第41話 三大勢力のトップたち

 

 お姫様を二週間も養うことになってしまった。


 正直言うとかなりの負担だ。なにせ俺の部屋に滞在されると内緒話がしづらいし、食費も負担しなければならない。


 食費くらいと思うかもしれないが、この学園において魔素は重要なのだ。つまり姫様の食費の負担によって、俺の箱庭の防衛力が消えていくということになる。


 そう考えるとやはり養うのをなしにしたいのだが……。


「と、とりあえず二週間は寝床を確保できましたわ……! 食事も取れますわ……!」


 必死な姫様を見ているとなんとも言いづらい。


 三日前まで世界最大国家の姫様だぞこれ。いくら落ちぶれるにしても限度があるだろ。あまりにも哀れ過ぎる。


「それとこの部屋で得た情報は他言無用でお願いしますよ」

「もちろんですわ!」


 姫様はしっかりとした声で返事してくるがすごく不安だ。


 もう姫様は生徒ではないので神前盟約が使えないのが痛すぎる。外に漏れてはダメな話は、彼女の前では絶対にしないでおこう。


 などと考えていると外から扉がノックされた。誰か来たのだろうか。


「お客様ですわよ。出ないのですか?」

「……そうだな」


 姫様は首を小さくかしげるが、居候なら自分が出るか聞いた方がいいのでは。


 いやどちらにしても出させる気はないし、俺の立場でどうこう言いはしない。でもこう居候する側の立場として……まあ元姫様だもんな。こういった気を使うというのは苦手そうだし。


 などと思いつつ扉を開くと。


「いやがったですね、エンド男爵! イリア様からの招待状です! 感動のあまり涙ぐんで受け取りやがれです!」


 賢鷹の目の腹心、アーミアが腕を組んで待っていた。


 だが十歳くらいのロリっ娘のため全く威圧感はなく、むしろほほえましく見えてしまう。小さいって得だな。


「招待状ですか。ありがたく受け取ります」


 そんなこと思いつつ、嫌そうな顔を隠して手紙を受け取る。


 四大勢力……ああいやもう三大勢力か。その一角からの招待状なんて絶対面倒な内容に決まってる。というか陣営へのスカウトだろ、どうせ。


 俺としてはまだ勝ち馬を見極めてるところなので、こういった招待は避けたいところだ。でも誘われて断るのもまた難しいわけで。


「明日の午後にやるです! 絶対参加するです!」

「ははー。例え雨が降ろうが雷が鳴ろうが、絶対に出向くとお伝えください」

「当たり前です! 例え足が両方ちぎれても歩いて来るです!!」

「ははー」


 それは流石に無理だ。両足無くなったら歩けない、でもここで突っ込まないのが処世術である。


「用事はそれだけです! 帰るです!」


 アーミアはそう言い残すと廊下を走り去ろうとして、途中でズッコケたがすぐ起き上がって去っていった。


 あいつ本当によくコケるな。なんであんなのが賢鷹の腹心なんだ? もしかして腹心なのが嘘だったりするのだろうか。


 腹心の正体を誤解させておいて、いざ戦争などでアーミアとは思えない策を繰り出す……あり得るな、俺が賢鷹の立場ならやりそうだ。


 実はあの腹心は偽物で他にちゃんとした右腕がいるのかもしれない。あるいはアーミアが指揮しているようにみせて、裏で賢鷹が全てやるとかで。


 なお招待状の手紙を読んでみると、貴族らしい特筆することもない内容だった。先ほどアーミアが言った内容をムダに分かりづらく記載しただけ。


『それで本当に出向くのですか?』


 クソイワがぷかぷかと宙に浮いて声を出す。


「持病の嫉妬でごまかせる相手と思うか?」

『無理でしょうね。というか誤魔化す気ないでしょう』

「どうせ行くしかないし」


 などとやり取りをすると、また扉をノックする音だ。


 アーミアめ、なにか用件を伝え忘れて戻ってきたのだろうか。


「はいはい。どなたですか」


 扉を開くとそこにいたのはアーミアではなく、同じクラスの女子生徒だった。


 直接話したことはない奴だ。だが確かこいつはレティア陣営のやつだったような……そんな奴がなんの用だ?


「レティア様の代理で参った。お前を茶会に招待したいそうだ。これが手紙だ」


 ……えー。なんで三大勢力の賢鷹に招待された直後に、さらに同じく三大勢力の麗人が?


 面倒というかあまり関わりたくないが仕方ない。むしろここで断る選択肢はないな。賢鷹の招待だけ受けて麗人を断ったら、その時点で麗人陣営に敵対の意思を示すようなものだ。


「ははー。ありがたき幸せー。例え雨が降ろうが雷が鳴ろうが、絶対に出向くとお伝えください」

「その程度で休むなど許されるわけなかろう。たとえ死んでも来い」

「ははー」


 それは流石に無理だ。死んだら来れない、でもここで突っ込まないのが処世術である。


「いいな? 必ず来るように! ではな」


 レティアの使いは帰っていく。


 少し見ていたが転ぶ気配はないので、やはりアーミアがドジなだけらしい。


 室内に戻ってベッドに腰かけて、手紙を見てみると。


【親愛なるエンド男爵へ。ボクの名前はレティア、ぜひ君とお話してみたく手紙をしたためさせてもらった。本来ならボクが直接手紙を渡すべきところだが、流石に驚かせてしまうと思って使者を送ったのは許して欲しい】


 というような感じで少し馴れ馴れしい文面だ。先ほどのホークエールがいかにも公的な面白みのない文なら、レティアは逆にあまりにも私的だろうか。


【黄金と穀物を持つ孤高の君と、同じ風を浴びれたら嬉しいな】


 ついでに微妙に意味分からないが詩的でもあって、まあなんとも性格が出てるな。チッ、こういう奴だから女にキャーキャー言われるんだ。


 そんなにモテない俺としては少し見習うべきかね?


「……エンド男爵。貴方、思ったより人気あるのね? どうしてなのですわ?」


 お姫様がキョトンとした顔で口を開いた。こんな人気欲しくねぇ……。


「俺も分かりませんよ。まさかほぼ同じタイミングで三大勢力の二陣営から招待を受けるとは……」


 などと考えていると、ゴンゴンと扉をノックする音が……あ、すごく嫌な予感がする。


「なあこれさ、この流れだと最後は竜皇の使いじゃないか?」

『その可能性は高いでしょうね。とりあえず出られては?』

「うええ……」


 なんで三大陣営の使いがほぼ同時にやって来るのか。本当に勘弁して欲しい……。


 でも断るわけにもいかないし、竜皇の使いからの招待も受けないとダメだろうなぁ。などと考えながら扉を開く。そこには……筋肉がいた。


「我が名はドラゴニア・バーンテッド! これより貴様と茶をすべくやってきた!!」


 ドラゴニアが叫ぶと同時に、彼の上半身の服がはじけ飛ぶ。


 ……竜皇様、招待どころか直接出向いてきやがった!? なんで!?


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