第二章
第33話 強者たち
ワガママ姫が泣き崩れる中、三人の猛者たちが前に出てきた。
「土地以外に価値のない者よ! 貴様如きが勝者になれるわけがなかろう! 去るがいい!」
竜皇ドラゴニア・バーンテッドが叫ぶ。同時に彼の上着が吹き飛び、岩のような筋肉上半身が丸見えになる。
「ごめんね。でもボクとしても、貴女が最大勢力なのはちょっと嫌だったから」
麗人ルティア・オーセンメイアが申し訳なさそうに笑い、周囲の女子たちが黄色い悲鳴をあげた。チッ。
「ふふっ。残念ながらこうなるのは必然でしたから」
賢鷹の目イリア・ホークエールがほほ笑む。
何故クラス内最大勢力のイールミィが僅か二週間で滅んだのか。
理由はこの三人にある。彼ら彼女らは同盟を組んで、一斉にイールミィ陣営を攻めたてたのだ。
俺が倒したアルベン野郎はイールミィ陣営だ。つまり彼女は僅かだが弱体化したことになり、その隙をついたということになる。
だが大国からすれば子爵一人消えても、決して致命的ではない。
少なくとも二週間で滅ぼされるような弱体化ではないはずだった。
では何故そうなったのかというと、三人の攻めがあまりに苛烈だったからだ。俺も彼ら三人の戦いを見ていたから分かる。
思わず彼らの戦いが頭によぎっていく。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
イールミィの箱庭の北側を竜皇ドラゴニアが攻め込んでいた。
彼は馬に騎乗し、身の丈を超える巨大な金棒を持って空を移動していた。また彼の後方には三メートル以上のドラゴンが群れをなして空を飛んでいる。
まさに竜皇に相応しい軍勢を率いていた。
そんな彼の進軍を止めるかのごとく、イールミィ側のドラゴンが五匹ほど襲い掛かって来る。イールミィのドラゴンたちは、ドラゴニア陣営のよりも倍ほど大きい。
事実イールミィのドラゴンはAランクだが、ドラゴニアのそれはBランク以下だ。仮にも竜皇と呼ばれている者が、ドラゴンの質で負けていた。
「ほう、来たか。俺が相手をしてやろう」
明らかにドラゴンの質の差は明らかだが、竜皇は獰猛な笑みを浮かべる。彼の乗った馬が先頭を走り、イールミィのドラゴンに突っ込んでいく。
「俺が竜皇と呼ばれているのはなぁ! 竜を扱える土地だからではないっ!」
ドラゴニアは巨大金棒を棒きれのように振りかぶり、凄まじい勢いで振りぬいた。その先にいるのはイールミィのドラゴン。
その一撃はあまりにも重く、直撃したドラゴンの頭は果実のように潰れてしまった。
「俺は竜の頂点に立つ力を持つ! だから竜皇なのだっ!!!」
そしてドラゴニアは大暴れして、彼一人でイールミィのドラゴンを全て粉砕してしまった。
またイールミィの箱庭の西方向では、麗人ルティア・オーセンメイアが魔物たちを連れて進軍していた。彼女の引き連れた魔物は多種多様だ、人型や獣や鳥など色々な種類がいる。
そんな彼女の軍はいくつかの森をすいすいと抜けて、またいくつ目かの森の前にやってきた。
これまでと同じように通り抜けようとする魔物たち。だがルティアは立ち止まると、
「うーん、なにか嫌な予感がするなぁ。この森、伏兵がいるね」
「伏兵ですか? 他の森との違いが分かりませんが……」
オーガの一体が首をひねるが、ルティアは確信したように森の奥を睨む。
「全然違うよ。奥から殺気を感じるから。どうしようかなぁ……あ、そうだ。出てきて、精霊たち」
ルティアが指を鳴らすと炎を纏った精霊たちが姿を現した。
「精霊たち、この森を全部燃やしちゃってくれるかな? たぶん敵の魔物が潜んでるから」
炎の精霊たちが森に突入すると、すぐに木々が燃えて火事になっていく。
しばらくすると肉の焼けるような焦げ臭い匂いが漂い始めた。ルティアの予想通りに敵の魔物たちが潜んでいたのだ。
だが森ごと焼かれては逃げ場もなく、戦うことすら出来ずに壊滅してしまった。
「ルティア様、よく伏兵がいると気づけましたね……俺には全く分かりませんでした」
「気配とか空気とか雰囲気で分かるけどなぁ」
「それが出来るのはルティア様くらいですぜ……」
そうしてルティアたちは進軍し続けるのだった。
そしてそんな二人を、ホークエールが箱庭の外から眺めている。彼女の目の前にいるのは、箱庭の持ち主のイールミィ姫だった。
「ふふっ。いいのですか? 早く対応しないとどんどん攻め込まれて、簡単にコアが破壊されてしまいますよ?」
「こ、このっ……!」
「ご自慢の臣下に助けを求めないのですか?」
「貴女が買収したくせにっ!」
イールミィ陣営の半数以上は、ホークエールによって調略されていた。
本来ならイールミィ姫が危機となれば、臣下たちは援軍に来るのが普通だ。
だがホークエールはそんな臣下たちを懐柔していった。
例えば「イールミィ殿はエンド男爵にパンを与えましたが、本来ならあれは貴方たちが受け取るモノでした」と、臣下の不満をくすぐる。
あるいは「アルベン子爵が滅んだのは、イールミィがまともに援軍を寄こさなかったからです。貴方たちもああなりますよ?」と危機感を煽るなどだ。
そうしてイールミィの臣下の信頼を崩し、援軍を送らせないようにしていた。
他にも竜皇と麗人の進軍ルートを決めたのも、ホークエールだと噂されている。
竜皇の攻めた側は平野地帯が続くので、搦め手が難しく純粋な力がモノを言うだろう。逆に麗人の方面は森や山が多く、力づくで攻めれば痛い目を見かねない。
なので二人にとって相性のいい侵略ルートを指定したと。
竜皇の武力、麗人の勘、賢鷹の目。この三人がそれぞれの長所を活かした攻めによって、イールミィ陣営は瞬時に崩壊してしまったのだ。
そして竜皇と麗人は同時に箱庭のコアに到達して、勝敗は決まってしまった。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
……決してワガママ姫が無能だったわけではない。彼女は有能ではなかったが、普通の対応をしていたはずだ。
俺にパンを渡すなどの失策こそあったものの、少なくともホークエールたちへの対応はおかしくはなかった。
そもそもイールミィには世界最大の国力があったので、仮に無能な王でもそうそう滅ぼされるはずではなかったのだ。
なのに二週間で詰みに持っていかれたのは、他の三人が傑物過ぎた。
だが何よりも恐ろしいのはこの学園だ。
……世界最大国家だったはずのイールミィ王国が、わずか二週間で滅ぶなんて普通ならあり得ない。大国が滅ぶなら何年もかかるのが普通だろうに。
神前学園だからこそ起きてしまう滅亡劇だ。俺の予想通り、一瞬の油断が命取りになる。
「わ、ワタクシ……ワタクシはぁ……!?」
イールミィ姫の泣き叫ぶ声が教室にこだまするのだった。
-------------------------------------
続きが気になりましたら、★やフォローやレビューを頂けると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます