第37話 許せない×2人
ベールアインは自室に戻った後、不機嫌そうにベッドに腰かけた。
「計算外です。まさかお姫様がロンテッドさんの部屋に泊まるなんて……絶対ダメなのに……もしなにかあったらどうすれば……!?」
『ロンテッドは奥手っぽいから大丈夫と思うわよ』
石板が慰めるように声を出すが、ベールアインは手元にあった枕をギュッと抱いた。
「でもあのお姫様が、ロンテッドさんに色目を使ったら……!? 一夜の過ちとか……!」
『そんなに心配なら貴女の部屋に泊めればよかったじゃない』
「それは無理です!? だって……」
ベールアインの視線の先にあるのは、彼女の机の上にあるガラス瓶たちだ。その瓶の中には毒々しい液体、というか毒が入っている。
「イールミィさんを泊めてしまったら、私が毒を作ってるのがバレてしまいます!?」
『あー、そうねー。他にはたまにジーノ伯爵が訪ねて来るものね。それ見られたらアルベン関係がバレてアウトねアウト』
ベールアインにとって自室は毒工房だ。
彼女自身も知識がある上に、箱庭でも毒が作れるので日々恐ろしいモノを造り続けている。基本的に他人を部屋に入れるのはNGだった。
以前にロンテッドを招待こそしたが、あれは入念に片づけて証拠を隠滅していたに過ぎない。
「ねえ石板さん、この学園って毒殺は出来ないのですよね」
『無理ね。死なないもの』
「でもそれは逆に言えば、猛毒でも殺さずに苦しませ続けられるってことですよね」
ベールアインがニコリと笑うと、石板はブルリと身体を震わせた。
『なんでその発想が一瞬で出てくるのかしら?』
「悪い虫は駆除しないとダメですよね」
そう告げるベールアインは目が笑っていなかった。
『私、ロンテッドに同情しつつあるのだけど。そういえばこないだ作ってた惚れ薬はどうしたのよ』
「興奮剤は作れたのですけど、効能は媚薬どまりなんですよね。同じ部屋で二人きりの時に使えば問題ないのですけど……」
『いつも近くにいる蜘蛛忍者ちゃんが邪魔ってわけね』
「そうなんです! あの娘がいなければ今頃は……!」
悔しそうに叫ぶベールアインに対して、石板はコッソリと距離を取った。
『ま、まあそれなら正攻法で頑張ればいいのよ。ちゃんと相手を落として』
「そうですね。頑張って蜘蛛忍者さんも排除しないと」
『物理的に撃破しろって意味じゃないわよ!?』
「でも落ち着いて考えてみてください。恋敵がいるとロンテッドさんの好み次第なところがありますが、ライバルがいなくなれば負けませんよ?」
『私が間違ってるみたいな雰囲気出すのやめてくれない?』
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蜘蛛忍者は姿を消しながら、廊下を歩くロンテッドの後をつけていた。
(お、おのれ……! あの落ちぶれた姫がお館様のベッドを使う!? そんなの許されるわけがない! 拙者も使わせていただいたことがないのに!)
蜘蛛忍者はイールミィは仇敵認定していた。
今も蜘蛛たちにイールミィを見張らせていて、なにかやらかせばすぐに報告しておとしめるつもりだ。
(ただでさえあの雌蛇が面倒なのに、なんでまた変なのがやってくる!? 夜にお館様が劣情を催した時、あの女が選択肢になってしまうではないか!?)
蜘蛛忍者にとってロンテッドは召喚主であり、絶対的に敬愛する主人であった。
故にいつでも隙を伺っていて、なにかあればお手付きしてもらうことを狙っている。そんな彼女からすればイールミィもベールアインも邪魔者でしかない。
(ぐっ……これでは無理だ。。あの雌蛇が媚薬を作っているようなので、奴がロンテッド様に使ってから追い出して、拙者が襲われる計画が……! イールミィがお館様の部屋にいたら、あの女も決行しないぞ!?)
そして蜘蛛忍者はベールアインの本性を理解していて、かつ媚薬を作っているのも知っている。
その上で利用してやろうと考えていた。ベールアインもまた蜘蛛忍者を厄介者と考えていたので、双方似た者同士でしかない。
(こうなればベールアインの本性をお館様にバラすか? いやだが奴は現状では味方な上、奴の本性を現す確固たる証拠がない。拙者が嘘つきと思われては困る……)
蜘蛛忍者はベールアインの本性をある程度把握しているが、それは状況証拠や感覚での問題でしかない。
またベールアインは味方な上に、ロンテッドもある程度信用しているので迂闊なことは言えなかった。
なお蜘蛛忍者もベールアインの全てを把握してはいない。例えば幸福の王子様のような話や破滅願望までは知らないのだ。そこまで知っていれば流石に報告していただろうが。
(ぐっ。だがひとまずイールミィの方は心配ない。奴の服を修繕する時に小蜘蛛をしこんだので、万が一妙な雰囲気があれば奴の髪の毛などに蜘蛛の巣を張って、汚く見せて萎えさせる……!)
そんな蜘蛛忍者がイールミィの服を修繕したのは、決して善意ではない。
ロンテッドが彼女に劣情を催さないようにするのと、ついでにいざという時の罠を仕掛けていただけだ。忍者らしい姑息な手であった。
(イールミィはそのうち追い出されるだろうし、後はなんとかしてベールアインを排除出来れば……お館様は拙者のものに!)
イールミィとベールアインの考えることは同じであった。
そしてその二人に厄介に思われている元姫様はと言うと。
「すぅ……すぅ……もっとおにぎり欲しいですわぁ……」
そんなことなどいざしらず、ロンテッドの部屋の床で寝息を立てていた。
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