第16話 四大勢力、竜皇


 この学園に来てから三週間が経った。


 俺は今日から真面目に授業に出ると決めている。


 理由としてはクラス内の情報を得るためだ。蜘蛛忍者に諜報を頼んではいるが、やはり自分でも動かないとな。


 そろそろ日本の情報の秘匿よりも、有利に立ち回れるように模索していくべきだ。


 そんなわけで俺は教室の椅子に座っていた。なお椅子には結構空いているところもあったりする。


 ようはサボってる、あるいは情報秘匿のために出てない生徒が多い。出席率は八割程度だろうか。


「他の生徒と戦争した時、相手の箱庭のコアを砕いた時点で勝利になります。勝利した時点で敗者の箱庭のあらゆるモノが、勝利者の手に委ねられますよ! 相手の箱庭が豊かなほどお得ですね!」


 ハルカ先生が教壇に立って授業をしている。


 なおこの情報は全て石板に聞けば教えてくれることだ。そう考えると授業に出る意味はないように思える。


 だが逆に言うと聞かなければ教えてくれない。受け身でも情報が知れるという点では有用な授業な気もする。


 すると鐘が鳴り響き、ハルカ先生は「やっと授業終わったー!」と歓喜の声。それでいいのか教師。


「じゃあ明日はえーっと。なにやるか考えておきますね!」


 授業の内容はせめて前日には考えておけよ、などと思うが口には出さない。


「残り一週間で戦争が解禁されます! 平和な学園生活を楽しんでくださいねー! 偽りかもしれませんけど! 私としては授業に真面目に出ている子には生き残って欲しいですね!」


 そんな不穏なことを言い残して去っていくハルカ先生。


 残された生徒たちも帰り支度をし始めたり、近くの生徒と話したり色々だ。


「ロンテッドさん。今日も真面目に授業に出てるんですね」


 するとベールアインが俺に話しかけてくる。こいつは常に出席している真面目ちゃんだ。


「そろそろクラスの雰囲気を肌で感じたいからな。それに別にサボっていたわけじゃない。身を守るために授業に出てなかっただけだ」

「授業に出ることで危険になるように聞こえますけど……」

「あり得る話だろ。少なくとも授業に出ることで、他の生徒と関れば何かが起きる。俺とお前が知り合ったように」


 俺が箱庭紹介の授業に出なければ、ベールアインと知り合うことはなかっただろう。


 この学園の授業はお勉強のための生易しいものじゃない。どちらかというと世界中の有力者が集まるパーティーのようなものだ。


 ここでうまく立ち回ればコネや権力を得られるが、失態を犯せば途端に悪評が広まってしまう。場合によっては敵対者まで作ってしまうだろう。


 つまり俺の一挙一動が今後の人生に大きく影響する。


 正直、全く気の抜けない戦場だ。精神的にものすごく疲れる……。


 などと考えていると教壇の上に誰かが登った。男の生徒でかなり背が高くてガタイもいい。


 筋肉も凄まじく制服がパツパツだ。というか筋肉が服を着ているみたいなレベル。


 腕をまくっているのだが、その岩肌のようだ。人間がここまで筋肉をつけられるのかと驚くレベル。


 野郎の胸元の大胸筋が少し見えていて嬉しくもない。これが美少女の胸元ならばなぁ。


「この竜皇ドラゴニア・バーンテッドの下に集うがいい。さすれば勝者に、さもなくば敗者となるだろう。貴様らはどちらを望む?」


 ドラゴニアとやらは両手を宙に掲げて、俺たちを一瞥してきた。


 こいつのことは事前に蜘蛛忍者から報告を受けている。四国史とやらの第二勢力だ。


 自信家の武人にして、ドラゴンの生息する帝国の王子。


 バーンテッド帝国は元々知っていた。ドラゴンが出るような危険な土地なのに、何故か大国家で有名だったからだ。


 普通ならそんな危険な土地が、勢力を広げるのは難しいだろう。対ドラゴンに兵士がとられるので国力を保つのも難しい。


 だがこの学園が存在することで理解できた。ドラゴンが出るから、召喚できるから大国家だったのだ。


 百年前の神の日でうまくやって勝ち組になったのだろう。おのれ勝ち組め……!


