第21話 あと二日、さらなる戦力強化を


「はい! 今日の授業は終わりです! あと二日で戦争解禁ですから頑張ってください! それと今日からすごく暑いですが、一か月以上はこの気温が続きますので!」


 鐘が鳴った直後、ハルカ先生は教室での授業を終えて去っていく。


 ……今日は暑いなぁと思ってたが、これからしばらく続くのか。


「ロンテッドさん、お疲れ様です。今日は暑いですね……こんな日はアイスが食べたくなっちゃいます」


 帰る準備をしているとベールアインが話しかけてくる。やはり彼女も暑いようで、制服のシャツが少し肌に張り付いていた。


「……アイスってなんだ?」

「あっ。そうか、そうですよね。アイスというのは……」

「待て。アレに関わることなら俺の部屋で話そう」


 俺が知らなくてベールアインが知っている。ならば日本関係のことに決まっている。

 

 さっそく俺の自室にベールアインを招待して、アイスとやらについて問いただすことにすると。


「アイスはすごく冷たくて、甘くて美味しいお菓子なんですよ。牛の乳と砂糖と氷で作って……!」


 などと目を輝かせて告げてくるので、すごく売れそうな感じがしてきた。


 おにぎり以外にも儲かる商品を作りたいので、こういった情報はすごくありがたい。


「おい石板。アイスは日本で作れるよな?」

『はい、ただし魔素で用意するなら結構高くなりますよ。おススメは作物みたいに作ることですね。三つの要素を用意すれば、毎日無料で作成できます』

「三つの要素とは?」

『サトウキビ畑、牛牧場、氷属性の魔物になります。魔物でないものは、作る材料と手段がないと生産できないのです。海苔おにぎりもそうだったでしょう?』


 なるほど。牛の乳と砂糖と氷を用意できないと無理と。


 ……以前に雪女たちを召喚してから、特に土地を変更などはしていない。まだ土地に余裕はある。


 だがあと二日で戦争解禁になる。ひとまず残った土地は魔物のために使って、戦力増強をしたいというのが本音だ。


『ちなみに氷属性の魔物がいれば氷なども作れますよ。それだけでも売れるのでは?』

「……すぐ溶けるだろ」

『ドライアイスも用意できますが』

「なんだそれ?」

『触ると火傷する氷です』

「ふざけてるのか?」


 またこのクソ石板は俺を騙そうとしやがって。


 なんで冷たい氷で火傷するんだよ。いくらなんでもあり得ないだろうが。


「あ、あのドライアイスで火傷するのは本当ですよ。低温火傷と言って、しもやけに近い感じです」

「そうなのか……」

『クソガキ、なんでベールアインの言葉はすぐ信じるんですかね』


 普段の行いに決まってるだろクソイワ。


 まあアイスのことはいいや。ひとまず明後日の戦争解禁に向けて、戦力の強化をしなければ。


「さて新しく戦力を補強しようと思う。クソイワ、現在の箱庭の状況表示を」

『イワ使いの荒いクソガキですね』


 俺の目の前の床に日本の箱庭が召喚されて、石板に現在の箱庭の状態が表示される。

 

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エンド領


・魔素残量

40000


・土地使用率 

50% 


・作物収穫量 

米  4400g

海苔   20枚


・魔物飼育数

河童

3体

蜘蛛忍者

1体

雪女

3体

スモルフィッシュ

1000体

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「わが箱庭の魔物は粒ぞろいだが、やはり数が足りないと思うんだ」

