第7話 魔物召喚


「魔物召喚ね。前の箱庭ではとりあえずゴブリンを召喚したが」

『あれは最低クラスの雑魚魔物です。ご存じでしょう?』

「そりゃそうだが」


 俺の元の世界でもゴブリンはいたが、あいつらは雑魚だ。


 一匹だけならそこらの農民でも駆除できるくらいだからな。数が集まったら厄介ではあるが。

 

「実際のとこ、魔物召喚でも日本は強いのか? 魔素がない土地なら魔物はいないと思うんだが」


 先ほどこの石板が見せてきたランクでは、魔物生息はSと最高評価ではあったが。


『強いです。魔素がないので魔物は存在しませんが、動物を魔物化して召喚できますから。そして日本は召喚できる魔物の種類が、以前とは比べ物にならないほど多いです』

「なんでだ?」

『北の三角に近い島は雪国で、南の少し離れた島は南国なんです。なのでその気候でしか住めない魔物を飼えます。そして豊富な砂金によって、ショップで強い魔物を購入することも可能でしょう。また日本固有の魔物が召喚可能です』

「固有の魔物って?」

『妖怪と呼ばれる種別です。妖怪は本来実在が怪しい伝説の類なのですが」


 さっき聞いた箱庭ルール的には、動物じゃないと召喚できないのでは?


『ただこの妖怪の場合、大半は元ネタがあるのですよ。例えばカマイタチと呼ばれる妖怪は、風によって肌が斬れる現象が伝説化したものです。他には猫が妖怪化して猫又など。彼らは存在したことになるので、魔素によって魔物化されてしまうようです』

「いいのかそれで」

『どうやら日本に魔素がないので、魔素召喚が少しおかしな挙動になっているようです。また他には武士や忍者と呼ばれる存在がいて、それも魔物化することで召喚できます』


 妖怪、武士、忍者……どれもよくわからないが強いのか?


