第22話 戦争解禁まであと一日
俺は教室で真面目に授業を受けていた。
今日の授業は戦争についてだ。明日解禁ということで、改めてルールの解説が行われていた。
「まず戦争は一対一ではなくて、一対二なども可能です。互いの箱庭が隣り合わせて、魔物を攻め込ませます。箱庭の外側からならどこでも入り込めますよ! 相手の守りが薄そうなところを突きましょう!」
ハルカ先生がいつもより力を入れて叫んでいる。
この人は声が高いからよく響くのだが、今日は居眠りすら許さない音レベルだ。
「それと各箱庭の持ち主の行動は戦いに大きく影響します! 自分や他人の箱庭に入って戦えますからね! それに魔物召喚は相手の箱庭内でも出来ます! ただ箱庭の持ち主が討ち取られたら敗北ですよ! 死にはしませんけど」
この戦争において特に重要なのがこのルールだろう。
日本での防衛においても大きく影響する。普通なら日本に上陸するのには、船で渡ってきた魔物しか出来ない。
だがこのルールならば、相手の箱庭持ち主が船で渡ればよい。そうすれば後は全戦力を自由に召喚できるのだから。
ただその一方でデメリットも大きい。
相手の箱庭に攻め込んだはいいものの、それで討ち取られたら負けが決まってしまう。普通の戦争でも総大将が前に出ない理由であるが、この箱庭戦においては総大将の運用が大きく影響するだろう。
「もちろん箱庭の外で腕組みして、俯瞰して指示を出すのもOKですからね! 頑張って立ち回ってください! あ、チャイ……鐘が鳴りましたので授業終わり!」
ハルカ先生はそう言い残すと、速攻で逃げるように去っていく。
授業の余韻とか知ったことはないという動きは、戦争解禁前日でも変わらないらしい。どれだけ早く帰りたいんだよ。
帰る用意をしていると、いつものようにベールアインが話しかけて……来なかった。
彼女の席を見てみるとすでにいなくなっている。どうやらもう帰ってしまったようだ。
……珍しいこともあるな。まあいいか、別に俺とあいつは婚約しているわけでもないし。
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会談室で二人の男が話し合いをしていた。
「砂金が獲れる程度で偉ぶるなど、品性のかけらもないと思わぬか!」
「その通りだ! エンド男爵は身の程をわきまえておらぬ! あのような見目の悪い醜い土地で!」
片方はアルベン子爵。もう片方はジーノ伯爵という貴族で、二人は元の世界からの仲だ。
「気に入らぬ! 気に入らぬ! あんな者は惨めにしておればいいものを!」
「その通りだ! 下賤な生まれの平民上がりの血が、我らと対等と勘違いするなど!」
エンド家は二代前の祖父が、手柄を立てて貴族になった。
故に生粋の貴族である二人にとって、ロンテッドは平民の血の流れる者だ。彼らにとって平民の血はゴミに等しい。
「ふん! しかもベールアインとも仲良くしおって! あのような美しい者は、私にこそお似合いなのだ! 醜い血の者に仲良くする権利はない!」
「その通りだ!」
アルベン子爵がロンテッドを気に食わないのには、さらにベールアインの存在があった。
彼女がいつもロンテッドの近くにいるのは、アルベン子爵にはあまりにも気に食わないことだ。
「まあそれも今日までなのだろう?」
「そうだとも。もう不愉快な光景など見なくてすむ。なんとも腹立たしいことだったがな!」
激高するアルベン子爵の腹が鳴る。
「……腹が減ったな。食事にするか」
「ああ、そうだ。実はショップで美味なる食べ物を購入してな。おにぎりと言うのだが。120魔貨と高値だが味がよい」
ジーノ伯爵は箱庭を出現させて、そこからおにぎりを二つ取り出す。そして片方はアルベン子爵が受け取った。
二人はそれぞれおにぎりを食べ始める。
「ほう、これは美味だな。値段分の価値があるというものだ。ふふふ、エンド男爵などはとても食べられぬモノだろうな」
「その通りだ。あのような者では買う余裕もあるまいし、仮に食べても味など分からぬよ。我らのような優れた血でなければな。まだあと五つはあるぞ」
「それは素晴らしい」
二人が気分よくおにぎりを平らげた後、扉がノックされる。
「あ、あの。私です。なんのご用でしょうか?」
扉の先から聞こえる声は、ベールアインのものだった。アルベン子爵は下卑た笑みを浮かべると。
「よく来たな。入るがいい」
「は、はい……なんのご用でしょうか?」
「ああ。それもすぐに話してやる。安心したまえ、君にすごく得な話だ」
そうしてベールアインは入室して、しばし三人での会話が行われた。
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