第46話 諜報力を強化しよう


 さて久々に姫様が俺の部屋から出て行ったので、今の間に彼女に知られたくないことをしようと思う。ようは我が箱庭の強化だ。


 戦争が終わってからおよそ二十日は経っているので、かなりの魔素が溜まっている。


 なんと現在の魔素は七万ほどあるのだ。特に最近は日に六千ほど増えるからな、最近の神の雪(アイス)の儲けで。


 そんなわけで急いでベールアインを呼んできて、日本の戦力強化を行うことになった。


『よかったですね。これでゴーレムタンクが三体も召喚できますよ』


 クソイワがフワフワと浮いてくる。


 そういえばお姫様がいた時はこいつが静かだったな。


「なんでゴーレムタンクで魔素をほぼ全部使わないとダメなんだよ。あいつら性能が極端過ぎるし、使えない場所もあるからな」


 ゴーレムタンクは火力と防御力は高いものの、コストと細かな敏捷性には難がある。


 例えばこいつは空を飛べないから空の敵や海では無力だ。それにこいつ一体に必要な魔素で、竜騎兵を三十体近く召喚できるからな。


 魔素が無限にあるというならゴーレムタンク軍も作れるだろうが、有限である以上はバランスなどを考えて戦力を用意しなければ。


『じゃあどんな魔物を召喚するんですか。ゴーレムタンク揃えればロマン戦車軍団ですのに。どんな相手でも負ける気しませんよ』

「敵が空飛ぶドラゴンだったらどうするよ」

『最強軍団が上から蹂躙されるのもまた一興』

「ふざけるな。そういうわけだからこちらも空を飛べる魔物が欲しい。なにかいいのはいるか?」


 ベールアインに視線を向けると、彼女は少し悩んだ後に。


「やはり戦闘機がいいとは思うのですが……」

「おいクソイワ。戦闘機はあるか?」

『ファイターゴーレムがいますよ。いま性能などを表示しますね』


 クソイワに文字が刻まれていく。


 ファイターゴーレム・・・必要魔素40000。戦闘機型ゴーレム。Sランク。飛行系魔物とは思えない火力と機動力を併せ持つが、その分防御力はかなり低い。


「……高い攻撃力の代わりに防御は低いのと。また極端なタイプの魔物か」

『ですが飛べない魔物相手ならば、ほぼ一方的に空から攻撃できますよ』

「それが強いのは分かるが、四万魔素は凄まじいな……」


 クソイワの言ってることは分かるし、ファイターゴーレムは間違いなく強いだろう。


 そもそも空を飛べるという時点で強いのに、それが高い攻撃力と機動性を持つとか反則だ。高火力を空から放てるのは、陸で敵対する者たちには悪夢だ。

 

 だが四万魔素はコストが高すぎる。その消費に応じた強さがあるのかもしれないが……敵だって飛行戦力を用意してくるだろう。


 それでもしファイターゴーレムが撃墜とかされたら泣いちゃうかも。四万魔素が無に帰すわけだからな……。


「ファイターゴーレムについては考えておく。それよりも俺が強化したいのは諜報力だ。具体的には蜘蛛忍者みたいなのを増やしたい」


 戦力とはなにも直接的な武力だけではない。


 情報とて国の力のひとつだ、いや状況次第では武力を上回る力にもなりえる。


 そもそも今の俺は勝ち馬を見極めようとしているわけで、それを考えれば情報こそ最も貴重なものであるはず。


 だが現状の諜報活動は蜘蛛忍者一体に頼っているのが現状だ。これでは流石にマズイだろう。


「確かにそのほうがよさそうですね。蜘蛛忍者ちゃんはいつも忙しそうですし」


 ベールアインも賛成のようだ。


 俺としても蜘蛛忍者の負担が大きすぎると思っていたが、やはり間違ってはいなかったか。少し反省しないとな。


 新しい魔物を召喚して仕事を減らしてやらないと。


「クソイワ。諜報系の魔物を教えてくれ」

『やれやれ。仕方ありませんね』


 クソイワにまた文字が刻まれていく。


 上忍狐・・・必要魔素2000。Bランク。妖術を使う狐系忍者。相手を騙し化かすことにおいては右に出る者はいない。ただし戦闘力自体は低め。


 子蜘蛛下忍・・・必要魔素500.Dランク。蜘蛛忍者の下位互換だが、蜘蛛系魔物が連携すればランク以上の力を持つ。


「うーん。これなら上忍狐の方がいいかな……?」


 優秀な者が一体か、少し劣るが数で補うかというところだ。


 上忍狐の戦闘力が低めというのは気になるが、その分諜報に特化した能力だろうしこちらの方がいい気もする。


 そう考えた瞬間だった、煙と共に蜘蛛忍者が現れた。


「どうした? なにか新しい情報でも……」


 俺が言いかけた直後、蜘蛛忍者はポロポロと涙を流し始めた!? なんだ!?


「お、お館様……拙者はずっと頑張ってきました……っ! なのにっ、どうしてっ……!」

「え? いやなにが……」

「拙者を捨てて新しい諜報要員を召喚するなんて……うう」


 どうやら蜘蛛忍者はなにか勘違いしているみたいだ。おそらく自分が使い者にならないから、新しい魔物を召喚すると思ったのかな。


 これは予想外だ、仕事の負担が減るから喜んでもらえるはずなのに。妙な誤解はさっさと解いておこう。


「いや違うぞ蜘蛛忍者。ずっとお前に負担をかけ続けてきたから、お前の助手を召喚しとうと思ってな」

「お館様! せめて……せめて捨てられるなら、その前に一度でいいから抱い……えっ?」

「えっ?」


 俺と蜘蛛忍者の声が被って、互いに言いたいこと話してる感じになってしまった。


 というか蜘蛛忍者、いま何を言いかけた? 


「なあ蜘蛛忍者。なにか言いかけて」

「いっ、いっ、一度でいいから、大嫌い言いたかったのでござる!? お館様に直接! 大嫌いと!! それと拙者は助手よりも部下が欲しいでござる! ほら下手に並ぶ者がいると余計に手間だから御免!!!!!!」


 蜘蛛忍者はそう言い残すと煙と共に消え去ってしまった。


 大嫌いって……そこまで嫌われるほど、ひとりでの諜報活動は負担だったのか?


 いやでもさっき言いかけたのって大嫌いの発音だったか? むしろ抱いてみたいなノリだったような……流石にそんなはずないか。


 蜘蛛忍者にはずっとイヤミを言われ続けているわけで、抱いてとか言ってくるわけがない。我ながら気持ち悪い願望交じりの空耳をしたものだ。


「よしひとまず子蜘蛛下忍を召喚するか。蜘蛛忍者の負担を減らさないと、これ以上嫌われたらたまらん……」

『嫌よ嫌よも好きの内ですよ。抱いて欲しいんですよ彼女は』

「てきとうなこと言うなよクソイワ。流石に冗談が過ぎるぞ」

『冗談じゃないんですけどねぇ』


 結局、子蜘蛛下忍を四体ほど召喚した。


 蜘蛛忍者より一回り小さいロリ少女で、彼女と似たような忍び装束をまとっている。彼女らは蜘蛛忍者の部下にしておくことにした。


 これで少しは機嫌よくなればいいんだけども。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る