第20話 ワガママお嬢様
俺は観念してワガママお嬢様こと、ナミリア・イールミィの話を聞くことにした。
「姫様、私になにか御用でしょうか?」
彼女は一応は俺の所属する国の姫だ。ひとまず臣下の礼を取っておこう。
すると姫様は不機嫌そうに俺を睨んでくる。
「聞きましたわよ。貴方、我が王国の貴族なのに私の陣営に入っていないと! どういうつもりなんですの!」
姫様のわりと正当な怒りが飛んでくる。
この学園では立地などは関係ないが、やはり大抵の者は元いた所属先の陣営に入っている。
なので俺が彼女の下にいないのは、本来ならかなりおかしいことになる。
姫様からすれば俺は怒りの対象だろう。なにせ国からすれば貴族に土地を渡しているのに、自分の下に入らないとは何事かと。
だが俺にも言い分はある。国は俺の領地をまったく守ってくれなかったのだ。
四方の領地から攻められた時も、国はなにひとつしてくれなかった。
俺たち領主からすれば、土地を守ってもらえるから国の下について税を払っている。なら何もしてくれない国に忠義を尽くす義理はない。
ただここで本音をぶちまけたら喧嘩になるから……。
「申し訳ございません。実は私の土地はあまりにも貧しく、そのため土地の変更を行いました。ですがこれが大外れでして……このような土地持ちでは、むしろ栄光のイールミィ王国の足を引っ張ってしまいます」
事前に言い訳を考えておいて正解だった。
ワガママ姫だし面倒ごとは嫌いだろうから、諦めてくれないだろうかと期待したが、
「そんなこと気にしなくていいですわ。ワタクシは臣下を見捨てませんの!」
ぐっやはり嘘がバレて……いや姫の目は真剣で、彼女は俺に手を差し出してくる。
ええい! ワガママ姫なんだから「じゃあいいですわ! そこらで野垂れ死になさい!」くらい言って欲しかった!
だがイールミィ王国につくなどまっぴらごめんだ! 勝ち馬になるまでは!
「申し訳ありません。今の私にはその資格はありません……いずれ、折を見て機があれば復帰しようと思います」
具体的にはイールミィ王国の勝ち確定が決まったら、だ。我ながら口から出まかせにもほどがある内容。これで説得は無理か……。
だが姫は感激したように両手で口を押え始めた。
「よい忠義ですわ! 分かりました。そこまでの誇りがあるのならば、貴方が戻って来るのを待ちますわ!」
まじかよ、この筋も何も通ってない言い訳が通じるのか……。
この姫様、ワガママというより残念では?
そんなこと考えていると腹が鳴ってしまった。そういえば忘れてたけど今日もまともに食べてないな。
空腹が当たり前になって慣れてしまっている。最悪でも死なないし。
「あらあら。お腹が空いていると。ならこれを下賜して差し上げますわ」
ワガママ姫様は足元に箱庭を出現させた。
……かなり巨大だ、おそらく一辺が3m以上はあるぞ。流石は最大勢力の頂点の箱庭ということか。
彼女は箱庭に手を突っ込むと、パンを取り出して俺に手渡してきた。
「むせび泣いて感謝しなさい! じゃあなるべく早めに我が元に来るのですわよ!」
そう言い残してワガママ? 姫様は立ち去って教室から出ていく。そんな彼女に追随するように数人の生徒がついていく。
なおその生徒たちは俺を睨んでいた。そりゃそうだろうな。
なにせ口から出まかせの自分勝手すぎる言い訳なのだから。しかもあの姫様、俺にパンまで渡してしまったからな。
あの姫様の周囲の人間からすれば面白くないだろう。俺に渡すパンがあるならば、自分にくれよと思うに決まっている。俺が彼らの立場ならそう考えるからな。
つまりあの姫様はあまり人心掌握術に長けていない。グダグダ言ったがもちろん遠慮なくパンはもらうがな!
あれだけ裕福で恵まれた奴ならパン一個くらい誤差だろ!
「ロンテッドさん、大丈夫ですか?」
そんな俺にベールアインが話しかけてくる。
「大丈夫だと思うか?」
「……お疲れ様です。イールミィさんはどうでしたか?」
ベールアインは返答代わりに愛想笑いを浮かべてくる。
残念ながらまったく大丈夫ではない。目を付けられたくない奴に声をかけられまくるからな。
いやあのワガママ姫が話しかけてきたのは、むしろ当然なのだが。なにせ俺は彼女の国の貴族なのに、従わないという不穏分子だからな。
「ワガママ……かは分からないが、特別有能そうには見えないな。他の三人に比べるとたぶん見劣りする」
俺の評価としてはワガママ姫は、他の四大勢力のトップより劣る。
と言っても彼女がダメというよりは、他の三人が明らかに優れていそうだからだ。
ワガママ姫以外の者たちには、短時間でも分かるほどの長所があった。だがあの姫様からはそれが感じられない。
もちろん隠している可能性もあるが……ただ俺にパンを渡すというのは、優秀なら避ける行為だと思うなぁ。臣下に悪く思われるデメリットもあるし。
「じゃあイールミィさんの勢力は、学園で勝ち残るのは厳しそうですか?」
「いやそれは分からない。あの姫様にも最大勢力という長所があるからな。他三人に個人の能力では負けていても、純粋な兵力は一番多いわけで」
やはり土地の広さと豊かさは正義だ。多少の将の質は兵数などで補える。
それにあの姫様とてさっきのやり取りでは微妙に見えただけで、なにか隠し持っている才などあるかもしれない。
「結局まだよくわからないな」
まだまだ勝ち馬は見極められないだろう。とにかく戦争が解禁されてからしか、予測を立てるのも難しい。
とりあえず四大勢力全員の人柄が見えたのでよしとしよう。
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