第17話 防衛力を強化しよう


 今日も今日とて、俺はバザーにおにぎりを出店していた。


 お値段は前回から10ほど上がって60魔貨。代わりに海苔つきだ。


 ベールアインからおにぎりと言えば海苔と言われたので、箱庭で育てることにした。


 箱庭に海苔製造場とやらがあったので、それを作ったらすぐに生産が始まったのだ。海辺しか作れないというデメリットがあったが、日本は周囲全部海だから特に問題ない。


 試しに食べてみたが美味かったので、さっそく採用して売り始めている。


「ほう。このパリパリ感がいいな」

「海藻と穀物の組み合わせとかよく考えつくな。お前、料理の才能あるんじゃね? もし貴族じゃなくなったら、料理人として生きていくのをおススメするよ」


 おにぎりを購入した金づるからの評判も上々だ。


 なお日本に元からあった料理のため、俺は特に考え付いてないが黙っておくことにする。余計な情報を漏らす必要はないのだ。


 そうして売り続けている間に夕日が差してきた。もう生徒もこないだろう時間。


 今日の売り上げはあまりよろしくなかったが特に問題はない。


 最近は米の売れ行きに関わらず、稼げる魔貨はほぼ一定になっている。それこそ雨のせいで中庭でバザーが開けない時もだ。何故なら……。


「どうもー。今日はどれくらい売れ残りましたー?」


 天使の羽根を背中に生やした少女にして、ショップ店員のエンジェリアがいつものようにやってきた。


「十個くらいだな」

「じゃあ全部くださいー」


 何故いつも稼げる量が一定なのか。それは彼女が売れ残ったおにぎりを全て定価で買い占めるからだ。


「おお、今日は残ってますねー。助かります助かります! このおにぎりをショップで売れば儲け儲け!」


 なんとこいつ、俺のおにぎりをショップで売っている。


 俺としては損がないのと、毎日手に入る魔素の量が安定するから助かるけどさ。


 最初に提案された時は商魂たくましいというか、そもそもアリだったのかと驚いたものだ。


 ちなみにこのショップ、他の生徒から買い取った物も売る時があるらしい。


「あ、本来なら私は仕入れはしないのであしからず」

「おにぎりはいいのか」

「儲かりそうなので特別です!」

「ちなみにいくらで売ってるんだ?」

「150魔貨!」

「倍額以上じゃん」


 相場など知らぬと言わんばかりの強気の値段設定である。


 あ、でもショップ自体が相場の倍の値段で売りつけるとか言ってたなぁ。


「これでも皆さん買ってくれるんですよ。野ざらしバザーの下賤な品物など買わぬ! という貴族も多くて。そんな人たちがいっぱい買ってくれます! おにぎりは人気商品ですよー! なんなら最初から私に全部売ってくれてもいいですよ!」

「やめておくよ。売り先がひとつだけだと、なにかあった時に困りそうだ」

「チッ」


 エンジェリアは舌打ちしてきた。


 販売ルートの選択肢がないと、商人が強気に出てしまうからな。この場合はショップ店員のこいつ次第になってしまう。


「じゃあまた売ってくださいねー。ではではー」


 エンジェリアはおにぎりを受け取ると、カバンにしまって帰っていく。たぶんあのカバンも箱庭と同じようにモノが収納できるのだろう。


 しかしバザーに行きたくないからと、同じものをショップで倍額で買うもの好きがいるとは。俺からすれば馬鹿としか思えない。


 そんなことを考えながら自室に戻る途中、寮の廊下を歩いていると。


「あ、ロンテッドさん。今日もお疲れ様です」


 ベールアインと鉢合わせた。彼女は風呂上がりなようで、制服こそ着ているものの髪の毛が濡れている。


「ああ、ベールアインさん。どうもこんばんは。これから自室に戻って、箱庭に魔物を召喚しようと思ってます」

「なら私も行ってもいいですか? 日本がどうなるのか気になってまして」

「別にいいですよ」

「ありがとうございます!」


 何故かベールアインがついてくることになった。


 今日は遅いから誘うつもりもなかったのだが……まあ何気ない日本の知識は重要なので俺としては損はない。


 そうして自室に戻って箱庭を出す。


「おいクソイシ。今の箱庭の状態を表示しろ」

『これだからイワ使いの荒いクソガキは』

「わきまえろ。今のお前に岩なんて敬称をつける価値はない」

『あれ敬称だったんですか素直にビックリです』



---------------------------

エンド領


・魔素残量

30000


・土地使用率 

50% 


・作物収穫量 

米  4400g

海苔   20枚


・魔物飼育数

河童

3体

蜘蛛忍者

1体

スモルフィッシュ

1000体

-----------------------------


 土地使用率がかなり高くなってきた。


 米を植えれば植えるほど魔貨になるので、かなり優先したからな。


 おかげで最近の一日で得られる魔素は、砂金込みで5000近くになってきている。


 だがここからは米を増やせない。これ以上土地の占有率を埋めたら、魔物を置いておく場所が不足する。


 それにもうすぐ戦争が解禁されるので、防衛力を上げないとな。

 

「そういうわけで新しく魔物を召喚しようと思う。ただこのクソ石板が後出しでひどい情報を出しやがってな。召喚する魔物によっては、性格の相性が合わないことがあるって」

『だって聞かれなかったですし』

 

 流石の俺もさ、蜘蛛忍者にあそこまで嫌われる心当たりはなかった。

 

