第13話 学内バザー


 俺たちは校舎の中庭にいた。


 ここが学内で決められたバザー会場らしいのだが、なんとご丁寧に長机や椅子が多く並べられている。


 明らかに露店を意識した備えなので助かるが。時刻は昼飯時、食事を売るには絶好の機だ。


「ケーキはいかがー? 甘いよー」

「うちの剣は名品なことで有名だよー」


 俺たちの他にも生徒による露店が十個くらい出ていて、しかも客側の生徒も結構多く三十人ほどいる。


 ……百人しかいないクラスひとつなのに? バザーの出席率高すぎないか? 四割ってどれだけ暇人しかいないんだ?


 というか見覚えのない生徒がいるような……いや俺がクラスにあまり出てないから、覚えていないだけなのだろうか。


 気になるところではあるが、考えていても進むのは時間だけか。


 俺は箱庭を呼び出して手を突っ込み、塩おにぎりを机の上の箱の中に置いていく。


 とりあえず三個ほど出したが買ってもらえるだろうか。後は値札、ついでにクソイワも出しておく。なにかあったら情報を確認しよう。


 このおにぎりの値段は、今日はひとつ100魔貨にしておいた。かなり割高である。


「さあいらっしゃい! うちの箱庭は異世界のモノなので、不思議な美味しい食べ物ですよ! パンなどとは一線を画す、白き綺麗な穀物を固めた食べ物ですよ!」


 さっそく大声で叫びつつ宣伝を開始する。


 このおにぎりというの、見た目が白いというのは利点だ。白いモノは綺麗に見えるので、少なくとも悪く見られない。


「ベールアインさん、貴女も宣伝を手伝っていただけると嬉しいです」

「……」


 だがベールアインは唖然とした顔で俺を見続ける。手伝ってくれるんじゃなかったのか、別にいいけど。


『内面と上っ面が違い過ぎて混乱してるんですよ。少しくらい差を縮める努力をするのですクソガキ』


 そんなもんとっくの昔に試して、内面が変わらかったんだよクソイワ。


「ベールアインさん? 体調が悪いようでしたら、自室に戻ってお休みされてもいいのですよ? ご無理はなさらず」


 などと上っ面善人すると、ベールアインは我を取り戻したように慌て始めた。


「……はっ!? す、すみません手伝います!? い、いらっしゃいませー! 美味しいおにぎりですよー!」


 そうしてしばらくすると、金づる生徒の一人が俺たちの露店に寄ってきた。


「ふーむ? 変わった食べ物だな。三角で白いが、パンとはまるで違うように見える。どんな味だ?」

「塩味で柔らかく極上の美味でございます。白き美しさは、貴方様のような貴い者が食べるに相応しきかと」


 心にもないお世辞を言いながら宣伝すると、男は少し悩みながら。


「食べてみたい気もするが、しかし100魔貨は高いなぁ」


 生徒はそう言いながらチラリと俺を見てくる。これは暗に値引きして欲しいと言うことだ。言ってないけど。


 なにせ大半の貴族は値引き交渉などしない。彼らにはバカみたいなプライドや外聞がある、それに裕福なので全部合わせてする必要がない。


 だがこの学園では魔素は貴重だ。割り引けるなら引きたい、でも値引き交渉を自分から持ち掛けるのはこれまでのプライドが……と。


 しかも生徒はまだ若いボンボンなので交渉下手が多いはず。ならば……!


「……わかりました。では90魔貨はいかがでしょうか?」

「うーむ……」

「80魔貨では」

「やめておこうかな……」

「お、お待ちください! でしたら50魔貨ではいかがですか!?」

「なんとそんなに割引してくれるのか!」

「はい。売れないと困るので……あ、いやでも下げ過ぎたかも……やっぱり、今のはなし……」

「買った! ほら魔貨だ! もう50魔貨で買ったから拒否はダメだぞ!」


 魔貨を受け取っていっちょう上がりである。最初は高めにしておいて、一気に安くするのは単純だが効果的だ。


 そもそもこの米、一度箱庭に植えれば後は一日ごとに無料で手に入るからな。

 

 それを考えれば50魔貨でおにぎりひとつ売れたらぼろ儲けと。しょせんは金に綺麗な貴族のボンボンよな……!


 羨ましいねぇ! 金に綺麗で生きていけた奴らはよぉ!? くそぉ絶対に成り上がってやるからなぁ……!


「ありがとうございます! お客様! どうぞひとつお取りください!」


 ニコニコ笑いながら、おにぎりを手に取る金づるに愛想を振りまく。


 ……ん? なんかまた背筋がゾワッとしたような……おかしいな、誰かに見張られでもしてるのか? 


