第24話 完勝すればいい


 何故かベールアインがアルベン子爵に宣戦布告された。


 ベールアインもまだどの陣営にも所属してないので、狙われる可能性があるとは言える。でもまさかあの馬鹿が、俺を無視してベールアインに仕掛けるとは……。


 いや俺を狙うとワガママ姫がうるさいのかもしれない。それで代わりに……というのはあり得る話か。


「あ、あの……私は戦いたくはないのですが……」

「ふざけるな! あれだけ私を愚弄しておいて許されると思うなよ! 私が勝った暁には貴様は性奴隷にしてくれる!」


 困っているベールアインに対して、アルベン子爵はいつものように激怒している。


 いや性奴隷って。こいついったい何様のつもりなのか。


 というかアルベン野郎、なんでここまでキレてるんだ? いやあいつのことだから理不尽に怒ってるだけな気もするが。


 するとベールアインはゆっくりと口を開いた。


「そ、そんな……急に婚約なんて申し込まれて、断っただけで……」

「ふざけるな! 貴様程度がこの私の婚約申し込みを断るなど、言語道断にもほどがあろう! 私に気があるかのように、何度も私に話しかけてアピールしてきおって!」

「し、してません! 軽く挨拶しただけで……」

「いいや! 頭を下げて胸の谷間を見せびらかしていただろう! 明らかに誘っていた! そのくせに!」


 どうやらいつものようにアルベン野郎が馬鹿なだけか。


 ベールアインはムダに礼儀正しいから、挨拶の時に頭をしっかり下げる。その時にチラリとでも見えたのだろう。けっこう隙が多いからな。


「許さん! 断じて許さん! 箱庭を奪った後に飼ってやる!」


 顔を真っ赤にして叫ぶアルベン野郎。


 ……さてどうするかな。もうベールアインが戦争を避けるのは難しいだろう。


 あの馬鹿にまともな言葉が通じるとは思えないしな。


 そうなると俺がどうするかを考えなければならない。当然だが俺としてはまだ戦争をしたくない。


 ハイエナのように死肉を貪る予定の俺が、最初に戦っては計画崩れにもほどがある。


 弱った奴を攻めて土地を奪うどころか、俺が戦力を削られて他にハイエナされかねん。


 つまり俺の最善手は今回の争いには一切関与しないことかも。つまりはベールアインを見捨てることかもしれない。


 俺は性格が悪いので見返りなく誰かを助けることはしない。ここで無理に助けた結果、俺まで共倒れになる可能性もあるのだから。


 そんなベールアインと目が合ってしまう。


「……」


 縋るような目で見てくるベールアイン。


 ……もし彼女を見捨てたら、日本の知識が今後は手に入らなくなる。


 後はもしベールアインが箱庭を全て失った場合、どうなるか分からないことがある。


 俺は手元に石板を召喚して念じる。


(おい石板。箱庭を全て失った生徒に、神前盟約の効力は残るのか? というか箱庭を失っても生徒のままなのか?)


 以前に石板は、【神前盟約は生徒である限り効力が続く】と言っていた。


 だがそれは生徒でなくなれば消える。以前は卒業まで消えないと思っていたのだが……この学園は箱庭を持つことを前提としている。つまりそれを失った時点で生徒ではなくなるのではないだろうか。


『箱庭を失った生徒は、その時点で生徒ではありません』

(じゃあ神前盟約も……)

『神前盟約も全て無効になります』


 嫌な予感は当たるものだなぁ。 


 ベールアインが生徒じゃなくなったら、日本の情報が漏らされてしまうかもと。


 俺は善人ではない。他人をタダで助けるなど御免被る。


 だが逆に助けることにメリット、もしくは助けないことにデメリットがあれば。


「まあまあ落ち着いてください、アルベン子爵」


 俺はアルベン野郎をなだめるように話しかける。


「貴様は黙っておれ! イールミィ姫の指示がなければ、貴様も一緒に滅ぼしてやるものを! さっさと失せるがいい! 平民上がりの薄汚れた血が!」


 なるほど。やはりあのワガママ姫の指示で、俺を攻めないように言われてるのか。


 しかし薄汚れた血ねぇ……俺は大抵の貴族が大嫌いだが、特に許せない輩がいる。


「ははは。いやはやアルベン子爵は随分と、自分の血に自信があるようですね。なら蚊にでも馳走してはいかがでしょうか?」


 俺はニコニコと笑いながら綺麗な口調で煽る。


 するとアルベン子爵は俺に詰め寄ってきた。


「ほう。貴様、エンドの分際で私に喧嘩を売っていると? 私は子爵だぞ? イールミィ王国の由緒正しき貴族! 貴様とは生まれからして違うのだ!」


 俺はよ。生まれとかのどうにもならないことで、悪く言う奴が大嫌いなんだよ!


 王様だって元の血筋を辿ればただの一般人だろうがどうせ! なのに偉ぶって下らねぇんだよ! 


「この学園では元の世界の爵位など関係ない。俺の目の前にいるのは薄汚く吠える馬鹿だ」


 さらに言うなら血以外に誇れるものがないから、グダグダ言い続ける愚か者。でもそこまで言うと他の奴にも狙われる恐れがあるので、流石に言葉を飲み込むことにした。


 アルベン子爵は顔を真っ赤にして、俺を睨んできた。


「貴様ぁ! そこまでほざいたのだ! どうなるか分かってるんだろうなぁ! ベールアインの前に貴様を滅ぼしてやる!」


 俺は思わず口元を緩ませていた。


 正直計算外の事態だし、下手を打てば箱庭を失う可能性だってある。


 だが……目の前の男に怨みを晴らせることが、なによりも喜ばしいことだと。


「かかってこいよ子爵様。戦いに爵位なんて関係ないと教えてやるよ」

「いいだろう! 貴様に宣戦布告してやる! 醜い平民まがいが!」


 こうして俺とアルベン野郎は、戦争を行うことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る