと鳴るが、周囲を見回してもそんな者はいない。
いや違う。
「……えっと、どういうことですか?」
目の前にいるベールアインに、なぜかすごい恐怖を感じていた。
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