 なのでクソ石板を問い詰めたら、後出しで書き出しやがるクソが。


『そもそも情報関係なく普通のことでしょう。人間だって性格の相性は当然あるわけで、なんで魔物にはないと思ったのですか? 貴方だっていけすかない相手の一人や二人いるでしょう』


 正論で腹が立つが反論しづらい。


 動物だって性格があるのだから、知性のある魔物にもあって当然だ。言われなくとも気づくべきだった畜生。


 ちなみにいけすかない相手についてだが、俺の場合はいけすかなくない相手を数えた方が早かったりする。というか数えられる。


「じゃあ俺と性格の相性がよくて、かつ召喚コストが低くて優秀で強くて使い勝手のいい魔物を列挙しろ。聞いたんだからちゃんと答えろよ?」

『わかりました。勝手に一部条件を除外して列挙しますね。使い勝手は不要ということでキワモノ揃えます』

「やめろクソイワ!? わかった、なるべく優秀な魔物を頼む」

『最初からそのように謙虚でありなさい、クソガキ』


 このクソイワいつかぶっ壊してやる。具体的には卒業の時あたりで。


 石板に文字が刻まれていき、数体の魔物の名前が表示される。


 船幽霊・・・必要魔素300。Cランク。船で死んだ人間が亡霊と化したもの。常に船に乗り込んでいて、他の船に対して柄杓で海の水をくんで沈める。


 ゴースト・・・必要魔素150。Dランク。ポピュラーな亡霊。恨みによって生者を呪い殺したり身体を奪う。


 雪女・・・必要魔素1500。Bランク。氷を操る女性。異常なほど嫉妬深く、生きた人間を凍らせて殺してしまう。周囲の温度が高いほど弱体化する。


「いやあさぞかし使い勝手のよさそうな魔物だなぁ! ははは! おいてめぇ、変わった喧嘩の売り方してくれるじゃねぇか」

『お黙りなさいクソガキ。これは真面目に列挙した結果ですよ。召喚主と魔物ってのは相性があるんですよ。なので怨霊が怨霊を使役すればバランス取れるんですよ』


 微妙に反論しづらいところを突いてきやがった。


 ただ真面目に俺と魔物の相性は考慮しないとダメか……蜘蛛忍者みたいに嫌われてると、逆らわないとは言えども手抜きされかねない。


 やはり信頼関係が築ける配下が欲しいからな。それが俺の場合は怨霊系の魔物ということになると。

 

 うん、怨霊と信頼関係とはいったい……むしろ築いたらダメな気がするんだが。


「大丈夫ですよ! ロンテッドさんならいけます!」


 するとベールアインが励ましてきて余計に辛い。こいつ、実は俺に当たり強くない?


『ところでこの中の魔物を召喚しないのですか? 使い勝手が悪い分だけ優秀ですよ、亡霊系。貴方なら怨霊同士相性がいいので、使わないと損でしょう』

「……なあ石板。亡霊系以外の魔物も紹介してくれ」

『でしたらマシンゴーレム系ですかね。例えばゴーレムシップで海戦を制するなどは』

「砲撃も出来たりします?」

「クルーザーなのでそれは無理です。でもすごく速いので」

「ほう、いいんじゃないか。速さは正義だ」

「でもおススメはやはり亡霊系です」

「クソが」


 色々と話し合いをした結果、やはり亡霊系ということになった。


 とりあえず雪女を三体ほど召喚することに決まる。こいつらは一体1500魔素とそれなりにコストが重いが、その価値はあると判断した。


「よし。雪女たち、出てこい」


 俺の呼び声に応じて、箱庭から雪女三人が召喚される。


 真っ白な肌に着物の美少女たちだ。思わず目を惹かれるような彼女らは、俺に対してペコリと頭を下げてきた。


「ご主人様。我ら雪女いかなるご命令も……あ、外あつっ」

「うわぁ!? 溶けてるぞ!?」


 雪女たちの身体が崩れていき、ドロドロと人の形すらなくしていく!?


「ロンテッドさん! 戻して!? 箱庭に戻してあげてください!?」

「も、戻れっ!?」


 命令した瞬間、雪女たちの姿が消える。箱庭に小さくなって存在していたので、どうやら溶けきる前に戻れたようだ。


『暑いところでは弱体化しますと書いたはずですが』

「弱体化どころじゃないだろこれ!?」


 あ、あぶねぇ……危うく戦争前に戦力が減るところだ。


 熱に弱すぎて寒い場所でしか運用できないようだ。いやこの部屋そんなに暑くないから大丈夫だと思ったのに……。


『弱体化ではあるでしょう。ただこのデメリットがある分、運用できる場所での強さは保障しますよ』

「この部屋でダメなら使える場所がほとんどないのでは?」

『デメリットが強いほどロマンありますよね』

「くたばれ。他の魔物はないのか!? もっと使い勝手がいいやつ!」

『まったくワガママですねぇ』


 そしてクソイワから他の魔物の紹介を受けた。武士とかもおススメらしいので、もう少し吟味しつつ追加召喚していこうと思う。


 こうして我が箱庭に新たな戦力として雪女が加わったのだった。船幽霊もわりと使いやすいと聞くので、そのうち召喚するかも。


「念のためですけど、日本って魑魅魍魎の魔窟やお化け屋敷じゃないですからね」


 ベールアインの一言が微妙に心に刺さった。



--------------------------------------

★やフォローを頂けると嬉しいです!

更新時刻を変更する可能性もありますが、フォローしていると更新されたのが分かります!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る