 そんなことを考ええていると、石板が魔物召喚可能リストとやらを見せてきた。


 そこには妖怪などの一例が記載されている。ふーん、面白そうな魔物が結構いるな。


 ただ全体的に必要魔素が高いが……これは現象とかの魔物化なので、より多くの魔素を使うとかそんな感じだろうか。


「じゃあ試しにこいつを召喚してみるか」


 俺は河童とやらを求めるように念じると、箱庭の中の川に数匹の小さな人型が現れた。


 すると河童の詳細情報が石板に表示されていく。


 こいつらは水がないと生きられない代わりに、力自慢でかなり厄介な存在らしい。水棲のくせに陸でも問題なく活動できるばかりか、そのパワーはクマすら投げ飛ばすとか。


 しかもそれでいて鈍重でもないと。ただ陸上だと頭の皿が渇くので、長時間の活動は厳禁らしいが。


 だが水中ユニットとして強い上に、陸上でもある程度使えるので強い存在である。こいつを使えるというだけでも、この日本という土地に価値がありそうだ。


 しかもこの河童は氷山の一角に過ぎなさそうだ。他にももっと強そうな魔物が多く記載されている。


 例えば風を自由に操る天狗とか。もちろん妖怪以外にもいて、炎と毒を併せ持つ蛇であるフレイハブだとか。


 さらに北の方では一転して氷系の魔物が召喚できるそうだ。雪女とかが代表的だそうで、こいつらは冷気を発することで敵を凍らせるらしい。


『他にも魔物にも劣らぬ強さを持つモノたちがいて、それらを魔物化してより強い存在にして召喚できます』

「どんな奴らなんだ?」

『ひとつは機械と呼ばれるモノです。命令で動くためゴーレムと同じ扱いとなりまして、魔物化させることで召喚できます。言うならばマシンゴーレムでしょうか』


 マシンゴーレムねぇ。


 いまいちイメージがつかないが、それなりに強いのだろうか。


『そしてもう一つ、こちらは日本というよりもこの世界特有の存在になります。ドラゴンです。日本にはドラゴンがいました』

「ん? ドラゴンって魔物だろ? 日本は魔素がないはずだが」


 魔物は魔素によって生み出される存在だ。逆に言えば魔素がなければ魔物は生まれない。


 例えばゴブリンが増える時、母体に子種だけじゃなくて魔素も植え付ける。狼が魔素を浴びて変じるダークウルフなんてのもいる。だがどれも魔素なしでは生まれない。


 魔素を持つ魔物は、普通の動物よりも遥かに強い。魔素によって身体が強化されるからだ。


 そしてドラゴンは膨大な魔素によって構成される、最強クラスの魔物。


 そんな存在が魔素のない土地にいるはずがない。


『いえ間違いなくいました。恐ろしい竜たちが』

「恐ろしい竜?」

『彼らは魔素を浴びてない動物でありながら、ドラゴンにも劣らぬ者たち。いや下手をすればドラゴンよりも強い存在でした。なにせ山ほどの高さの個体もいたくらいですから』

「そんなバカな……」


 ドラゴンの全長は伝説に残る巨竜でも二十メートルと聞いている。その三倍の体躯などもはや想像もつかない。


『その恐ろしい竜たちは、恐竜と呼ばれています。日本では召喚できるのですよ。しかも魔素によって強化された魔物にした状態で』

「……どれくらい強いんだ?」

『極めて強いです。と言っても分かりづらいので、まず他の魔物の強さと比較しましょうか。まず魔物のランクは土地と同じくG~Sで表現します』

「同じ評価なのか」

『そのほうが分かりやすいですから。平均的なドラゴンの強さがBとなります』

 

 平均的なドラゴンと言っても、魔物の中では相当強いはずだ。


 なにせドラゴン自体がトップクラスの魔物なので、その中の平均なら相当強力な存在になる。ようは選りすぐりの近衛騎士団の中の平均は、そこらの騎士団のトップより強いみたいな。


 そんなドラゴンが召喚できる土地ならば、当然ながら優れているに決まっている。


 なにせ元の世界でもドラゴンはそうそういない魔物だったからな。


『そして伝説に名を残すようなドラゴンでSランクとなります。ほら国をひとつ滅ぼしたとかの』

「Sランクは災害みたいなレベルなのか。じゃあその恐竜を魔物化したのはどれくらい強いんだ?」

『測定不能です』

「……は?」

『恐竜の中でも強い存在を、さらに魔物化すればSランクをも超えた魔物にできるでしょう。元からドラゴンの強さを持つ存在を、さらに魔物化するのですから。その分、召喚には恐ろしい量の魔素が必要になるでしょうけど』


 なるほどな……本来ならドラゴンは魔素によって生まれる魔物だ。


 だがその恐竜はドラゴンに劣らない存在でありながら魔物ではない。


 そんな恐竜が魔素によって強化されたら……。


「ククク……!」


 改めて身体が震える。俺は今まで、他の貴族どもと戦える立場になかった。


 だからずっと、本当なら俺の方が優秀だと叫ぶしかなかった。ずっと見下されてながら、怨嗟を溜め続けてきたのだ。


 だが機会を得た。今の俺の領地ならば、この日本ならば他の貴族の領地にも引けを取らない。勝てる自信がある。


 恵まれすぎた資源に土地、魔物……箱庭が多少狭くてもまったく問題ない。


 だが逆にこれで他の奴に負けるなら、俺は口先だけで他の奴と同じ……いやそれ以下だろう。だからこそ、負けるわけにはいかない。


「見ていやがれ! 俺が! このロンテッド・エンドが! お前らを見下す番だ貴族ども! この積もり積もった怨み、絶対に晴らしてやるからな……! ククククク!!」

『人の皮を被った怨霊と言うのは、思ったより的確な評価だったのですかね』

「なんとでも言え! 逆恨みだろうがなんだろうが! 復讐してやるっ……! この溜まりに溜まった嫉妬を!」



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妖怪、忍者、武士、ロボット、恐竜と闇鍋みたいになってる。

でもこれ全部日本に揃ってるんですよねこわ。

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