第42話 竜皇のゴリ押し


「これより茶会を行うぞ! さあ貴様の部屋に入れるがいい! 嫌ならば我が部屋に来い!」


 竜皇はマッスルポーズを取りながら叫ぶ。


 彼の身体中の筋肉が蠢いて見るからにヤバい、こいつ化け物だ!


「えっと。私にも色々と都合がありまして……」

「ほう。我より大事な都合があると! 三大勢力のトップにして、勝利者になる竜皇との話よりも大事なモノが!」


 竜皇は不敵に笑う。


 ……そりゃ普通に考えれば、こいつとの話より優先すべきことなどない。


 なにせ三大勢力のトップのひとりとの茶会の誘いだ。今の俺に断る選択肢などないし、この学園でそこまでの都合などあり得ないだろう。


 つまり竜皇は俺の立場を理解した上で、不意打ちで来やがったと。どうやら単なる脳筋とは違うようだ。


「それでどうする! 我が貴様の部屋に入るか! それとも貴様が我の部屋に来るか!」

「……会談室でいかがでしょうか?」


 竜皇を俺の部屋に入れたくない。いきなり来やがったせいで片づけも出来てないし、情報が漏れてしまうかもだ。そもそもお姫様いるし。


 かといって竜皇の部屋にも行きたくない。というか相手のペースに乗せられ続けるのが嫌なので会談室を選んだわけだ。


「ほう! それもいいだろう! では来るがいい!」


 そうして俺と竜皇は廊下を歩き会談室へと到着。


 竜皇がドシンと椅子に座ったので、俺も対面するように席につこうとして少し躊躇する……この筋肉と手が届く距離で話すのは危険な気がする。


「どうした! 我はなにも武器を持っていないぞ! 恐れる必要はないだろう?」


 竜皇は豪快に笑うが俺としては全く安心できない。なにせこいつはドラゴンすら殺す怪物だ、下手したら俺の頭を握力で潰されかねないし。


 ……とは言えどもここで席につかないと話すら出来ない。諦めて座ることにした。


「それで何の御用でしょうか?」

「貴様なら言わなくても分かるであろう!」


 言ってくれ頼むから。そりゃ予想はしてるが合ってるかは分からないんだよ!?


「……僭越ながら、私を陣営に入るようにスカウトしに来たのでしょうか?」

「そうだ!」


 竜皇が叫ぶとともに、彼の座っている椅子からメキメキと嫌な音がする。


 たぶん筋肉が重すぎて重量オーバーなのだろう。人間が座る用の椅子じゃ規格外みたいだな……。


「ありがたいお話です。やはり私の箱庭を評価してでしょうか」


 竜皇は日本の価値をある程度把握しているはずだ。なにせ俺がアルベン野郎に勝った時の戦いを見ていたのだから。


 愚かな無能貴族共は勘違いしているようだが、三大陣営のトップたちはそれぞれお優秀だからな。普通に分かることだろう。


 だが竜皇は首を横に振った。


「箱庭の件は否定しない。だが我はそれよりも貴様の将としての質を評価している」

「将としての質?」

「うむ。貴様はアルベンとの戦において、前線に出て自ら剣を振るっていただろう。あれは戦に慣れた者の指揮だった。また貴様は策士としても優れているように見えた。故に我は貴様を欲する」