「ふむ、やはり見た目通りに柔らかいな。さて味の方はどれどれ……」


 金づるはおにぎりを一口食べて、


「……ほう、美味いな! 歯で軽く噛めばすぐ小さくなるし、塩味との相性が絶妙だ。パンとはまた違っているが、明確に別の美味さがある。それに小さいわりに腹が膨れるな」


 満足げにグダグダと感想を述べ始めた。貴族ってグルメ気取りが多いからなぁ、別にいいけど。


 このおにぎりという食事、大きさの割に腹持ちがいいんだよな。そして何より柔らかいことがいい。


 パンはだいたい硬いからな。食べやすいおにぎりは重宝されるだろう。


「ふむ。残りの二つもくれないか? 明日の食事にする。50魔貨でだ」

「……今日だけですよ? ありがとうございます。どうぞお取りください!」


 金づるはさらに二枚の魔貨を俺に渡して、そのままおにぎり二つを取っていく。


 そして箱庭を呼び出しておにぎりをしまった。なるほどそういう使い方もあるのか、勉強になる。


「いい買い物をした。また売ってくれると嬉しいよ、ははは」


 そう言い残して去っていく金づる。


 ……あの生徒、やっぱり見たことない気がするなあ。次に授業に出たら確認してみるか。


「ロンテッドさん、よかったですね! 素敵でした!」


 そんなこと考えてると、ベールアインが謎に褒めてくる。


 売れたことにおめでとうを言われるならともかく、素敵ってどこにそんなポイントがあった?


「えっと、なにが素敵だったんですか?」

「え? ……なにが素敵だったんでしょう?」


 可愛く首をひねるベールアイン。知らんがな。


 しかしこの少女、見た目が可愛いお嬢様なのとお人よしであることしかわからない。


 なんかこう人間味薄くね? などと思いながら、箱庭からおにぎりを三つほど取り出して展示する。


「君、おにぎりをくれないか?」


 するとまたお客がやってきた。


 さっきの金づるの言葉に興味を持たれたのか、他の生徒たちも俺の露店をチラ見し始めている。

 

「ありがとうございます! 今ならなんと、50魔貨です!!!!」


 とりあえず売れるだけ売ることにして、やってくる金づるどもに売りつけていく。


「ムムッ! これは新触感……パンに飽きていたところだ!」

「これなら干し肉と一緒に食べてもいいかもな。合いそうだ」

「いっそスープに入れてみてもいいかもな」


 全体的におにぎりの評判はよく、さらに他の米の食べ方を考案する奴まで出てきた。確かに美味そうな気がするな、いかん腹がグーグーなってきた……。


「おいベールアイン。実際のとこ、米の他の料理ってなにがあるんだ?」

「例えばお肉をのせてどんぶりとか。スープと米を合わせて雑炊とか」

「ふむふむ」


 なるほど、米という作物は可能性の塊のようだ。


 そうしてさらに売りさばいていくと、さらに貴族たちから声をかけられていく。


「エンド男爵、頑張れよ。俺の領地も貧乏だから気持ちは分かるぜ。自分の分を我慢してまで、箱庭で取れたものを売ってるなんてな……」


 などと告げて帰っていく奴もいた。なおおにぎりは買ってくれなかった。金づるの方が幾分マシである、同情なんぞいらんから金寄こせ。


 そうしておにぎりは二十個分、1000魔貨ほどの売り上げをもたらした。


 うん、これは大きいな。毎日売れてくれるならば、砂金に続く大きな収入になる。


「あ、ロンテッドさん。私にもおにぎりをひとつ頂けませんか? お腹がすいてしまって……100魔貨はこちらに」

「いらん。手伝い料だ」


 俺は箱庭からおにぎりを取り出して、ベールアインに手渡した。


 実際のとこ、米がこれだけ売れたのにはこいつの力は大きい。見目がいいので客の目が惹かれて、その後におにぎりに移るからだ。


 チッ、見た目がいい美少女は得で羨ましいね。

 

「ありがとうございます!」


 そう言ってベールアインはおにぎりを受け取って食べる。遠慮しなくなったのは、俺にはしてもムダだと悟ったからだろう。


「よし店じまいを……」

「もし。少々よろしいですか?」


 もう食事どきも終わって撤収しようとしたら、ひとりの少女に声をかけられた。


 身長は低く150センチないくらいだろうか。ちなみにセンチなどはベールアインから習った。結構使い勝手がいい単位なので重宝している。


 髪は肩で切りそろえられていて、なにやら知的そうな見た目だ。


 そしてその隣にはポニーテールの少女。こちらはさらに身長が低く、先の少女と並ぶと頭一つ分ほど違う。ガキだ。


 チッ、帰ろうとしたのに……まあいい。金づるには愛想を振りまいておこう。


「はいもちろんでございます! おにぎりならひとつ100魔貨です!」

「ふふっ。そちらにも興味はありますが、私が気になるのは貴方です。少しお話しませんか?」


 金づるじゃないのかよ。じゃあ用はない帰れ。


「申し訳ありません、授業に出なければならず……」

「貴様、授業になど出ていないです! 調べはついてるですよ!」


 するとポニーテールの少女が偉そうに告げてきた。


 さっさと帰りたいのに邪魔するんじゃねぇよ! そもそもてめぇら何者だよクソが。


 などと考えていると、ベールアインが目を見開いて驚いていた。


「ろ、ロンテッドさん! この人、イリア・ホークエールさんです! ほら先ほどお話した四国史の一人の! 賢鷹の目の!」

「おや、私のことを知ってるのですか? それなら話が早いですね。お初にお目にかかります、イリア・ホークエールと申します」


 ……最悪だ。しばらく関わる気のなかった奴のひとりが、向こうから仕掛けてくるとは……。


 というか何でだよ! こんな偉い奴に目をつけられるのはまだ早すぎるだろ!?



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