第31話 本性
ロンテッドが逃げた後の部屋では、ベールアインが少し寂しそうにベッドに座っていた。
『あーあ。逃げられちゃったわねぇ』
フワフワと石板が浮いて文字を刻み始めると、ベールアインは小さく笑った。
「逃げられただなんて……。無理になにかしようだなんて思ってませんよ。私はロンテッドさんの味方ですから」
『嘘はついてないわねぇ。ところで今回の件、貴女の望むように動いたのかしら?』
ベールアインは楽しそうに笑うと、
「そうですね。ほぼ私の希望通りでした。これでロンテッドさんは力を手に入れた上、周囲から狙われることもないでしょう。その上で他の生徒から一目置かれる人物になりましたので」
『そうね。弱い敵が迂闊に攻めてきてくれたおかげで、敵兵力を防衛で削って被害なく勝てたものね』
「アルベン子爵には感謝しないといけませんね。うまく動いてくれました」
そんな二人の会話を止めるように、扉をノックする音が聞こえた。
ベールアインが扉を開く。そこにいたのはジーノ伯爵、彼はアルベン子爵と共謀していた者だ。
「ジーノだ。約束通り、薬を頂きに来たぞ」
「もちろんお渡ししますよ。はいどうぞ」
ベールアインは部屋の棚から粉の入った瓶を取ると、ジーノに手渡した。
ジーノはそれを受け取って頭を下げる。
「助かる。ショップでは薬が高くどうしようかと困っておった」
「いえいえ、私こそ助かりました。おかげでアルベンさんが、ロンテッドさんに宣戦布告してくれましたから」
「大したことはしておらんよ。褒め殺しただけだ。あいつの性格は知っていたから、予想通りの動きをしてくれたがな」
ジーノ伯爵はベールアインに買収されて、今回の騒動を引き起こすために動いていた。
彼はベールアインの指示に従ってアルベンを図に乗らせた。そして恥をかかせて宣戦布告するように仕向けたのだ。
そして目的が達せられたら、さっさとアルベンからは距離を取った。故にジーノは戦争において、アルベンに一切の助力を行わなかった。
「でもよかったんですか? 元の世界ではご友人だったのでは?」
「あんな者、友人ではないよ。多少話が合ったがね、この薬と引き換える価値はない。では失礼」
ジーノはそう言い残して去っていき、ベールアインは手を振って見送った。そして彼の姿が見えなくなってから、扉を閉めてまたベッドに寝転ぶ。
そんなベールアインの近くに、また石板がフワフワと浮き始める。
『アルベンに少し同情するわ。貴女の謀略に完全に引っかかったもの』
「謀略というほどではありませんよ。こう動いてくれないかな、と働きかけただけです」
『それを謀略って言うのよ。もう一度聞くけど、本当にロンテッドのことが好きなの?』
石板の問いに対して、ベールアインは笑って頷いた。
もしもこの笑顔をロンテッドが見ていたら、きっと鳥肌を立てていただろう。
「もちろんです。私は彼に好意を抱いています。さっきだってあのまま押し倒されてもよかったくらいですから。私は彼に一目惚れしましたから」
『彼が教室で箱庭を紹介した時よね? なんで一目惚れするところあった?』
「はい。ロンテッドさんは……すごく心が綺麗ですから。あれだけ周囲に嫉妬の炎を燃やしながらその本心を隠し続ける。あそこまで周囲を妬めるのは、唯一無二の才能です。素敵です」
ベールアインは恍惚とした表情でさらに口を動かす。
「あの人はきっと満足出来ないのです。世界で一番にでもならないと、その嫉妬は満たされることはない。なんて可愛い人なんでしょう。これからもずっと誰かを妬んで、嫉妬の炎で自分ごと燃やすしか生きていけないなんて。まるでカエルや蛇のように可愛いです」
『……貴女の美的感覚、おかしいわよ』
「おかしいかもしれません。でもいいんです」
ベールアインの美的感覚は少し変わっていた。
彼女が好みは常人が醜いと感じるモノばかりだ。カエルや蛇が大好きという少女は少ないだろう。
『ねえ。貴女はこれからどう動くつもりなの?』
「もちろんロンテッドさんの味方をします。だってあの人には黄金の王子像になって欲しいので。今の彼はまだ銅像程度でしょうから」
『じゃあ彼がお望み通り、黄金の王子像になったらどうするの?』
石板の問いかけに対して、ベールアインは少し恥ずかしそうに。
「私がツバメになって、ロンテッドさんの金箔をクチバシでついばんでいきますよ。それで全てを失った後の彼と、二人仲良く出来たらいいなと思います。そうすれば彼はずっと嫉妬の炎を抱きながら、何もできずにずっと綺麗に燃えれますから」
『貴女、幸福な王子像で嫌いなところがあるって言ってたわよね? それってなに?』
「そんなの決まってますよ。王子様の魂が神様に救済されるところです」
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