第32話 平穏?


 アルベン野郎を倒した翌日、俺は授業を受けるために教室に来ていた。


 着席すると他の生徒たちからの視線が集まって来る。


「エンド男爵め。正直底辺貴族と思っていたがまさかアルベンを倒すとは」

「虫も殺せぬ者と思っていたが……やはり攻められたら戦いはするのだな。善人でも怒らせれば反撃はすると」

「奴の持っている土地はなんなんだ? あの小さな土地で、数倍の広さのアルベンに勝てるなどとは。しかもイールミィのドラゴンまでいたのに」


 くー、気持ちいいー!


 やはりいい意味で注目を集めるというのは、最高の気分になれるな!


 代償として日本のことが少しバレてしまっているが問題はない。なにせ今の俺の箱庭はもう小さくないからだ。


 アルベン野郎の箱庭の広さの分だけ、日本がそのまま拡大したからだ。奪った土地は今ある箱庭に吸収させて広げるか、そのまま箱庭にくっ付けることが可能だ。


 本来なら多様性を考えて奪った土地をくっ付けた方がいい。そうすれば育てられる魔物や得られる収穫物などの選択肢が増えるからな。


 でもアルベンの土地はしょぼいし、そもそも日本がすごく優秀なので今回は広くすることにした。


「というかエンド男爵は本当に善人なのか? 善人ならアルベンを滅ぼすまではしないような……」


 ぐっ、流石に俺の本性を疑う奴も出て来たか。


 昨日は気持ちよすぎて演技しきれなかったからなぁ……などと考えていると、教壇の上に誰かが立った。


 あいつ誰だったっけ、どこかで見たような記憶が……。


「ぐっ……私はアルベンと親しかった。だが奴はクズだったのだ! 今回の件、遺憾ながらエンド男爵の非は全くない! このアルベンの友人だったジーノ伯爵が認めよう!」


 ……ああ、アルベンの近くにいた奴だ。


 あいつ何だったんだろうな。アルベンの味方だと思ってたのに、特に援軍を送るなどもしなかったし。


 ジーノのこのあからさまな行動の理由は分かる。俺に狙われたくないからアルベン野郎を切ったということだろう。


 言葉だけでも俺の味方をしておけば狙われないという考えかな。せっかくなので利用させてもらおう。

 

 俺は席を立ちあがるとジーノ伯爵に頭を下げる。


「ありがとうございます……私としても出来ればアルベン子爵の土地を奪いたくありませんでした。なので一度はコアの破壊を止めようかと思って……ですがあのままやめたら、ベールアインさんが危険と思いまして」

「その通りだ! ベールアイン殿を山分けにするという発言からも、アルベン子爵が危険人物だったのは間違いない! アルベン子爵をよく知る私が断言しよう!」


 ジーノ伯爵の叫びに対して、周囲の生徒たちも騒ぎ始める。


「確かにそうだよな。アルベンはクズだったし自業自得だよな」

「ベールアインさんを山分け、だなんて意味不明すぎるわよね。何様のつもりよ」

「みんな騙されるな! これはエンド男爵たちの陰謀だ! 彼とベールアインが共謀して、アルベン子爵を悪者にしている!!」 


 なんか最後に微妙にこの件の裏が見えている奴がいたが、他の生徒から白い目で見られている。


 だが裏もそこまで当たってないけどな。この件は俺の陰謀であって、ベールアインは全く関係がないのだから。


 しかし結果だけ見ると、ジーノ伯爵は俺の味方のような動きだったな。


 アルベンを煽って俺を攻めさせて、そのアルベンは討ち取られる。そして最後には俺をかばうとかまるで俺の味方ムーブだ。まあこんなの狙ってやれるわけないので偶然だろうが。


 などと考えているとベールアインが近づいてくる。うわ気まずい、逃げたい。


 どう謝るべきかなこれ。


「ベールアイン、昨日は……」

「あ、あのロンテッドさん……昨日はすみませんでした。急にあんなことされたら驚きますよね」

 

 どう謝ろうか考えていると、いきなり頭を下げてくるベールアイン。


 ……なんかよくわからないがここは話を合わせておくか! こいつと対立するメリットはないし。


「いやこちらこそすまない。予定があったのを忘れていて」

「いえいえ。むしろ私こそロンテッドさんの都合も考えずに……」


 互いに許し合う感じに移行していく流れ。


 よし、これなら今後は特に問題なく関係を続けられそうだな!