 おっと予想外の答えが返ってきたぞ。てっきり俺の持つ土地や魔物が評価されたとばかり思っていたのだが。


 ……俺自身の手腕が評価されているならば、正直言うと少し嬉しくはある。もちろんお世辞の可能性もあるが、


「我が陣営は力こそ全てだ。後から入る者であろうと不遇はせぬ。貴様の実力ならば我の右腕にもなれると踏んでいる。なにせ我が陣営は策士や軍師の類がいないのでな!」

「じゃあどうやって戦うんですか」

「目の前の敵を粉砕していけばいずれ勝てるだろう?」


 竜皇はなんの疑問もなく告げてくる。どうやら俺の先ほどの意見は違っていたようで、こいつは見た目通りの脳筋のようだ。


「実際のところな。我が陣営は下手な策を取るよりも、単純にゴリ押ししたほうが強いのだ。考えることに力を使わない方が」


 竜皇は嘘をつくような人間には見えない。よくも悪くも単純明快、というか明壊な男なのだろう。


 だがこいつと話していると少し気が高ぶって来る。どうも俺の将としての心が、彼の威風というか気位に反応しているようだ。


 少し話すだけで分かる。こいつはまさに、兵士を率いるに相応しい将格を持った男だ。


「過分な評価、恐れ入ります」

「過分ではなく妥当な評価をしているつもりだ。どうだ? 貴様が我が陣営に入れば、より楽に勝者になれる」


 竜皇は俺に手を伸ばしてくる。


 ……だが当然ながらここで返事はできない。竜皇が有能なのは知っているが、他の麗人や賢鷹もまた別方向に優れた者だ。


 というか下手に握手したらそのまま手が潰されそうで怖いのだが。


「申し訳ありません。この場で返答はできません」

「そうだろうな。だが覚えておくがいい。勝つのは我であると」

「肝に銘じておきます。それとひとつだけお聞きしたいことがあるのですが」

「よかろう。申すがいい」


 俺は三大陣営のトップと話すにあたって、全員に聞いておきたいことがあった。


 この問いの答えを聞けば、彼らの考えなどがある程度読めると思っている。


 それは……。


「貴方は何故、クラスでトップを目指すのですか? 叶えたいナニカがあるなら教えてください」


 彼らが戦う目的だ。正直言ってしまうなら、危険を冒してまで最大勢力になる必要などないと思える。


 それこそ三大勢力で話し合って停戦協定を結んでしまえば、後は学園卒業まで平和に暮らせるのだ。それをしないということは、それぞれがトップになりたい願いを持っている気がする。


 ただこの男の場合は、そもそも戦争を求めてる可能性があるが。ほら鍛え上げた筋肉の振るいどころが欲しいとかで。


「いいだろう、ならば教えてやろう。我が宿願は! 世界に代理戦争をもたらすことだ! そして普通の戦争はなくさせる!」

「……代理戦争、ですか?」


 なんか筋肉の塊から予想外な返答が来たぞ。


 むしろ世界の全てを掌握して、常に争いの絶えない世界を作るくらいの方が説得力がありそうなのに。


「予想外か? 我はな、武人たちが命を賭けて戦うの素晴らしいと思っている。だがな、民を巻き込んでの戦はダメだ。望まぬ者が戦に出るのは見苦しい。故に武人だけが剣を振るい、そして勝敗を決める戦争にしたい」

「……だから代理戦争と?」

「そうだ! 命を賭けた戦いは美しいが、その後の略奪や蹂躙などはそれを穢すモノだ。貴様とて聞いたことがあろう? 女は犯され子供は殺され、それのどこに美しさがある!」


 あー、この竜皇はよくも悪くも戦好きの武人なのか。


 戦争には汚い側面があるのも事実でそれを無くしたいと。確かに戦うのが大好きな武人が考えそうなことだな。


「返事はこれで満足か?」

「ええ、ありがとうございます。参考になりました」


 竜皇の考え方や目的は知れた。さて三大勢力の残り二人も、この質問を聞ければいいのだが。


「では返答のお礼に贈り物を。おにぎりとアイスです」


 俺は箱庭を呼び出して、そこからおにぎりとアイスを取って竜皇に手渡……すのは怖いから、彼の目の前のテーブルに置いた。


「ほう。これが……どれ」


 竜皇はおにぎりを一口で食べると、目をカッと開いた。


「むむっ! これは力となるな! 食べやすく、それでいて腹にたまる! 戦争の時の食事として優れている! それでいて美味いとは!」


 どうやらお気に召したようだ。次にアイスを食べると。


「ほう、冷たくて甘いな。これは菓子として優れている」


 絶賛しているが先ほどのおにぎりほどの熱気はない。本当に彼は戦蛮族なのだろう。


「そういえば売店の情報買いました?」

「もちろんだ。盟約のため我は教えられぬが、間違いなく重要な情報だった。貴様も買っておいた方がいいぞ」


 そうして竜皇との会談は終了して、互いに席から立ち上がろうとしたところ。


「むおっ!? ええい、なんと脆い椅子を使っているのだ! 壊れてしまったではないか!」


 竜皇の座っていた椅子が限界を迎えて、足がへし折れてぶっ壊れてしまった。


 しかもその拍子に彼は尻もちをついたのだが、床が少しへこんでしまっている。


 なんてケツ圧だ。あいつマジで全身凶器じゃん。


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