第19話 四大勢力、そろい踏み


「だからですねー! 戦いのときに他の生徒と仲良くしていると、戦争の時に援軍を求めることも可能です!」


 この学園に来てから二十七日が経った。戦争が解禁されるまであとわずか三日だ。


 徐々に生徒たちの間での緊張が高まる中、俺は今日も真面目に授業を受けていた。


 すると授業終了を告げる鐘の音が鳴り響く。


「やっと今日も終わりですねー! 皆さんお疲れ様でした! 戦争解禁まで残り三日ですが、皆さん頑張って生き残る努力をしてくださいね! じゃあ残業したくないのでこれで!」


 ハルカ先生はそう言い残すと、すたこらさっさと教室から出ていった。


 すると彼女と入れ替わるように、四人の生徒が教壇へと近づいていく。


 そのうちの三人は俺が知っている者たちだ。


「貴様ら、退くがいい。我が声を妨げるならばこの筋肉が唸るぞ」


 筋肉の雄、じゃなかった竜皇ドラゴニア・バーンテッドが威圧するように呟く。


 クマすら素手でぶっ飛ばしそうな男の命令。だが残りの三人は全く臆する様子がない。


「ふふっ。腕力が役に立たないとは言いませんが、力だけでは勝ち残れませんよ」

「そうですそうです! イリア様にかかればお前なんてただの筋肉岩です!」


 賢鷹の目たるイリア・ホークエールとアーミアは、ドラゴニアに対して強気に立ち向かう。

 

 体の大きさが子供と大人くらい違うのにすげぇな……。

 

 そしてそんな三人と同様に、もうひとりの生徒が登壇しようとしていた。

 

 煌めく金髪を首辺りまで伸ばしている。男子の制服を着こなすが、その美しすぎる容姿は美少女に見えた。服が男物だろうが女物だろうが関係なく、美男子でも美少女でも通用するほどだ。


 だが胸が少し膨らんでいることで、かろうじて性別が断言できる。

 

 そんなは他の三人に対して不敵にほほ笑むと、


「違うね。この学園で勝ち残るのに必要なのは、知恵でも力でもない。すなわちこのボク、ルティア・オーセンメイアさ」


 この学園の第三勢力、ルティア・オーセンメイア。


 実はこいつに関してはあまり分かっていない。俺が授業に出始めてからは、こいつは一日も出席しなかった。


 しかも蜘蛛忍者の調査もあまり成果がなかったのだ。蜘蛛忍者が完璧に隠れているはずなのに、彼女にだけは察知されてしまうと。


「ふふっ。ご自分が勝者だと? それは驕りというものではありませんか?」

「下らぬ! 力こそ力だ! すなわちこの我が最強であると!」


 賢鷹の目と筋肉山脈の威圧に対しても、ルティアはほのかに笑って受け流す。


「きゃー!!! ルティア様ー!!!」

「素敵ー!」


 それと同時にクラスの女子どもから黄色い声援が上がる。


 おのれ……! 別にモテたいわけではないが、それはそれとして嫉妬してしまう……! 別にモテたいわけじゃないが……!


「確かに二人とも凡百の者ではないのは認めよう。だがそれでもボクの勝ちは揺るがない。勝者に必要なのは知恵でも力でもない。それを教えてあげよう」


 なんということだ。戦争解禁前なのに宣戦布告が始まってしまったぞ。


 この濃い三人の戦いとか正直面倒くさそうだ。元から避けるつもりだったが、より関わりたくないことこの上ない。


 だがまだだ。このクラスにおける大勢力はあとひとつある。


「お待ちなさい! このワタクシを無視して、下らぬ話をするんじゃありませんわよ!」


 緑色の髪を太ももまで伸ばした、いかにもお嬢様と言った少女がさらに介入してくる。


 とうとう出てきたな。あの我儘お嬢様っぽいのこそがナミリア・イールミィ。


 俺の所属するイールミィ国の姫にして、この学園での最大勢力だ。そんなナミリアは扇で仰ぎながら、平たい胸を張って偉そうにしている。


 さてこれで教壇の周囲に、四大勢力のトップがそろい踏みしてしまったわけだが。


「ワタクシこそが勝者ですわ! 元の世界での国力差からしても明らかでしょう! 従属すれば許してさしあげますわよ?」

「下らん。我が力はその程度など軽く覆す」

「ボクも同感だね。元の世界の差なんてそこまでアテにはならないさ。だってここは神前学園なんだからね」

「ふふっ。この戦いで重要なのは国力差ではありません。それを教えて差し上げましょう」


 四人はにらみ合って視線で火花を散らし、アーミアだけ蚊帳の外なのでワタワタしている。


 いやー……なんとも個性的な面子を揃えましたという感じだ。そして誰が勝ち馬になりそうか全く分からない。


 なにせ四人ともタイプが違い過ぎて比較出来ないのだ。槍と弓と剣のどれが武器として優秀かと聞かれたら、時と場合によると答えざるを得ないみたいな。


 それにこの学園の戦争を知識でしか知らないのも大きい。やってみないと分からないことが多すぎる。


 国力のワガママ姫、暴力の竜皇、魅力のルティア、知力のホークエール……やはり戦争が始まってある程度経たないと、予想すら建てられないな。


 やはり当初の予定通り、しばらくはこの四人には関わらないでおこう。


「おっとワタクシは用事があるのでした。ではこれで失礼しますわ!」

「フン、興が削がれた」

「もう教壇に登っても仕方なさそうだね。ボクも帰るかな」

「ふふっ」


 四人は結局誰も教壇に登らずに、解散していった。


 本格的な戦いの前哨戦みたいなものだった。しかし……敵対する大勢力のトップ同士が顔を合わせるなんて、そうそうあることじゃないよな。


 普通なら暗殺とかを警戒して、互いに代理を立てての話し合いになるだろうに。


 これだけでもこの学園の戦争は、普通とはまるで違うと分かってしまう。


 さていいモノも見れたし俺も帰るか……と椅子から腰を上げる。


「待つのですわ!」


 するとワガママお嬢様が誰かに叫んでいる。目をつけられた奴も可哀そうに。


 まあ俺には関係ないしさっさと……。


「貴方ですわよ! お待ちなさいな!!」


 ……ワガママお嬢様は明らかに俺の方を見て叫んでいた。


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