第45話 これ以上の延長はごめんだ!
「美味しいですわ!」
賢鷹との茶会が終わってから数日が経った。
俺は元姫様におにぎりを餌付けしながら、今度の動きについて悩んでいる。
三大勢力のどこにつくべきかまだ全然決まってない。先日の茶会で三大勢力トップたちの人柄は知れたが、決定打にならないばかりかむしろ余計に悩む始末だ。
竜皇、麗人、賢鷹……それぞれに長所があり、あの短い茶会でもそれを感じ取れた。
麗人は俺の考えをおそらく勘で読み取るし、女に異常にモテる野郎だ。つまり女の臣下からの忠義が絶大なのは間違いなく強力な武器になる。
賢鷹もまた頭脳で俺の思考を当てやがったし、話してるだけでも策士ぶりは分かる。三大勢力同盟の発起人でもあるそうだし、間違いなく優れた戦術眼を持っている。
そして竜皇は座るだけで椅子を粉砕する馬鹿力だ。たぶんあいつはケツで魔物を殺せるぞ。ヒップドロップとかで。
そんな奴が率いる軍はまさに怪物的な強さを持つだろう。下手をすれば竜皇ひとりで戦略的不利を覆すほどの武勇だ。
どいつもこいつもめんど……優秀な奴らだ。話す機会を得たせいで余計にそのことを痛感してしまう。
「ごちそうさまですわ!」
そんな三人に滅ぼされた元姫様は、嬉しそうにおにぎりを食べ終えた。うん、やはりこいつが無能というより他の奴らが優秀過ぎただけだな。
そう思うとこいつに同情する余地はある。だが俺は無駄飯ぐらいは嫌いだし、二週間も面倒を見れば義理は果たせるだろう。
それにこいつがいたら俺の部屋が使えなくて困るし。
「さてイールミィ元姫様、あと八日ほどでこの部屋から出て行って頂きますが、次の行き先は決まりましたか?」
この元姫様にはここで強く言っておかないと、期限を過ぎてもなあなあで残りかねない。
俺がそう告げた瞬間、元姫様は現実に帰ったかのように暗い顔になった。
「……も、もう少し伸ばして欲しいですわ! お願いですわ!?」
ほら見ろ、こうなるのは予想済みだ。
「ダメです。どうしてもというならベールアインに頼んでください」
「もう頼みましたが断られましたわ!」
どうやら拒否られていたらしい。しかしベールアインは善人の類だろうに、どうしてここまで元姫様を泊めるのを断るのか。いや俺からすれば当然の行為なのだが。
「そもそも男の俺の部屋に泊まってることがおかしいですよ。イールミィ様からしても不安でしょうし、俺もいつまで我慢できるか分かりません。そういうわけなので」
「外より遥かにマシですわ!? お願いですから追い出さないでくださいまし!?」
イールミィ元姫様は俺にしがみついてきた!? ええいこの汚姫様め! 恥や外聞はないのかこいつは!
そもそも暗にこのままなら襲うぞと言ってるのに、外より遥かにマシってなんだよ! こいつ馬鹿が!
「ええい離してください! 本当に襲いますよ! それよりは外で寝泊まりしたほうがマシでしょう!」
「マシじゃないのですわ!? 外でもアルベン子爵たちに襲われるのです!? 危ないから迂闊に眠れませんの! それなら室内で眠れて食べられる分、こちらのほうがいいのです!!」
元姫様がガチで叫んできて思わず引いてしまった。しかしアルベンたちは死んでも俺に被害を与え続けるとは……!
蜘蛛忍者にアルベンを処断させておいたが、この学園だと三日くらいで回復するからな。いっそ蜘蛛の巣で永遠に閉じ込めさせておくべきかね?
「お願いです! どうか部屋にいさせて欲しいのですわ! 食事はなくてもいいから!?」
「ええい放せ! まとわりつくなっ!」
「嫌ですわ! 他に行くアテがないですもの! ここを追い出されたらワタクシ酷い目に合うのですわ!?」
「そこまで嫌なら自分の都合を振りまくんじゃなくて、俺にメリットを寄こせよ!? なんでなんのメリットもないお前を、俺の部屋に居候させなきゃならないんだ!!! ……あっ」
しまった!? 元姫様がうっとうしくてつい本音が!? 上っ面善人には相応しくない言動をしてしまった!?
ええいなんて厄介な姫様だ! こいつさては俺の天敵では!? 仕方ない、この言葉を言いふらされては困るし数日だけ伸ばして口封じだ!?
「あー。姫様、いまのは冗談でして……特別にあと十日ほど居候を許可します……」
だが姫様は俺の言葉には反応せずに、なにか目覚めたかのように震え出した。どうした? 実は言葉責めされるのが好きとかの性癖あったとか?
「それですわ! ワタクシがこの部屋にいるメリットがあればいいんですわ! そうすれば置いてくれるって言いましたわね!」
「……言ってな」
「さっそく探してきますわ! ワタクシが貴方の部屋に居候するメリットを! このワタクシならすぐに見つけられますもの!」
そう言うや否や、姫様は信じられない勢いで部屋から出て行ってしまった……。
それと入れ替わるようにクソイワがプカプカと空中に浮いてきた。
『口は災いの元って言葉がありましてね』
「……クソッ! この俺が失言してしまうなんて!? しかも二度もだと!? 上っ面には自信があるというのに!」
「アルベンの時もその上っ面剝がれてましたが」
「あの時は自分から剥がしたんだよ! 今回は無理やりひっぺがされたんだ! まさか俺って、あの姫様と相性が悪いのか!?」
『よくはないでしょうね。やや天然で元気なタイプは、性根が悪い貴方からすればやりづらいでしょうし。おや、あの姫様を近くに置いておけば弱点の克服になるというメリットが』
「それ絶対に言うなよ」
……面倒なことになってしまったがまあいい。もしあの姫様が俺にメリットをもたらすならば、部屋に置いておくのもやぶさかではない。
あの話の流れでメリットが用意できないなら、約束したよなと追い出せるしな。
『実際のところ、生徒ですらないあの娘がクソガキにメリットを用意できるのでしょうか』
「さあな。俺はひとつ心当たりがあるけど」
俺には今の彼女の立場で、俺に与えられるメリットが思いつく。
『なら言うべきでは?』
「嫌だね。あの姫様に部屋に居座られるのは困るし……なにより俺が教えないと分からないようじゃ、メリットにならないんだよ」
『あ、分かりました。身体で奉仕しろってことですね。自分から涙ながらに奉仕させてくださいと言わせたいのですね。見損ないました、クソガキどころかエロゴミクズですね』
「もはや俺の特徴ゼロの悪口だろそれ!? 違うに決まってるだろゴミクソイワ!」
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