「スモルフィッシュが千体いますよ」

「そいつら雑魚だから……陸地ではなんの役にも立たないし。反撃時に使える戦力が、実質河童と蜘蛛忍者だけは流石にな」


 スモルフィッシュと雪女はそれぞれ戦えるフィールドが決まっている。


 日本で戦える防衛でならともかくとして、敵の箱庭に攻めるのには使えない可能性が高い。


 日本みたいに海ばかりの箱庭なんてほぼないだろうからな。それに日本を攻めるとしても、最終的には上陸しないとダメだし。


ついでに河童も陸地での長時間活動は難しいので、実質蜘蛛忍者だけという。


「なので防衛力のさらなる強化と、敵の箱庭に攻める時の戦力の補強が必須だ」

「どんな魔物を召喚するかは決めてるんですか?」

「大雑把にはな。防衛は周囲が海なのを有効活用できる水棲魔物を。攻める時は逆に陸生の魔物だ。水棲魔物については、以前に石板が伝えてきた魔物を召喚するつもりだ」


 具体的には船幽霊とゴーレムシップとやらだ。船幽霊は群れ運用前提の魔物で、木造船と一緒に召喚されるらしいので役立つだろう。


 ゴーレムシップはクルーザーという船を魔物化するらしい。水上を高速で走れる上に丈夫らしいので、使い勝手がよさそうと考えている。


 やはり戦いは機動力だからな。スピードこそが攻撃力であり防御力でもある。


「そういうわけで石板。船幽霊を十体とゴーレムシップを召喚してくれ」

『はいはい』


 すると箱庭の海上に木造船と、真っ白な鉄の塊が出現した。前者が船幽霊で後者がゴーレムシップだろう。


 木造船には透き通った人の亡霊が大量に乗っていた。正直不気味である。


 ゴーレムシップの方はよく見れば船体の前部分に目がついていて、誰も乗っていないのに勝手に海を移動している。これまたなんか怖い。


「ほ、本当にクルーザーが召喚されてます……」

『ゴーレムシップです。クルーザーがゴーレム化したものなので、ほぼ別物とお考え下さい』

「は、はい。すみません!」


 ベールアインは石板にペコペコ頭を下げて謝っている。律儀な奴だ。


「じゃあ防衛はひとまずこれでよしとしよう。次は攻撃用の魔物が欲しいな。おススメはあるか? 出来れば機動力が高い奴がいい」

『機動厨ですねクソガキ。ならこんなのはいかが?』


 石板が魔物を数体ほど表示してくる。


 ダークホース・・・必要魔素200。Dランク。闇の馬。かなり丈夫で再生能力を持つ。


 ゴーレムバイク・・・必要魔素500。Dランク。バイクがゴーレム化したもの。悪路も平気で走りきる。


 竜騎兵・・・必要魔素750。Cランク。馬に乗った鎧武者。火縄銃を装備しているため遠距離攻撃可能。


「……なんか今回は変なのがいないな」


 どの魔物も別に弱そうではないし、ツッコミどころもなさそうだ。


 前の亡霊ゴリ押しはなんだったのかと言いたくなる。


『私はベストな魔物を勧めていると言ったでしょう。お望みならいくらでもご用意しますが』

「いやいいよ。さてどうするかな……」

『あ、とっておきの魔物もいますよ。ただ燃費が悪い上に、一体で20000も魔素を消費しますが』

「……消費量多すぎないか?」


 Bランクの雪女ですら1500だったのに、その十倍以上の魔素消費が必要な魔物とは……。


 それに現在の全魔素を半分持って行ってしまうのだが。


「う、うーん。その魔物も教えてくれ。ただ召喚するかは迷うが」

『わかりました。それでは……』


 そうして色々と話し合った結果、竜騎兵を十体とゴーレムバイク一体、そしてとっておきの魔物を召喚することになった。


 最終的に残る魔素は1000になってしまった……また稼がないとな。


 ただこれで防衛力はより強化されたので、仮に戦争を仕掛けられてもアッサリ負けることはない。


 まあそもそも、解禁されてもしばらくは戦争が起きないと予想しているが。


「そういえばロンテッドさんは、戦争解禁と同時に攻めるんですか?」


 そんなこと考えてるとベールアインが俺の方を見てくる。


「いやまずは様子見だ。最低でも周囲がドンパチやり始めてからだな」


 なにせ迂闊に仕掛けて戦力を摩耗したら、他の奴に狙われてしまうのだから。おそらく膠着状態が続くだろう。


 だがいずれしびれを切らす奴が出てくるはずだ。それは四大勢力のトップたちを見て確信している。


 あいつらは保守的なタイプではない。動きがなければ、なにかしら仕掛けるだろう。


「なので俺の今後の展望としては、弱った陣営の箱庭をかっさらう! 理想はギリギリで勝てたけどまともな戦力が残ってない奴を、速攻で攻め滅ぼして土地を奪う! 争え、早く争え……!」

『まさに死肉を喰らうハイエナですね。醜い』

「うるせぇ! これが弱者の勝ち方なんだよ!」


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