「覚えておくがいい。我こそが、この竜皇ドラゴニア・バーンテッドこそがこの学園の勝者。そして世界の覇者となる。貴様らも感じるだろう、我が勝者たる者の力を」


 確かに力は感じる。だが勝ちとか負けじゃなくて、目に見える筋肉的なパワーと言う意味で。


「我の下につくことがこの学園で生き残る方法だ。いずれ気づくだろう、それを先に気づけた者は幸運だったとな。ムンッ!」


 ドラゴニアが力んだ瞬間、上半身の服がはじけ飛ぶ。そして彼の岩石のような肉体が惜しげもなく晒される。なんだあいつ化け物かよ。


「力こそ力だ。ならば貴様らが誰につくべきかは、おのずと分かるはずだろう」


 そう言い残すとドラゴニアは教壇から降りる。そして一瞬、俺をチラリと見た……気がした。


 いや気のせいだろ。接点なんてなかった上に、あんな奴に目をつけられるなど御免被る。


 そしてドラゴニアは上半身裸のままで教室から出て行った。


「あー今日も終わったなぁ」

「お疲れー」


 残された生徒たちは特に何事もなかったかのように、再びわいわい騒ぎ始めている。なんでだよ。


 あれだけやりたい放題で帰りやがられたのだが、無反応というのはいったいどういうことだろうか。


「最初は驚きましたけど……流石に何度も同じこと聞いていれば慣れますよ」

「……あいつ毎回言ってるの? マジで?」

「はい。あの人が出席している時は、授業の終わりに常に。日課みたいなものですよね」

「じゃあ毎回制服弾き飛ばしてるの?」

「はい」

「ヤベェ」


 ……毎回、世界の覇者になるとか言ってるのか。ある意味すげーな。


「ふふっ。ロンテッドさん、彼のことをどう思いますか?」

「イリア様の発言です! 心して答えやがれです!」


 するとホークエールとアーミアが話しかけてきた。


 目立ちたくないので出来れば来てほしくないのだが……。


「……少なくとも凡人ではないと感じましたね。タダ者ではないでしょう」


 嘘ではない。あんなのが平凡でいてたまるかよ。


 というか周囲の耳もあるから迂闊なことも言えない。


「そうですね。彼は現状、このクラスの第二勢力ですから。でも私は負けるつもりはありませんよ」

「そうですそうです! イリア様の方が絶対に強いです! あんなの殴り勝てるですよ!」


 あの筋肉の塊相手に殴り勝てるとしたら、イリアはもはや人智を超えたナニカだろう。


 少なくとも人間ではないと断言できてしまうぞ。


「アーミア、いくらなんでも無理があります。そもそも力で勝つ必要もありませんから」

「た、確かにそうです!」

「それでロンテッドさん。改めてお誘いですけど私の下につきませんか?」

「……悪いですがまだ決められませんね」

「ふふっ、それは残念。ですがあまり悠長にしている時間はないかもしれませんよ?」


 ホークエールは小さくほほ笑むと、俺から離れていく。アーミアはそれについていこうとしてズッコケたが、急いで立ち上がると頑張って追いかけていく。


 ……まあいい。クラスの第二勢力の生徒であるドラゴニア・バーンテッド、その人柄を直接見れたのは幸運だった。


 自信家な男と報告は受けていたが、そんな簡単な言葉で済ませられる者ではないことが分かったからな。


 確かに自信家だが、自信過剰の間違いだろう。


「ロンテッドさんは、ドラゴニアさんのことをどう思われます?」

「……ここでは筆舌に尽くしがたいですね」


 表面だけ端的に言い表すならヤバイ馬鹿。だが馬鹿と天才は紙一重とも言う。


 少なくとも常人ではないというのは理解できた。覇者となるような男は、凡人の類ではないだろうしな。


 それに見た目がかなり強そうなのも大きい。やはり大勢力を束ねる者ともなれば、配下を取りまとめるカリスマが必要だ。


 カリスマにも色々とあるが、やはり強く頼りになりそうなのは大きい。支配者たる王に直接の武勇はなくてもいいのだが、あるにこしたことはないからだ。


 それに生徒の前で勝者になると宣伝するのも、ある程度は理にかなっている。


 威風堂々と勝者になると告げられたら、惹かれる生徒だっているだろう。いなかったとしても大したデメリットはない。


 それにあの筋肉自体が、あの男の強さの象徴としてこれ以上ないアピールになるのだ。


 もし細身の野郎があの男と同じ言葉を吐いても、説得力というか力で圧倒的に劣る。


 これらを全て狙ってやっているのならば、色々な意味で恐ろしい人物だろう。

 

 ドラゴニア・バーンテッド……要注意人物だな。


「ちなみに四大勢力の残りの一人は出てないのか?」


 もうすぐ戦いが始まるので、四大勢力は全員知っておきたい。だがベールアインは首を横に振った。


「今日はいないみたいですね。というかドラゴニアさんが授業に出ている時は、その人はいつも休んでます。それで二人が毎日入れ替わりで、授業後にスピーチしてます。実質交代制みたいなものですね」

「なんだよその謎に仲いいの……」


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