 それにあの場では衝動的に突き放してしまったが、迂闊にベールアインの誘いに乗るのも考え物だ。


 例えば俺がベールアインと関係を深めたとする。そうするともし彼女が危機に陥ったら、見捨てづらくなるからな。


 この学園で勝ち残るにはそういった情は捨てなければならない。ベールアインの話す日本では自由恋愛だったそうだが、この世界の貴族からすればあり得ない話だ。


 そうしてベールアインと話していると、イールミィ姫が教室に入ってきた。


「……っ」


 彼女は俺を見つけた瞬間に顔を逸らした。まあそうだろうな、あいつからすれば俺は味方を殺した裏切り者だし。


「い、イールミィさん冷たいですね……」

「むしろ当たりまえと思うがな。俺はあいつの味方だったアルベンを亡き者にした男だぞ。ましてや俺は元々イールミィ国の貴族だし」

「アルベンさん、別に死んでませんよ?」

「あっそうだった」


 いかん。あまりにも気持ちよすぎて大将首を討ち取った気分になってた。


「そういえばアルベンっていま何してるんだ? というかどこにいるんだ?」

「今朝、学校の中庭で生徒たちに食事を恵んでもらってました。無視されるか蹴とばされて土を食べてましたけど……」


 哀れな……とは思ったが口には出さない。アルベンを哀れにさせた張本人は俺だからな。


 でも悪いがあいつへの同情は微塵もわかない。だって元々はあいつが攻めてきて、それを正当に防衛した俺に何の罪があるというのか? いやない。


「……俺たちも箱庭を失わないようにしないとな!」

「そうですね!」


 これ以上、死んだ奴のことを話しても仕方がないのでそう結論づける。

 

 すると周囲からもアルベンの話題が聞こえてきた。


「見た? アルベンがさ、私に物乞いしてきたのよ。あれだけ調子に乗ってたのにね!」

「無様だよなぁ。迂闊に戦争を始めるからこうなるんだよ」

「俺たちも気を付けないとな。下手に攻めたらああなるっていい見本だ」


 アルベンは生徒たちの反面教師になったようだ。


 この学園で敗北すればどうなるかを、あれほど身体で示しているのだ。


 そんなアルベンの姿を生徒たちも見ているわけで、しばらくは戦争は起きなさそうだな。


「ハルカ先生ですよー! 授業を始めますよー!!!!」


 そうして今日も箱庭学園の授業は始まった。


 アルベン野郎の死はクラスに大きな影響をもたらした。


 だが人の記憶は薄れていくものだ。いずれはまた戦争が開かれるだろう。


 そしてこれから先、四大勢力たちによる戦いも勃発していくはずだ。


 国力のワガママ姫、暴力の竜皇、魅力のルティア、知力のホークエール……正直、誰が勝ち馬になるのかはまだ読めない。


 だが俺はうまく立ち回って生き残らなければ!


 四つの勢力をうまく見極めていかないとな! そうして決意を新たにした。俺たちの戦いはこれからだ!!













・・


・・・




 そう思っていた時期が俺にもありました。


「う、嘘ですわ!? 嘘ですわ!? 嘘ですわぁ……!」


 俺がアルベンに勝利してからまだ二週間ほどのことだ。


 教室の中央で泣き崩れるイールミィ姫、そしてそれを遠巻きに眺める他の生徒たち。


 泣きわめくワガママ姫をかばう者は誰もいない。何故なら……彼女は、


「そんな……ワタクシの土地……国が……攻め滅ぼされた……」


 クラス最大勢力だったはずのイールミィは、僅か二週間で箱庭の土地を全て失ったからだ。



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