第38話 ロンテッドの裏には誰が(誰もいません)
教室では四人の生徒が話し合いを行っていた。
彼らは元イールミィ陣営であり、かつ現在はどこにも所属していない者たち。つまりロンテッドに似た立場だ。
「なあ。どの陣営につくのがいいと思う? 奇跡的に生き残れたんだ。もう負ける奴に従いたくない」
「分からん……まるで読めないからな。竜皇、麗人、賢鷹……どいつも元姫様と比べて優秀そうだ」
彼らは迷っていた。どの陣営につけば勝てるかを。
今回はたまたま生き残れたがそれは奇跡でしかない。次に負けたらついた陣営が負けたら終わりだと考えると、とても軽々しく決めることは出来ない。
またアルベンやイールミィが悲惨な生活をしていることも、彼らをより必死にさせていた。負ければまともに食べることすら出来ずに、スラム民のような生活をさせられるのだ。
なんとしても避けたいと思うのは人として当然だろう。
「うちの姫様は無能だったからなぁ……そういやあの元姫様さ、エンド男爵に回収されたって話を聞いたぞ」
「罪滅ぼしのつもりか? それとも好き放題するためか? 俺も魔素に余裕があればな……あの偉そうだった姫に、食料と交換だとひん剥いてやったのに。しかしロンテッドめ、あいつ上手くやりやがったよ」
「それな……いったいどうやって、三大陣営の誰かをバックにつけたんだ?」
ロンテッドは三大陣営の誰とも組んでいない。
だがクラス内の生徒たちの間ではそんな噂が広まっていて、彼らはその噂を信じ切っていた。
「あの小さな箱庭から大量の黄金? いくらなんでも盛り過ぎだ。あんなちっぽけな島国だぞ? あれでアルベンに勝てる戦力を得るなんてあり得ないもんな」
「Aランクドラゴンを倒せる魔物はやり過ぎだったな。あんなの他の生徒から魔素を援助されたに決まってる。あんな土地の広さで召喚できる魔物じゃねーよ」
現在のクラス内において、ロンテッドの持つ箱庭は大したことがないと結論づけられていた。
狭い島国なのに大量の黄金を出し、しかも奇怪な魔物や人を生み出す土地。そんなものは普通はあり得ないからだ。
そしてロンテッドがアルベンを倒したのを起点として、イールミィ陣営が滅ぼされたのが決定打となった。
三大陣営の誰かがロンテッドの裏にいて、イールミィを滅ぼすために一芝居打ったのだと。そうすればこれまでの流れに合点がいくからだ。
「問題はエンド男爵を援助している奴が、三大陣営の誰であるかだな。そいつはヤバイぞ、策でイールミィを滅ぼしたんだから。俺たちもそいつにつくべきだ」
「そうだな……順当に考えれば賢鷹の目の可能性が高い。だが麗人もそういうのやれそうな気がするんだよなぁ……」
「竜皇だって結構賢いと思うぜ? ただの筋肉バカじゃない」
彼らは必死に話し続ける。なにせ自分たちの貴族人生がかかっているのだから。
そうして三大勢力の魅力などを語り始めていく。
「やはりエンド男爵の裏にいるのはホークエールじゃないか? 策士と言えばあいつだろ」
「いや麗人レティアも負けてないぞ。ホークエールも苦手そうにしている雰囲気がある」
「竜皇こそ最強だろ! あの筋肉は策もろとも全てをぶっ壊すぞ!」
各々好き勝手に言いあう中、一人だけがずっと黙り込んでいた。
その男はしばらく迷った挙句に。
「なあ。実は誰もエンド男爵の裏にいない可能性もあるんじゃないか? あの箱庭自身が凄いとかで」
「そんなもんあるわけないだろ! お前馬鹿か? ピュアピュアの民か?」
「素直に考え過ぎだ。貴族社会だぞ? そもそもあんな四方を海に囲まれた小さな箱庭で、黄金に豊かな穀物に涼しい気候に……あり得ねぇよ。首をかけてもいいぜ」
「お前も筋肉を鍛えるべきだな。そうすれば騙されても力でゴリ押せる!」
そうして彼らの話し合いは進んでいくのだった。
そんな生徒たちの話し合いを、傍聴している者が三人いる。
二人は賢鷹の目とアーミアだ。
「という感じで彼らは話してるです!」
「ふふっ。それはそれは」
アーミアからの説明を聞いて、賢鷹は内心笑っていた。
(エンド男爵を利用してイールミィを滅ぼした? そんなわけないでしょう。普通に考えればわかるでしょうに。配下でもない者に強い魔物など貸さないと。つまり彼は誰の下にもついていない。あの三人は期待できませんね)
賢鷹は目を光らせながらクラス内を見続け、とある一点を注視する。
そこにいたのは透明になった蜘蛛忍者だ。
彼女はロンテッドの諜報担当にして、噂などをばらまく役目を持つ者だ。つまりこのロンテッドに都合のよすぎる噂は、以前の日本は北から攻めろと同じく彼女がばら撒いたモノ。
(何故こんな噂が流れてござる……?)
…………というわけではなかった。
(ううむ。あまりにも美味しい展開になったでござるな。拙者、何もしてないのだが……これを拙者のやったことにしてお館様に報告すれば、大きな手柄となるのでは!?)
蜘蛛忍者は教室を見回して、他にもロンテッドの噂をしている声を聞きながら目をつぶる。
(これほどの大功ならばきっとお館様に認められる! そうすればあの雌蛇など相手にせずに、拙者を抱いてくださるのでは!?)
蜘蛛忍者の頭の中では妄想が爆発していた。
「よくやったぞ〇〇〇(賜る予定の超素敵な名前)。ベールアインなんてもはや興味はない! お前こそが俺の妻だ!」
「お、お館様……!」
※妄想です。
「〇〇〇! 俺はお前さえいればいい! さあおいで……!」
「あ、お、お館様……まだ心の準備が……!」
※全て妄想です
「この学園の全ての女と比べても、お前ほど素晴らしい女はいないぞ! 〇〇〇!」
「お館さま……いやあなた……」
※蜘蛛忍者ちゃんの妄想です
(ムムム! これは完璧……い、いやだが偽りを報告していいものか? もしバレたら妻どころか信用を失ってしまうのでは……!?)
完全に舞い上がっていた蜘蛛忍者だったが、いきなり冷静になり始めた。
湯だった頭を覚ますように、首を数回横に振ると。
(いややはり行けるのでは?)
などとさらに葛藤するのだった。
なお最終的にはキチンと噓をつかずに報告したのだが。
「というわけでござる。本当に人使いの荒い主君で、拙者は不幸でござる。チッ」
妄想とは裏腹にいつものように悪態づくばかりであった。
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