第27話 一転攻勢


「ば、馬鹿な!? 我が魔物たちが!?」


 アルベン野郎の悲鳴が教室に響く中、俺はほくそ笑んでいた。


 奴の魔物は日本の箱庭を攻めて来たが、見事なまでにアッサリ迎撃できたわけだ。


 北から攻めたらいいよとそれっぽい理由と共に噂を広めはしたが、本当に突っ込んでくれる辺りやはり馬鹿だ。


 ククク……おっと笑いが漏れないように気を付けないとな。上っ面は善人でいたほうがいい。


「さてと。攻めの戦力が全滅した以上、防衛もガタガタだろう。カウンターを決めさせてもらうか」


 俺はそう告げるとアルベン野郎の箱庭に手をかざす。


 すると俺の身体がどんどん縮んでいき、気が付くと平野にいた。


 ここはアルベン野郎の箱庭の、西側の端に位置する場所だ。


「お、おのれ卑怯者! 防衛の準備も整わぬうちに攻めるなど! 貴族の風上にも置けぬ卑劣な!」


 アルベンの声が周囲に響いてくる。


 あいつ馬鹿だろ。なんで敵の態勢が整うのを待つ必要があるのだろうか。


「さてじゃあ箱庭のコアを破壊しに向かうか。どうせ真ん中に置いてるだろうし」


 この戦争は箱庭のコアを破壊すれば勝利となる。


 コアの場所は持ち主が自由に決められるので、どこに設置するか分からない。だが守りやすさを考えればやはり箱庭の中心部だろう。


 敵は箱庭の全方位から攻めてこられるので、端の方に置くというのはリスキー過ぎるからな。これに関してはアルベン野郎でも中央に置くだろ。


「ふ、ふん! 図に乗るなよエセ貴族が! 私の箱庭は貴様と違って広い! コアを破壊するまでにはかなりの時間が……」

「よし。竜騎兵とゴーレムバイク、出てこい」


 俺の呼び声に応えて魔物たちが召喚される。


 まずは馬に乗った鎧武者が十人。彼らは武士と呼ばれる兵士で、身に着けている鎧は日本の甲冑だ。


 次に現れるのは二輪の鉄の車、ゴーレムバイクだ。エンジン音を鳴らしながら、俺が乗るのを待っているように思える。


 騎乗してハンドルを握ると、さらに音がうるさくなった。どうやら機嫌がいいようだ。


「よし。このまま一気に攻め立てて、箱庭のコアを壊して勝利するぞ! 続けぇ!」

「「「「「おおおおおぉぉぉぉ!!!」」」」」


 ゴーレムバイクが凄いスピードで走り始めて、それに続くように竜騎兵たちの馬が追いかけてくる。


 物凄く速いので、これならあっという間に箱庭中央部についてしまうだろう。


「いいっ!? ば、馬鹿な速すぎる!? え、援軍を! 援軍をお願いします!」


 アルベン野郎の声がさらに聞こえてくる。


 どうやら俺たちが予想外に速過ぎて、慌てて他の生徒に援軍を求めているのだろう。この箱庭戦は援軍が認められているからな。


 おそらくアルベン野郎の魔物の大半は、俺の箱庭を攻める時に使ったはずだ。なので今は防衛用の魔物がほとんどいない。


 つまり攻めのチャンスではあるのだが、奴もすでに他の生徒から援軍を求めている。ここで俺がコアにたどり着くまでの時間で、アルベン野郎は防衛態勢を整えるつもりだったと。


 だが俺たちの機動力が計算より速過ぎて慌てているのだ。


「さあ行くぞ! 一気に攻め立てろ!」


 スピードを緩めないまま平野を突っ切っていく。


 すると敵の狼っぽい魔物が五体ほど現れた。どうやら俺たちを妨害しようとしているようだ。


「これ以上好きにやらせるかぁ! いけ、ブラッドウルフよ! 奴らの足を殺せ!」


 アルベン野郎の耳ざわりな声が響く。やはりあいつの魔物か。


 狼というのは厄介だ。足が速いし機敏だから中々追いつけず、普通なら仕留めるのに時間がかかる。


 だが……追いつく必要がないなら話は別だ。


「竜騎兵、構え!」


 俺の命令に対応して竜騎兵たちが馬の足を止めて、鉄の筒の先端を狼に向ける。


 狼たちはそれを見て警戒こそしているが、特に逃げる様子はない。


 本来なら彼らの判断は間違っていない。得体のしれないモノに対して警戒し、迂闊に背を向けないというのは正しいだろう。


 だが今回に関しては大間違いだ。


「放て!」


 俺が命じた瞬間、鉄の筒――鉄砲が爆発音を鳴らした。


 それと共に五体のブラックウルフは血を流して倒れる。見事に弾丸が当たったようだな。


 竜騎兵は鉄砲を持った騎馬隊。つまり機動力と火力を併せ持っていて、狼のような速い相手にはかなり有利だ。


 ベールアインから鉄砲については教えてもらっていたが、やはりかなり優秀だな。これが俺の領地にもあったらなぁ。


 ちなみに実際の竜騎兵は、なんかあまり活躍してないとか、馬から降りて鉄砲を放ってたとか言ってたが……まあ魔物化してるから大丈夫だろ。


「なっ!? なっ!? なっ!? なにをした!? 何故私の魔物が倒れている!?」


 あー、アルベン野郎の悲鳴が心地いい。


 おっとそんなこと考えてるほどの余裕はなかった。


「よし! 行軍再開だ! 一気に行くぞ!」


 俺はゴーレムバイクに命令して、さらに平野を進んでいく。


 途中でオーガやゴブリンなどがいたが、そいつらはもはや走りながら剣で切り抜けたりした。時間が惜しいので雑魚相手に構ってはいられない。


 そうしてそろそろ箱庭の中心部だろう位置に来ると、人の背ほどの大きさの巨大な水晶が地面の上をわずかに浮いているのが見えた。


 箱庭のコアだ。あれを壊せば勝利となる、はずなのだが。


「……おかしいな。楽しみにしてたアルベン野郎の絶叫が聞こえてこない?」


 今の状況に違和感を抱いていた。


 箱庭のコアが壊されたら負けなのだから、アルベン野郎はもう泣いてのたうち回っているはずだ。


 俺はそのバックコーラスを楽しみにしていたのに、まるで悲鳴がないというのは寂しい。


 声も出せないほど震えている? いやアルベン野郎はそういう性格ではない。ならば……。


「ふははははは! エンド男爵ぅ! 罠にかかったなぁ! お前は気づくべきだったのだよ! 私の領地にいないはずの水棲魔物がいた時点でなぁ! 出でよ、ドラゴン!!!!!」


 アルベン野郎の声と共に、箱庭のコアに立ちふさがるようになにかが落ちてきた。


 それは翼の生えた巨大な、十メートルを超えるようなドラゴンだ。


「ふひひひひひぃぃぃ! このドラゴンはAランクの優れた魔物で、あのイールミィ様から借り受けた魔物だ! 貴様風情では勝てるはずもない!」


 勝ち誇った声が響く。


 この箱庭でドラゴンは召喚出来ないのは知っていたが、他から借り受けていたと。


「人を馬鹿にした奴がより馬鹿なんだよ! 調子に乗って攻めるからそうなるのだ! それを噛みしめて死ね!」


 アルベン野郎の調子に乗った声と共に、ドラゴンが俺に向けて咆哮してくる。竜騎兵ではあのドラゴンを倒すことは無理だろう。


 そんな状況に俺は笑いが漏れていた。


「ククク……やはり馬鹿だな。まさかここまで、計算通りにコトが進むとは」


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