第28話 切り札


 目の前にいるのはAランクのドラゴン。現在、俺の箱庭にもAランク以上の魔物は一体しかいない。


 つまり結構な強敵と言うことだ。実際、Aランクの魔物を用意できる箱庭はそうないだろう。それこそ四大勢力のトップ層でなければ用意できないクラスだ。


 


「聞こえないだろうが教えておいてやるよ。俺はこの状況を予想していた」


 俺は箱庭の外にいるアルベン野郎に向けて、聞こえない言葉を告げ始めた。


 我ながら無意味な行動だが仕方ない。あいつへの完全勝利として、ずっとやりたかったことだからな。


「お前がイールミィ王国についている以上、戦争となれば援軍が送られるのは当然だ。そしてあのワガママ姫ならば強い魔物だって当然用意できる。だからむしろこれが普通だ。決して勝ち誇れるようなことではない」


 むしろ当たり前としか言えない。「ふざけるな! ならば何故ノコノコとここまで来た!」と反論が聞こえてくるようだ。


「ふざけるな! ならば何故ノコノコとここまで来た!!!」


 ……なんか箱庭にアルベン野郎の声が響いてきた。中での声が外に漏れてるのか? まあいいや、その方が都合がいいし。


「消耗戦になるのを避けるために決まってるだろ。援軍を何度も送られたら面倒だからな。さっさと勝ってしまうに限る」


 攻め手の魔物が全滅した後、アルベン野郎に時間を与えたらどうなるか。どうせまた他の奴に助力を求めるだろう。


 そうなると面倒だ。いくら攻めてきても負けるつもりはないが、戦うにつれて日本の情報が他の生徒に漏れていくからな。


 それに俺は勝利したいので、いずれは攻める必要があるのだから。


「出まかせだっ! 行け、ドラゴン! あの愚かな平民を殺せっ!」


 またもドラゴンが咆哮する。さてあいつをどう倒すかについてはすでに決めている。


「来い、雪女」


 俺が呼ぶと同時に、雪女が目の前に現れた。


「馬鹿め! 我が箱庭は温暖だ! 氷の魔物など即座に溶けて使いものにならんわ!」


 氷雪系の魔物は熱に弱い。それは雪女に関わらずの常識だ。


 だがアルベン野郎の愚かな声とは裏腹に、雪女はまったく溶ける気配がない。


「雪女、あのドラゴンを氷漬けにしろ」


 俺の命令に雪女は頷くと両手から冷気の光線を発する。それはドラゴンに直撃して、身体をパキパキと凍らせていく。


「ば、馬鹿な!? なぜその魔物は溶けぬ!? そればかりか冷気を発するなど!?」

 

 アルベン野郎、馬鹿って言葉が好きすぎるだろ。


 さて雪女が溶けない理由だがすごく簡単だ。彼女らの着物の中にドライアイスを詰め込ませてるだけ。


 以前にクソ石板がアイスを溶かさないようにするのに、ドライアイスが役立つと言ってたからな。氷菓子も雪女も大して変わらないだろ。


 ドラゴンの動きは鈍くなっていく。だが鱗こそ凍っているものの、全身を氷漬けにするのは難しそうだ。


 なにせドラゴンは優れた魔物だ。その耐久性は非常に高く、しかも力は強いしわりと速いし空は飛べるしで本来なら超強い存在なのだから。


 だがアルベン野郎が最後の門番に使ったせいで、ドラゴンはその力を十全に発揮できない。


 高く空を飛べば俺たちにコアを破壊されるから、あまり離れることが出来ない。


 飛行という優れた力を使えず、また速さも活かせない。


 なんという宝の持ち腐れだろうか。どれだけ優秀な魔物でも使い手次第ではゴミになってしまう。


 ……さてあのドラゴンを倒せば、もうコアへの妨害はなにもない。アルベン野郎もここまで追い込まれながら、新しいドラゴンなどを出す気配もない。


「ふん! だが冷気ではドラゴンは殺せぬ! すぐに援軍が来るから貴様の負けだ! 私の切り札を予想していたなどと、てきとうなことをほざきおって! この馬鹿めが!」


 アルベン野郎の叫び声がまた響いてくる。完全に援軍頼りなようで、新たに魔物が召喚される気配はない。


 この追い込まれた状況下で、まだなにかを温存しているとは思えない。一歩間違えれば箱庭のコアが破壊されるような状況だぞ。


 つまりあのドラゴンこそが奴の本当の切り札で、もはや隠し玉はないと見ていいだろう。ならば勝負を決めてしまおう。


「おいアルベン野郎。俺さ、少しお前のことを誤解してたよ」

「ふん! やっとこの私の力を知ったか! だがもう地面に頭をこすりつけて謝ろうが許さ……」

「お前、本当に自分に都合のいいようにしか考えないよな。なんで自分が用意しているモノが、他の奴にはあると思わないんだ?」

「なにが言いたいっ!」


 なにが言いたいか? そんなの決まってるだろ。


「あるんだよ。俺にだってとっておきの切り札がな」


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雪女って銘柄のアイスありそう。

でも調べたら検索には出てきませんでした。ありそうなのに。

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