第40話 お姫様は役立たず?


 バザーで荒稼ぎした俺は、自室へ戻るために廊下を歩いていた。


 いや儲かった儲かった、今日だけで魔素が六千も稼げたぞ。


 おにぎりだけなら二千くらいなことを考えればヤバイ。やはり単価が高いと利益も多いな。神の雪ことバニラアイス万歳だ。


 などと考えていると煙と共に蜘蛛忍者が現れた。


「お館様、報告でござる。売店で張り付いていたところ、情報を購入した者が現れたでござる」

「おお! 誰だそいつは!」


 蜘蛛忍者には売店を見張らせて、情報を購入した者が現れるのを待たせていた。


 理由は簡単だ。なにも馬鹿正直に売店から十万魔素出して買う必要はなく、買った奴にそれ以下の値段で教えてもらえばいい。


 情報を買った奴は魔素が手に入るし、俺は本来より安い値段で情報が手に入るからな。互いに得するのだからいいだろ。


 売店は損する? 知らんな、売った情報をどう扱うかは買った奴の権利だろう。


「三大勢力の各トップでござる。竜皇、麗人、賢鷹がそれぞれ購入しておりました」

「あー……そうだろうな」


 十万魔素はかなり高い買い物である。なにせ一体でも持っていれば強力なAランク魔物を、五体も召喚できるほどの魔素だ。


 俺が今日だけで六千以上の魔素を儲けたので感覚がマヒしがちだが、普通の生徒が支払うのはかなり難しいだろう。ましてやどんな情報かも分からないのだから、迂闊に購入する馬鹿はそうはいない。


 だが三大勢力の各トップならば十万魔素でも出せる。ならば買ってもおかしくはない。


「そうなると三大勢力に入った生徒たちは、全員がその情報を知ることになるか。配下には教えるに決まってるし……なら情報を得るのは簡単そうだが」


 クラスの大半は三大勢力のどこかに属している以上、そいつらもその情報を知ることになる。そうなればその情報はクラスに知れ渡るので、大した価値はなくなってしまう。


 だが蜘蛛忍者は首を横に振ると、


「それは無理でござる。三大勢力のトップが情報を得る時に、神前盟約を行った気配があり申した。おそらく情報漏洩を防ぐために」

「……あー。毎年売ってるだけあって、流石にそこらへんは対策してるか」


 仮にクラス内で知れ渡った情報であれば、簡単に得られると踏んだが無理そうだ。


 神前盟約はかなり万能で、約束させたことは物理的に破れないからな。その情報を漏らさないように命じれば、仮にそいつが情報のことを告げても他の奴に聞こえなくなるくらいだ。

 

 俺もベールアインと神前盟約を結んで、日本のことを一切漏らさないようにさせているし。


 だが三大勢力のトップたちが情報を買ったということは、彼らはその情報をもとに動くということだ。


 仮に三大勢力の下の奴らは知らなくても、動きの方向性を決めるトップが情報を得ているのは大きい。


 勝ち馬を見極めるには判断材料が多い方がいいので、俺も情報欲しいのは山々だが……高いんだよなぁ。十万魔素あれば戦車五体召喚できるし。


「わかった。ありがとうな、蜘蛛忍者。売店についてはもう調査は不要なので、通常の任務に戻って欲しい」

「……ふん! いまだに名前すら寄こさぬとは!!」


 蜘蛛忍者は不機嫌そうにそっぽを向くと、煙と共に姿を消した。


 交代するように空中を浮いた石板が声を出し始める。


『名前あげないんですか? 無料なんですしいいじゃないですか』

「蜘蛛子」

『はい?』

「三日三晩考えた名前だが?」

『ネーミングセンス終わってますね。それあげたら流石の蜘蛛忍者もキレるのでは?』

「……やっぱりダメか」


 ……名前を考えるのがここまで難しいとは思わなかった。もうしばらく考える時間をもらおう。


 そうして俺は自室に戻ると、


「お帰りなさいですわ!」


 姫様が笑顔で迎えてきた。昨日に比べてだいぶ肌の血色がよいので、おにぎりを食べて元気になったようだ。


「おや姫様。随分と元気になりましたね」

「貴方のおかげですわ! もう野外で寝たり、絶食せずに済むと思えば!」


 姫様はすごく嬉しそうに話し続ける。


 ……ん? なんか俺がずっと彼女の面倒見る雰囲気になってない?

 

 いや流石に気のせいだろう。俺は泊める時に数日ならとか言ったと思うし、流石に姫様もそこまで図々しくはないはずだ。


 でも念のために明言しておこう。

 

「いえいえ、泊めたかいがありましたよ。では明日あたりにはこの部屋から出ても大丈夫そうですね?」

「えっ?」

「えっ?」

 

 姫様はポカンとした顔で首をかしげ、俺もつい間の抜けた返事をしてしまった。


 だが俺の言葉の意味が分かったのか、姫様の目が少しずつ開いていき、


「う、嘘ですわよね? わ、ワタクシ行く当てがありませんの。こ、この部屋にいて構いませんわよね?」

「いえあの。俺も男ですし、あまり男女が同じ部屋で寝るのは……姫様は美しいお方なので、ほらなにかあっても困るでしょう?」


 俺はなるべく彼女の見た目などを褒めて、柔らかに『出ていけ』という意を告げる。


 すると姫様は勢いよく俺に抱き着いてきた!? 


「お、お願いですわ!? 置いてくださいまし!? お外は無理なのですわ!?」


 ガチ泣きしながらすがってくる姫様。い、いったいなんだ!? どうしてここまで嫌がる!?


「いやあの室内だと俺と一緒に寝ることに……」

「外はそもそも寝られないのですわ!? 元ワタクシの臣下で箱庭を失った男たちが、恨みだとかで襲い掛かって来るのです!? 特にアルベン子爵にはずっと付け狙われて、昨日なんて服も破かれて危うく……!」


 アルベン野郎、まじでロクなことしないな……。


 確かに昨日の姫様は服が破れていたな。この制服は丈夫そうなのに、わずか数日でズタボロになったのはそういうわけか。


 敗残した姫様が敗残兵の中に放り込まれたら、確かにこうなることは容易に想像できてしまうな。


「怖いのです! 助けて……!」


 姫様は俺に抱き着きながら、涙交じりの上目づかいで訴えてくる。


 ……うわぁ、なんか追い出しにくくなった。弱ったな、この姫様に居候されると内緒話とかも出来なくなるし困る。


 だが今の彼女を見捨てると俺はクズになってしまう。それとアルベン野郎については俺も責任があるからなぁ。やはり息の根を止めておくべきだったか……いやこの学園だと人を殺せないらしいけど。


「…………わ、わかりました。あと二週間は部屋に寝泊まりしていいです」

「あ、ありがとうございます!」


 …………とりあえずアルベン野郎に関しては、後で蜘蛛忍者に命じて処断させよう。あいつマジで人の邪魔しかしないな……!


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